その113 精霊王の忠告
天界の連中に宣戦布告した直後、精霊王から鬱陶しい神託が来やがった。
無視してやっても良いんだが、暇人な精霊王の事だ、私が応答するまで神託を続ける気だろう。
面倒な事この上ないが、出てやるか。
「なんだ」
《なんだじゃないですよ! 天界に喧嘩売るってどうかしちゃったんですか!?》
「私の大事な場を破壊しようとした、お前ら天界の連中が一方的に悪い」
天界の馬鹿共は所詮、権力で弱者を捻じ伏せる、権力にしがみ付いた権力者共と同じだ。
力の無い者が逆らえない力を後ろ盾にし、自分達は特別な存在だと勘違いしている、この世でもっとも愚かな存在でもある。
そんな連中に一泡吹かしてくれる誰かが、きっとどうかしてくれるだろうと、口先だけの傍観者でいるのも悪くはない。
が、そんな者達の僅かな力でも、何百何千何万と集えば、強大な力さえも屈する力になるんだ。
もし理不尽な世界を変えたい気持ちが微塵でもあるなら、時の流れに身をまかせ、指を咥える馬鹿げた真似は止めた方がいい。
世界に疲れているだろう、嫌気がさすだろう、消えてしまいたいだろうが、もう同じ繰り返しを未来に残すのは終わりだ。
世界が違えど、立ち上がらなければ終わりは来ない。
だから私は天界の連中共に一泡吹かし、世界統括の一歩を踏み出すんだ。
「いいか精霊王。喧嘩を売られたからには、近い内に天界へ踏み込んでやるからな」
《ひぃ!? い、いくら勇者様でも無謀ですよ!》
「無謀? ゼウスの馬鹿が放った稲妻を、容易く吸収した私だぞ。舐めてるのか」
《めめめめ滅相もないです! 勇者様万歳! 勇者様万歳!》
ヘコヘコとお辞儀土下座してる姿が鮮明に浮かぶが、背後から聞こえる炊飯器の炊き上がり音で台無しだ。
相変わらずの生活音に気が抜けるが、とにかく私は有言実行する人間だ。
精霊王に天界の行き方を聞かずとも、サキュバスクイーンから聞いた方が私としてはストレスが無い。
さっさと精霊王の神託を終わらせて、放心気味のサキュバスクイーンに聞かねば。
「用が済んだなら、神託を終わるぞ」
《ま、待って下さいませ! 最後に忠告を1つだけ!》
精霊王曰く、ゼウスの兄弟であるハデスが、魔界のトップに君臨しているようだ。
今回の件も既にハデスへ伝わり、魔界へ訪れる際には何かしらが待ち受けている筈だと。
随分とふわふわした忠告だったが、たかがゼウスの兄弟だろうし、別に問題ないだろうな。
「貴様の忠告は分かった。じゃあな」
《あ、ちょっと! 滅茶苦茶素っ気なくな》
うだうだ文句を聞く訳がないだろうが、アホな精霊王め。
さて、邪魔がいなくなったことだし、早速サキュバスクイーンを正気にさせ、天界に行く方法を聞くか。
正気にさせるのにピッタリなリフレッシュを掛け、ぺちぺちと頬を叩いてやった。
「大丈夫か?」
「あ、魔王ちゃん……元に戻ったんだね」
「まぁな。色々と酷い目に遭ったが、貴重な経験をさせて貰ったぞ」
「そ、それなら良かったよ……はぁ……魔花園が……」
魔花園が跡形もなく無くなったのが本当にショックなんだな。
ここは素直に私が謝罪しないとならんな。
「……すまん。魔花園が消えたのは私のせいなんだ」
「魔王ちゃんが……正直に言ってくれてありがとうね……しゅん……」
今は聞けるような状態じゃなくなってしまったから、天界に行く方法はショックから立ち直るまで待つしかない。
一方で、雪女と狐女は私を見て、ブルブルと震えながら指差していたので、どうしたのか聞いてみた。
「なんだお前達。私が今更恐ろしくなったか?」
「「はわわわわ……ま、魔王ちゃんのう、後ろ……」」
「ん? 後ろ?」
後ろへ振り返ると、不快な虫の羽音を鳴らす、巨大な人型シルエットがこっちに近付いていた。
あの見覚えのあるシルエットに、そろそろやってくる時期だったなと思い出した。
あいつは魔界に住む、右腕の直々の上司ベルゼブブだ。
私が魔王城本城に不在だったから、外まで探しに来たんだろうな。
キョロキョロと見渡すベルゼブブは、私を遠目でロックオンしたのか、一瞬で目の前まで来やがった。
「新魔王様! ここにいましたか!」
「ベルゼブブ、魔界での手続きが済んだのか?」
「はい♪ あれ、ハゲ野郎がいませんけど、待ち切れずに抹殺したんですか?」
「いや、魔び舎に置いてきた」
「なるほどー♪ 一から教育し直させ、新魔王様に相応しい魔の者へ、更生させる為ですね♪ 流石です♪」
勝手に妄想を膨らませ、私を棚に上げやがるが、そういう事にしておこう。
「あぁ、そうだ」
「きゅん♪ 部下を思いやる新魔王様に、我は濡れます!」
「おい」
ポヤポヤとハート型の蠅を出すベルゼブブは、グイグイと私との距離間を詰めてくるもんだから、押し潰されそうだ。
とりあえずコイツが来たのなら、魔界に行く事が優先になったな。




