その134 三世界統括の契り
主要人物が集った今、即興の円卓をヘカトンケイルに用意させ、それぞれ瓦礫を椅子にし腰を下ろしている。
ちなみに床を根こそぎ剥がしたものだから、ゼウスは絶句のまま固まっている。
どうせ数分後には、ユートピアは跡形もなく消えるのだから、残り少ない時間を噛み締めた方がいいのにな。
ともあれ、私は逸早く三世界平和統括の契りを結び、より良い世界を作らなければならないんだ。
咳払いを一つしただけで、ビクッと体を震わせるハデスと、未だに固まっているゼウスに向かい、私は発言した。
「これより三世界平和統括の契りを結ぶ。人間代表は私、天界代表はゼウス、魔界代表はハデス、以上3名の代表になる。見届け人はヘカトンケイルに、おまけの元魔王だ。異議を唱える者はいるか」
馬鹿とアホは頷くだけで言葉を放とうとしないが、無言は肯定として通させて貰う。
「続ける。まず契りを結ぶのに、私の魔力を沁み込ませた永久誓約書に、代表3名の血印と署名をして貰う」
魔力が尽きない限り、永久的に劣化も破損も消失もしない永久誓約書を、亜空間収納から取り出した。
周囲の微量な魔力を吸収出来る様にしてある為、永続的に魔力は途切れる事は無い。
もし何者かが永久契約書の魔力を絶とうとすれば、そいつを魔力として取り込む力が発動する。
つまり私を含めた、馬鹿とアホのコイツら以外は、永久誓約書に指一本触れられないって訳だ。
そういった説明をするも、やはり頷きしかしないゼウスとハデスに、血印と署名をさせた。
「……しっかりと血印と署名を確認した。今この場に三世界平和統括の契りが結ばれた事により、三世界の関係値は平等となった」
永久契約書から一筋の光が放たれ、天界に魔界、そして三世界へと拡散。
この光は三世界に生きる者すべてに、新たな当たり前を齎すものだ。
魔力が使えない人間が使えるようになり、天界と魔界の者に対する印象が当たり前になり、驕っていた地位や名誉が不必要なった当たり前が、主な中身になる。
他にも事細かな諸々も当たり前になり、三世界の平等が実現となった。
で、詳細をまとめた書類をゼウス達に渡し、ざっと目を通させた。
『……地位や名誉の撤廃……我ら王の意味がなくなるのか』
『そ、それだと一体誰が、それぞれの世界を纏めるのですか?』
「何を言ってるんだハデス。三世界が統括された以上、誰が纏めるなんて思想は不要だ」
今までは不平等な世界だったからこそ、誰かが纏め上げなければ、仮初の平等を保てなかったんだ。
そして三世界同士が互いに、異物だと認識し合う境界線があり、更に不平等が何時までも広まり続けていた。
だが、それも今では払拭されている。
まだ時間が経っていないから、多少の偏りはあるだろうが、その都度私が正しに行けばいいだけの話だ。
これらの言葉を聞いたゼウスとハデスは、戸惑いを隠せない顔で、私へ言葉を放った。
『……我らは一体、何を糧に生きればいいんだ』
「生きる上では皆一つだ。だから私達は王の名を捨て、あるべき名で世界を生きるだけだ」
『皆が一つ……ですか……』
当たり前だった地位や尊厳がなくなり、受け入れるのに時間は掛かるだろうが、コイツらなら納得するだろう。
無事に三世界平和統括の契りを結んだ矢先、とある事が私の背後で起きていた。
「うぐぅ……」
「ん?」
変なカエルみたいな声がすると思ったら、金縛りを掛けていた筈の右腕が、自力で金縛りを解除してやがった。
そのままフラフラと立ち上がってるが、どこか様子がおかしい。
「あ、頭がもうパンク……はぇ……」
膝から崩れたと思えば、口から黒い瘴気を吐き出しやがった。
ゲロるなら他所でやって欲しいもんだ。
だが同時に、この世とは思えない何かが、黒い瘴気から感じている。
「マズいです現魔王様! この雰囲気はカオスが目覚めます!」
「何? 刺激は何も与えて……ハッ! そうか!」
私とした事が、重大な失態を犯してしまっていた。
右腕は理解能力がかなり乏しく、小難しい事でも苦々しく苦しむ顔をしていた。
魔王城本城改善計画案の時は、氷漬けにされて不参加も同然だった。
魔び舎でボスサキュバスやデス太郎の話も、耳クソが詰まってるんじゃないかってぐらいに、理解できていなかった。
だが今は、強制的に小難しい話を聞かざるを得ず、情報を詰め込まれ過ぎて、パニックになっている。
つまり、カオスの目覚めは物理攻撃の抑制どうこうではなく、頭を使わせる事が何よりも、右腕にとって刺激になってしまっていたんだ。
最終章に入る絶好なタイミングだが、今は右腕から遠ざかる事を優先しなければ。