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その22 キノコ紳士

 ほろ酔い気分で渓谷を後にし、時刻はすっかり陽が沈み切っていた。


 ほぉ……紅い月が夜闇空を彩っているな……。

 無性に団子が食いたくなってきた、あとで持ってこさせるか。


「おい右腕、ちんたら歩くな」

「もう疲れましたよー……こき使われる身にもなって下さいー」

「疲れたのは私の方だ」


 疲れは一切ないが、私は貴様の城へ攻め込んでから、ぶっ続けで動いてるんだ。

 数年の長旅も相まって、今は究極のゆとりを求めている。


 究極のゆとり……それは地べたではなく、野晒しでもなく、安眠のとれる寝床を意味する。

 つまり、今日はもう切り上げて眠りたいんだ。


「いいか右腕。魔王城見学は後日に回す。寝床へ案内しろ」

「ねどこ? ……そうだったぁ……」


 貴様は日に何度、目的を忘却すれば気が済むんだ……。

 ショック療法でいいなら、頭をフルスイングで吹き飛ばし、新しい顔をくっつけてやる。


「あ、おすすめな場所あります!」

「なら早く案内しろ」


 右腕は近場の鬱蒼とした森へ、向かい始めていた。


 私の直感が正しければ、コイツは寝床を真面目に探そうとしていない。

 仮に寝床があったとしても、陰湿な気分が邪魔をして寝はしないだろうな。


「あ、見えて来ました!」


 視界の開けた先では、色とりどりに光り輝く、幻想的なキノコの群生地帯があった。

 中々に面白いじゃないか、少しは褒めてやるか。


「えーっと、あの方はどこにいるかな?」

「おい。私は相部屋を許さないぞ」

「まぁまぁーただキノコ森の長に、挨拶したいだけですんで」

「誰か私をお呼びで?」

「来た来た! こっちこっち!」


 貴様は何故、若い女子のような動作をするんだ。

 さて、この陰湿な森の主は、どんな奴な……な、なんだあれは!?


「彼はキノコ紳士です」

「ご機嫌麗しゅう、美しき方よ」


 なんと卑猥なシルエットの生き物なんだ!

 全身がバキバキなアレではないか!

 しかしながら、私の美貌を瞬時に見抜くとは、見る目がある。


「ほぅ、分かってるではないか」


 見た目こそ粗末なあれだが、中身はしっかりしてるみたいだ。

 切り刻んで原型を抹消するのだけは、止めといてやるか。


「光栄極みです。で、私になんか用でも?」

「この新魔王様の寝床を、提供してくれないかなーって、来た次第です」

「新魔王ですか……では、あのハゲはどこに?」

「灰となって空に消えた」

「さぞかし美しき最後だったのでしょうね」

「ワシって、何回死んだことになってるの?」


 何度死ぬかではない、魔王という貴様はもはや、存在していないんだ。

 そろそろ現実を見なければ、残りの毛根を脱毛してやる。

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