その16 魔獣ケルベロス
「ハァ……ハァ……マ、マオウシャマー……ゴシュジンシャマー……」
「ふっ……見事なまでに果てたな」
人間を模した形状なんぞ、造作もなかったな。
たった数か所弄っただけで、この有様だ。
きっとコイツも改心して、学ぶ努力を怠らなくなるだろう。
「キャーキャー! 破廉恥だわ! 勇者様の破廉ぶぜぇああああー……!?」
「租チ〇は黙ってろ」
ずっと雌犬みたいな声を上げやがって、耳が死ぬとこだったぞ。
お手頃な穴があったから、適当に投げ込んでやって精々した。
ともあれ、心身ともに汚れは綺麗さっぱりになったな。
やはり私はこうでなくてはな、ふふ。
「んんだあぁああ!? な、何してくれちゃってんですか!?」
「自力で這い上がってきたか。チッ」
「たく……って、もう着替えたんですか?」
「自動装備の力があるからな、着衣に時間は掛からん」
「いいなー」
指を咥え羨ましがったところで、未だにパンイチな貴様には不必要だろうが。
さぁ、ここにはもう挨拶も済ませたことだ、次なる場所へと案内させるか。
ん?
足元に何か違和感が……何かと思えば、女体スライムだったか。
「なんだ」
「モット……モット、ワタシノカラダヲ、ナグサメテクダシャイ……」
「駄目だ。次までお預けだ」
「オアズケ……ウヘヘ……」
思考がすっかりお花畑になってしまったみたいだな、それはそれでありだと私は思うぞ。
相手するかは分からんが、生贄として右腕を差し出すのもありだな。
女体スライムに見送られ、スライムの巣を去った私達は、次なる目的地へと足を動かすのだった。
「あのー勇者様。少し寄り道してもいいですか?」
「理由を言え」
「は、はい。実はワシの愛犬、ケルベロス君の餌の時間なんです」
ケルベロスか、大型魔獣に分類される、三つ首の漆黒毛の犬だな。
右腕には相応しくない、獰猛で残虐な魔獣だと、伝記には記されていた。
伝記の信憑性は低いが、ケルベロスには是非とも会ってみたいな。
「餌やりを許す」
「あざす! 急がなくちゃ♪ 急がなくちゃ♪」
陽気なスキップの似合わん奴だ、足を引っ掛けて無様にこけさせたい。
本城の両脇にある一方の、西別搭へと赴いたが、ここでは魔獣を管轄しているみたいだ。
獣臭いし、獰猛な鳴き声が四方八方から、耳を犯しに来ているぞ。
「劣悪な環境だな。消していいか?」
「……勇者様って脳筋ですよね」
「それがなんだ。私はこの魔王城の主だぞ」
「ソウデスネーあ、見えてきました」
コイツを切り刻んで、魔獣の餌にすれば一食分にはなるか。