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その23 キノコ紳士の勧め

 私の愛剣で、右腕の脱毛を試みようとしたが、毛が付着するのが嫌で止めた。

 想像しただけで、鳥肌が立ってしまうぞ……うぅ。


「あのハゲの生死はさておき、新魔王様の寝床でしたね」

「期待に応えられるのだろうな?」

「えぇ。こちらになります」

「さぁ!行きましょうか!」


 貴様は元部下に、生死などどうでもいいと目の前で言われたんだぞ。

 何故そこまでケロッとしていられんだ……メンタルが謎過ぎる。


 淫猥紳士のあとに続き、森の奥へと進むと、森が段々と色合いがピンク色に変わっていた。

 ムーディーな空気感だな、どんな寝床かワクワクだ!


「着きました。こちらキノコ胞子ベッドになります」


 成人の人間が余裕で寝っ転がれる、平らな巨大キノコか。

 触れ心地はふかふか、匂いも嫌いではないな。

 が、触れる度にピンクの胞子が発生するのは、いけ好かない。


「このピンクの胞子はなんだ、毒か?」

「違います。この胞子は催淫効果があり、夢の中はそれはもうームラムラです」

「ムラムラですって! 勇者様!」

「そうか。この森は燃やしてもいいんだな」

「おやめになってー!?」


 この淫猥キノコは所詮、紳士の皮を被った、性欲の偶像だったか。

 安眠にムラムラは不要だし、私をどれだけ欲求不満だと思っているんだ。

 性欲なんぞ、遥か彼方へ置き去りにしてやったわ。


「お気に召さなかったようで。では、こちらへ」


 コイツ……燃やすと脅しても尚、偽善の紳士精神を貫き通すのか!

 軽蔑を通り越して、尊敬するぞ!

 すぐ近くのキノコへと案内され、先程とはまるで別キノコであった。


「マッサージキノコベッドになります」

「おい。手らしき突起物が、寝床に無数に生えているぞ」

「それもその筈です。マッサージとは、気持ちよすぎて眠ってしまうものですから」


 なるほどな、だから人がピッタリ納まるような大きさなのか。

 しかし、淫猥紳士の事だ。

 またムラムラに酷似したものなのだろうな。


「ワシが体験してもいいかな?」

「どうぞ。キノコの中央にお座りになって下さい」


 何故貴様が気持ち良くなるんだ、私が先……淫猥紳士が私を止めて来たぞ。


「なんだ」

「あの後頭部ハゲが、今から見苦しい姿になります」

「ほぅ、やはりムラムラ解消系か」

「得意分野なもので」


 ドヤ顔で眼鏡をクイってするんじゃない、ムカつく。

 して、お見苦しい姿になるのは非常に気になるな、是非とも見学しようじゃないか。


「まだマッサージにならないんですかー?」

「マッサージ開始、と仰って下さい」

「了解!マッサージ開始!おほっ……」


 秒で右腕のいる範囲の音を、消させて貰った。

 これから先の反応は、右腕のビクンビクンと跳ねる姿から、容易に想像可能だ。


「何かしました?」

「アイツの周りを、消音にしたまでだ」

「なるほど。それにしても、音無しだとシュールですね」

「絵面がとにかく醜くて仕方がない」


 当の本人は快楽に身を委ねているのだろうが、傍観者からすれば見る拷問だ。

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