その37 牛魔王(メス)の特濃ミルク
よくよく考えれば、右腕を爺顔に戻すメリットがないと思い出し、代わりに尻を蹴ってやった。
「いだぁああ?! な、何すんですか?!」
「ちんたら歩いてるからだ。口より足を動かせ」
「だからって……分かりましたよ」
ぶーぶー小言を呟いてるようだが、私の耳にはちゃんと入ってるからな。
これだから勇者様は怖いんだ、だとか、勇者様の方が話してるじゃん、だとか抜かしている。
口は禍の元と、人間の世界のことわざがあるが、まさに右腕はそれに該当する。
貴様の数々の失言は、私の記憶にインプットされているんだ。
いっその事、全てを書き起こして、右腕が尻に敷かれている妻とやらに送るってやるか。
右腕のガクブル姿が容易に浮かび、内心ほくそ笑んでやってる中、甘く妖艶な香りが鼻に来た。
奥へ進むにつれ、その香りが強まり、突き当りの扉までやってきた。
扉を通り越してまで、香りが漏れ出しているな……一体何なんだ?
右腕に扉を開けさせると、熱気とも違うムワっとしたピンクの空気が、一気に流れてきた。
「相変わらずムンムンですな~ほほほ」
「キモいぞ貴様。中に何がいるんだ」
「あら? 誰か来たの?」
おしとやかな女子の声が、ムワっと空気の奥から聞こえたぞ。
よくよく見れば、人影らしきシルエットが見えるが、大きさが巨人並みだぞ。
「こんにちは! 今そっちに行きます! ほら、勇者様! 早く早く!」
「指図するな」
奥へ歩み度、シルエットが徐々に鮮明になり、私は目を疑った。
凄まじい大きさの乳房を持った、数十m級の角生えおっとり女子が、くつろいでいたからだ。
牛柄のビキニ姿だが、乳房の大きさもあってか、肌色面積の方が異様に多く感じる。
「こちら、三階層を牛耳る牛魔王ちゃんです!」
「こんにちは♪」
「あ、あぁ……人間の成りなんだな。てっきり牛頭と同類かと思ったぞ」
「ミノタウロスの雌は、こんな感じなの♪」
だらしない顔の右腕は、どうやら牛女の乳房にしか目が行っていないみたいだ。
これまで嫌悪感を覚えたのは、初対面時以来かもしれないな。
「ところで♪ お二人は誰なの♪」
「ワシは元魔王です! こちらの方は、新魔王様です!」
「よろしくな、牛女」
「よろしくね新魔王様♪ 元魔王様♪」
何という懐の広さだ。
あの右腕を元魔王だと認識しているぞ。
この牛女の女子力は、もしや私が思っている以上に壮大である可能性が高い。
「せっかく来てくれたんですし、私のミルクを飲んでって下さい♪」
「牛女のミルクだと?」
「ほら、あれですよ。昨日シュークリームに使った特濃ミルクですよ」
「あれか」
私の嫌な思い出を、よくもまぁ飄々と口にできるな、コイツは。
まぁ、牛女自体には悪はない、ご厚意に甘えて飲んでやるか。
ジョッキに並々の注がれた白濁液を、牛女から手渡され、腰に手を構え景気良く一気飲みしてやった。