その110 女勇者の感情起伏
大浴場に改築した5階層インフェルノに、やってきたサキュバスクイーン達と小脇に抱えられた私。
もうどうとにでもなってしまえ精神で、黙って連行されて来たが、5歳児という好奇心の塊はうずうずして仕方がなかった。
それもその筈、大浴場と言う名の、大型レジャープール施設も同然なんだからな。
泳いで遊べる、まさに子供には楽園だ。
「あらあら~魔王ちゃんったら、楽しみ過ぎてバタ足しちゃってる♪」
「はっ! か、体が勝手にしてりゅんだ! わたちの意思じゃにゃい!」
「この可愛さ、氷漬けにして永久保存したいわね」
雪女の思考がぶっ飛んでるが、私の意思ではもはやバタ足が止まらん。
小脇に抱えられつつバタバタし続け、脱衣所でスッポンポンに脱がされ、赤白水玉のフリル水着へと着せ替えられた。
「おかわ~♪ クルっと一回回ってみて!」
「むぅ……しょうがにゃいから、一回だけやりゅ」
ぎこちないワンターンをお望み通り披露してやったら、サキュバスクイーンが大興奮で抱き締め、気持ち悪いスピードで頬擦り。
肌がもげ落ちそうだが、己の欲が済むまで止める気配がない。
一方、痙攣しながらぶっ倒れてる雪女は、今にも昇天しそうだった。
そんなんでサキュバスクイーンと手繋ぎで、大浴場へと足を踏み入れたが、目に映る全てがキラキラと黄金の輝きを放っていた。
きっと5歳児による誇張幻覚だと思うが、湧き上がる好奇心は歩みとなって、ずんずん進んでしまう。
以前の姿で、大浴場の改築具合を様子見した際は、好奇心なんて頭の片隅に追いやっていたが、5歳児になったことで改築の成果を身に染みて体感できているな。
そこだけはいい経験をさせて貰えているぞ。
「慌てなくても大浴場は逃げないからね♪」
「しょ、しょんなこと知ってりゅ!」
「ふっふっふ~とりあえず、魔王ちゃんが行きたい所から行きましょうね~」
「ふふん! しょれでいい!」
堂々たる足取りでウォータースライダーを目指しているが、道中のアイスクリーム屋を視界に入れた途端、喉から手が出る程欲しがってる私がいた。
濃厚且つクリーミーな冷たい甘味が、まるで禁忌の果実の如く、私を未だかつてない程に誘惑しているぞ。
意思が拒もうと体は抗えず、サキュバスクイーンの手をクイクイ引っ張って、口からあり得ない言葉が漏れた。
「お母しゃんお母しゃ……はっ」
「むふぅ~! 魔王ちゃんったら、もう~♪ もう一回お母さんって呼んでみて!」
「あ、ぁぅ……」
思考までもがどんどん幼児化してることに、もはや恥ずかしいを通り越している。
よりにもよって、他人を親だと勘違いして呼んでしまう黄金パターンに、自分を殴ってやりたかった。
顔が熱くなるぐらい恥ずかしがる私に、サキュバスクイーンはアイスクリームを買って来てくれ、恥ずかしさは一瞬で吹き飛んだ。
感情の起伏がここまで激しいと、元の姿に戻った時にも影響されそうで、今から背筋がぞわってしてしまうぞ。
なので少しでも気を紛らわす為、アイスクリームで口元がベトベトに汚れるまで、夢中で食べ続けた。
「もう魔王ちゃんったら〜こんなにお口汚しちゃって~」
「美味しい過ぎりゅのが、わりゅいんだ」
「そうだね~♪ それじゃ、行きたがってたスライダーに行こうっか!」
たかが水の流れる滑り台なのに、ワクワクとドキドキが止まらないまま、スライダーの列に並び、いよいよ私達の番になった。
だが、数十mもの高さから下を一望した私は、想像を絶する程に足がすくみ上がり、今にも失禁し掛けていた。
「た、高ぃ……うぅ……」
「ほらほら! 私が一緒に行くから大丈夫だよ!」
「ほんと……?」
「涙目上目遣いのお願い、おかわ~♪」
サキュバスクイーンの懐にすっぽり収まり、スライダーを滑り降りた。
私は如何なる死地でさも、難なく乗り越えて来た鋼のメンタルだ。
が、今の私はウォータースライダー如きで走馬灯を見るぐらい、死を覚悟するスライムメンタルになっていた。