その122 魔ッキンリーの管理者イエティ
魔ルプス山脈を越え、魔ッキンリー山脈を越えようとしてる私達だが、右腕がいつの間にか遭難しやがり、ヘカトンケイルと探している最中だ。
豪雪と暴風が吹き荒れる、遭難待ったなしな環境ではあるが、私達の側から離れなければ、まず遭難する事はない。
のに、この有様だ。
千里眼は役には立たないし、サーモグラフィーアイも寒色一色。
生命反応もヘカトンケイルの奴しか見当たらん。
「現魔王様ー居ましたかー?」
「名残さえ見つからん。もう一層の事、魔ッキンリーの悪天候と豪雪景色を消し去る以外にない様だな」
「そいつはやめた方がいいですよ」
ヘカトンケイルによると、こんな最悪環境にも魔の者がいる為、消し去ってしまえば住処が無くなり、魔ルプス山脈に移住するしかなくなると。
私とした事が、そんな分かり切った事を忘れていたなんて、どうかしてた。
移住問題こそ抗争の火種になりやすいんだ。
私の勝手な判断で、ここらの魔の者を巻き添えにするところだった。
やはりここは、地道に探す以外の道はなさそうだ。
「すまんかったなヘカト……ん? ヘカトンケイル? どこ行った?」
つい数十秒前までいやがった巨体が、煙の様に消えるなんてあり得るのか。
そもそもヘカトンケイルなら、私に一言告げてから行動する筈だが、それが無かった。
「一体どうなってやがるん……ん? 足元が沈んでひょ!?」
地面がいきなり落下しやがった!
そういえば聞いた事がある。
こういった豪雪地帯の山には、豪雪に隠れた見えない裂け目があると。
もしかしたらヘカトンケイルも右腕も、裂け目に落下した可能性が高い。
そんなことを考えていると、裂け目の底が見え、華麗に着地。
軽く数百mぐらい落下したようだが、すでに落ちて来た穴が豪雪で埋まっているな。
まぁ私に掛かれば容易に脱出できるが、アイツらがここらにいる可能性がある以上、単独で出るわけにいかん。
とりあえず、光も何もない暗闇を照らすべく、ここら一帯に持続型フラッシュを発動。
「……ほぅ、氷の洞窟だな。声も反響するな」
ザッと一通り見た感じ、一本道しかないようだな。
景色を楽しみつつ道なりを進む事、早10分程、落下した痕跡を発見した。
そして痕跡の側に、紙切れが一枚置いてあったので、手にとって目を通した。
「なになに……落下してから早30分……勇者様とヘカトンケイル君の氷像を作り、気分を紛らわす。早く見つけてくれないかなー……」
だったら、その場から動かずに待っとけばいいだろうに、何故移動してやがる、あの右腕の奴め。
しかも両脇にある氷像のクォリティーが、抽象的過ぎて、すぐに粉砕してやった。
下らん事に時間を費やすなら、ここから1秒でも早く出られないかを考えておけって話だ。
きっと馬鹿な右腕もヘカトンケイルも、道なりを進んだだろうし、引き続き私も行くしかないようだ。
早く追いつく為、スピードを上げて走る事、早10分。
再び紙切れが氷の下に挟んであるのを発見。
「今度は何だ……落下してから1時間……かゆ……うま……アイツ、楽しんでやがるな」
右腕の中に眠るカオスが、いつ目覚めても対処できるよう同行させたが、私のストレスが溜まる一方で、失敗だったようだ。
もし次に紙切れを見つけた時には、右腕をフルボッコにしないといけなくなるぐらい、今の私はキレかけてる。
さっさと進もうとした矢先、向かい側から小さな光がゆっくりと私の下へと接近し、光の正体が明らかになった。
「およ? 今日はよく魔の者と会うなぁ」
「だ、誰だ貴様は」
「オレか? オレはイエティ、魔ッキンリーの管理者だぁ」
全身白い剛毛の巨人イエティは、この氷の洞窟に住み、見えない裂け目ことクレバスに落ちた者を、助けたりしてるようだ。
右腕とヘカトンケイルについて聞いたところ、イエティの家で私を待っていると。
「なるほどな。イエティは私を迎えに来たって事か」
「んだんだ。さ、こっちだぁ」
イエティに続きしばらく、氷でできた家に着き、中にお邪魔すると、コタツに入りぬくぬくとトランプで遊ぶ馬鹿2人がいた。
「あ、勇者様! 一緒にババ抜きしません?」
「休憩も旅の一つですから、ほらほら」
「お前ら……はぁ……一回やったら行くからな」
「流石勇者様!」
ガキみたいに喜びやがる右腕は、ババ抜き共々にクソ雑魚だった。