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その102 元魔王の長女ボスサキュバス

 右腕の魂がどんなもんか聞いてみたところ、ドブ色に拳サイズの金平糖っぽい形で、スライムよりちょっとマシなレベルらしい。

 一般魔の者レベルだと、原色のどれかに分類し、大きさはソイツ自身の体格程度が妥当みたいだ。

 つまり、右腕の魂レベルは一般以下、スライム以上って事になる。


「わ、ワシってそんなにしょぼいの?」

「です~どうしようもないんで、ドンマイです~やば~」


 デス太郎のヤツ、仮にでも右腕は義父に当たるのに、フォロー以前に小馬鹿にしてやがる。

 何とも素晴らしき関係性に、うんうんと頷く私の下へ、学食の一番人気である満足満腹定食が運ばれてきた。


 ざっと3人前はあるだろう、特大とんかつに山盛りのサラダ、根菜やら肉が入った汁物、謎の焼き魚、大鉢に盛られた白い穀物などなど、名前通りのボリュームだ。

 右腕の頼んだ学食も来たが、健康意識高い系の野菜を中心とした定食だったので、無駄にムカついた。


 そんなムカついた時にこそ、飯を食らってストレス発散するのに限るな。


 食欲そそる匂いに涎と腹の音が止まらない私が、とんかつにかぶりつこうとした時。

 すぐ傍で陶器の割れる音が響き、何事かと視線を向けて見るや否や、真っ青な顔をしたグラマーなスーツ姿の女魔の者がいた。


 千鳥足に近いおぼつかない足取りで、ちょぼちょぼと私達に近付く女は、ごくりと固唾を飲み込み、震える口をようやく開いた。


「で、デス太郎きゅん……そ、その女だだだだ誰?」

「あ、ボッサン~お疲れ様~」

「ね、ねぇ……ど、どこの女なの?」

「その前に片付けないとだよ~あはは~」


 ボスサキュバスが落とした定食を、率先して片付け始めるデス太郎は、物怖じを一切しない肝の据わった奴だな。


 一方で、落とした張本人であるボスサキュバスは、片付け最中でも私から視線を外す事なく、異様な独占欲を持つヤバい奴だって認識になった。

 そんな2人を他所に、呑気に学食をモグモグと食べる右腕は、やはり頭がお花畑なようだ。


 ようやく片付け終わり、再び元の席に座ったデス太郎だが、妻であるボスサキュバスと隣同士で座る選択はなかったんだろうか。

 ボスサキュバスの反応は予想通り、私に嫉妬の眼差しを送りながら、呑気に学食を食らう右腕の隣に座った。


 こうして父親と長女が隣同士で並ぶと、どことなく雰囲気が似ている節があった。

 元ハゲ爺からイメチェンしたのもあるからか、ボスサキュバスは隣にいる奴が、心底嫌っている実父だと気付いていない様子だ。


 それはそれで右腕の奴が哀れで、メシウマな展開だが、いい加減私に向ける嫉妬の視線をどうにかして貰いたいものだ。

 率直に私に聞けばいいものの、未だに聞こうとしないボスサキュバスに面倒臭さを覚えていると、デス太郎がのんびりと口開いた。


「こちらの方は、人間の女性で現魔王様になった人だよ~」

「に、人間の女? そ、それに現魔王?」

「そのままの通りだ。それ以外でもないぞ、ボスサキュバス」

「わ、わたくしの名前を……」


 デス太郎に視線を向けたボスサキュバスは、ようやく状況を理解し、私に深々と頭を下げた。


「お見苦しい姿を見せてしまいましたが、わたくしは魔び舎の総理事長であるボスサキュバスです。そしてデス太郎きゅんの妻です」

「旦那で~す~」

「あぁ知ってる」


 妻って部分を強調していた気もするが、それ程までにデス太郎の事を大切に思っているという訳だな。

 正直、他人の愛情深さなんて心底どうでもいいが、コイツらが幸せと思えるなら気にはせん。


「あの、魔王様」

「なんだ」

「わたくしの父である、旧魔王はどうされているのでしょうか?」

「貴様の隣に座っているのが、そうだぞ」

「え」

「や! 遊びに来たよ!」


 目の前の現実を信じきれずにいるのか、私と右腕を何度も交互に見るボスサキュバス。


「あ、あのハゲで異臭を放つ老いぼれだった父が、な、なんでこんなにもイケてる魔人になってるんですか!?」

「私の右腕として気にくわなかったから、イメチェンしてやった」

「そういう事! ほら! 新しいパパだよ~!」


 両手を広げ、新しい自分を受け止めて貰おうと、必死すぎてキモいな。

 まぁ結果は言わずとも、 ボスサキュバスは右腕の顔面に強烈なグーパンを食らわせ、吹き飛ばしていた。


 ボスサキュバスにとっては、どんなに醜く最悪な父親でも、今の姿は受け入れ難かったんだろうな、ふふ。

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