その44 擬態していた従順なる機械魔獣
色白が女と分かった以上、私の溺愛作戦が終焉へと向かっている……。
イメチェンの力で性転換させてもいいが、それでは根本的な解決にはならない。
私は、私は一体どうすればいいんだ……。
「あ、あの……新魔王様? なんで涙を流してるんですか?」
「きっとあれだよ。ゲームで圧勝したことに、酔いしれたあまり、涙が出ちゃった的な?」
「なる程ー」
勝手に理由をこじつけやがった右腕には、脛を的確に殴ってやった。
悶絶する気色悪い声が耳障りだが、もはやどうでも良かった。
いや待てよ……性別にこだわる程、私の心は狭くなっていたか?
否あり得ない、溺愛の対象は生き物以外も存在するんだ。
色白もゲームをこよなく愛し、こうした引き籠りの場で暮らしている。
これは溺愛と同類と言っても過言じゃない。
だから私もいちいち性別なんて気にせず、色白を溺愛すればいいんだ。
この思いを伝えるべく、色白を強制的に振り向かせ、柔らかい頬っぺたを手で挟んでやった。
「ふぇ? にゃ、にゃんでしゅか?」
「色白、お前は今から私の妹だ」
「え」
「え。ぶ、ぶっ飛び発言にも、程がありませんか? 気は確かですか勇者様?」
「これからは、衣食住を共にして行くぞ。分かったな?」
《ガガガガッ! ビビビ! ご主人様の危険信号を察知しました! ご主人様の危険信号を察知しました!》
急に部屋が赤く点滅して、うざいサイレンと一緒に、機械音声が聞こえ始めたぞ。
黙らせようと破壊衝動に駆られたが、どうにか思い止まり、色白に訳を聞いてみた。
「この音はなんだ」
「し、新魔王様と元魔王さんは、一度部屋の外に避難して下さい!」
「お、おい」
色白の非力な背中押しで、強制退室させられた私達は、部屋外から中の様子を黙って見守ることにした。
先程まで遊んでいたゲーム機に、二つの赤い目玉が現れたぞ。
それに周囲の壁も変形して、忙しない雑音と共に、一匹の機械仕掛けの獣姿が姿を現した。
この狭苦しい引き籠り部屋は、擬態していた機械獣に囲まれていたという事か。
《危険対象者発見! 人間の女を直ちに、四階層から排除する!》
「お、落ち着いてモモちゃん。ほら、大好きなソフトフードだよ」
《有難き幸せ! バリモシャバリモシャ!》
機械だが色白のペットみたいだな。
餌付けシーンも中々に可愛らしかったぞ、ふふ。
しかしながら、コイツのせいで返事を聞きそびれたんだ。
これ以上邪魔するのなら、秒でスクラップにしてやる。
「色白。コイツはなんだ」
「ご紹介しますね。この子はモモちゃんで、こんなゲーム機っぽい見た目ですけど、ちゃんとした魔獣なんです」
《ご主人様に近付くな! この変態女人間!》
「……物理で黙らせていいか?」
「だ、ダメです!」
身を挺してまで機械魔獣を庇うのか……な、何故私の気持ちを分かってくれないんだ! 色白ぉぉお!