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140/142

その140 女勇者の過去と今

 勇者は人類にとって誇り高き者、唯一人類を救える希望。

 歴代最強の勇者として生まれた私は、人生の全てを魔王討伐の為だけに生きてきた。

 一般人の人生とは断絶された、血の滲む訓練や教養の日々は、第三者からすれば拷問のようなもの。

 けど、私は苦にもならない程に、それが当たり前だった。


 そんな私は尊敬という名の、恐れの眼差しをいつも向けられ、孤独だった。


 心の拠り所だった、いつも明るく笑顔を絶やさなかった両親も、私が寝静まった夜更けによく、静かに悲しんで涙を流していた。

 何か悲しい事があったのか、当時の私には原因が分からなかった。


 勇者は旅立ってしまえば、魔王城には辿り着けず、道すがらで20歳という定められた運命の下で死ぬ。

 また次の勇者が同じ道を歩み、3000年以上も繰り返している現実。

 だから私の両親は、私が旅立つ最後まで決して悲しい顔を見せなかった。

 それが両親が私に出来る、せめてもの別れだったから。


 旅立って数年の時が経ち、誰も辿り着けなかった魔王城で、私は現魔王の口から、魔王の座を引退したいから代わりに魔王になってくれと言われ、受け入れた。


 魔の者と人間の立場に立つ存在になれば、少しの間は平和が訪れると信じたからだ。


 魔王となった事と、私が生存している報告をしに人間界に戻ると、次なる勇者になろう腹の子に、血の誓約を結ぶ時だった。

 人類は私が生きたまま姿を現した事を恐れ、血の誓約による勇者が生まれる事は無くなった。


 両親とも再会したが、悲しい涙を流すばかりだった。

 私が魔王になろうとも、血の誓約による運命で死ぬと分かっているからだ。


 勇者が必要でなくなった現状は紛れもない事実。

 だが、遥か先のいつの日か、また同じ道筋を歩もうとする時が来る。

 だから敵対同士の天界と魔界、人間界の三世界の境界線を無くし、統括すれば新たな道筋が築けると信じ、私は自らの意志で動いた。


 三世界統括まで時間は掛からなかったが、今になって新しい世界で生きたい気持ちに揺らいでいる。

 自分や両親の名前を知りたい、悲しい涙を流させない、今まで出来なかった事をとことんやりたい。


 そんなわがままは、最後の勇者である私にはあってはならないのが現実だ。


 今、目の前に置かれている、カオスを楽しませる事が最後の役割なのに、気持ちが揺らいだせいで、ろくな事になっていなかった。



 六階層の暗黒マーケットで歩き食うが、何も味はせずに美味い美味いと連呼。


 七階層のサキュバスハーレムで魔女にオークキングの勧誘成功報告と、こういった遊びもあるとカオスに教えたが、感情は籠っていなかった。


 八階層のケットシーの遊園地でも、愛想笑いや硬くなった笑みばかりを浮かべ、カオスに楽しんで欲しい顔をしていなかった。


 九階層の魔蟲の王国でアラクネママやママ達に癒されに行ったが、うんともすんとも響かなかった。


 最終階層のフィットネスジムでさえも、インプに子供達用のフィットネスの話が通った事を告げた以外、無気力状態だった。


 気丈に振舞う分だけ、余計に空回りしている自覚はある。

 なのに、カオスはサウナから上がってから、ずっと手を握ってくれていた。


 この時、ようやく自分が何者かなのかが分かった気がした。


 歴代人類で最強と言われた私は、ちっぽけな自分自身のわがままに気持ちが揺らいでしまう、どうしようもなく弱い人間なんだと。

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