その41 四階層 トラップダンジョン
乳臭い三階層を後にし、エレベーターで四階層へと到着した。
確かここは、近所迷惑も甚だしいガチャガチャとした機械音が、クソ程五月蝿いんだったな。
「えー四階層はトラップダンジョンになります」
「音が鬱陶しい。ここ諸共、消し去っていいか?」
「何でも力で解決すると思わないで下さい! ほら、裏事情に行きますよ!」
力で解決しない事なんてあるのか?
少なくとも、私の人生経験上は、力に勝るものはなかったぞ。
所詮、右腕は平和主義精神を盾にする、とんでもないヘタレなんだな。
同情の余地はないが、せめてもの情けとして、鼻で笑ってやる。
「ん? 今笑いましたか?」
「気のせいだ」
「そう……ですか?」
ぷぷ、真意を分からずにいる、お惚けフェイスを見てしまった。
私がこの階層を攻略した際は、嵐の如くトラップが本気で殺しに掛かってきたな。
まぁ、絶対的な防御持ちの私からすれば、ただの障害物競走に過ぎなかったがな、はは!
そんなこんなを思い出しつつ、右腕を先導に機械仕掛けが丸見えな裏通路を通り、突き当りの扉へ着くと、色鮮やかな光が漏れ出していた。
また騒がしい連中が待ち受けてるなら、パターンとしては飽きるぞ。
「じゃあ開きますね」
何だこの狭い空間は……六畳一間に物がごみごみして、その中央奥で背負向ける何者かがいるぞ。
「……えいえい! ……あ、それはずるい!……」
アイツは何だ。
一人でゲーム画面に向かって、ブツブツと気持ち悪い。
それに、私達の存在に気付いていない素振りなのが、何よりも気に食わない。
「チッチッチ……勇者様は気付いてませんね? あの方こそ四階層の主人、オートマター君ですよ!」
「知らん。お、気付いてないと思ったら、ヘッドホンをしてやがるのか」
「コンテニューっと……わ?! な、なに?!」
風体は目元のクマが酷い子供、肌も白々して、このゲーム三昧っぷり。
それに他人と久し振りに接したのか、分かり易い動揺っぷりから、コイツが引き籠りなのはすぐに理解できた。
「こんにちは! オートマタ君!」
「こ、こんにちは……ど、どちら様ですか?」
また一から名乗らないといけないのは、そろそろ面倒になってきたな。
「……右腕。今度から貴様が、私の分まで自己紹介しろ」
「はいはい。えーワシは元魔王で、こちら現魔王様」
「ひゃ! ……な、なんでそんなビックスターのお二人が、僕のところへ?」
ビックスターとは嬉しいことを言ってくれるじゃないか。
よくよく見れば、コイツは中々可愛らしい顔をしてるな……女装が似合いそうだ。
「まぁ、各階層の挨拶回りって感じかな? ですよね?」
「色白は今、何をしてたんだ?」
「ちょっと勇者様? せめて相槌ぐらいして下さい」
「ケッ……で、何をしてたんだ?」
「れ、レースゲームです。様々な乗り物で、コースを周回するものです」
レースゲームか、確かに画面には乗り物で、競い合うデモ映像が流れてるな。
見た感じだと、人間の世界にあるレースゲームと同じ類みたいだ。
「あ、勇者様。親睦を深めるのに、一緒にプレイしてはどうですか?」
「妙案だな。さては貴様、右腕の皮を被った別人だな?」
「何でそうなるんですか」
「え、えっと……今準備するんで、適当に座ってて下さい」
ろくに座る場所がないが、右腕をまた椅子代わりにしてやるか。