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その100 声楽部セイレーンの素晴らしき歌声

 魔び舎内でも部活動が活発なのか、賑やかさが外よりも増しているな。


 中でも頭一つ抜けて聞こえる美しい歌声が、気になって仕方がない。

 歌声の正体を右腕に聞いたところ、セイレーンと呼ばれる上半身が人型、下半身が鳥の魔の者みたいだ。


 セイレーンなどの歌に特化した魔の者は、声楽部に所属するのが当たり前だとの事で、早速声楽部に向かう事が決定した。


 魔び舎内図によると、部活動と学習の場はキッチリと場所が分けられているようだ。


「ふむふむ……現在地点は、丁度その中間地点になる訳か」

「そうなります。右が部活エリアで、左が学習エリア、中央が職員エリアや学食、学寮なりますね」

「みたいだな。よし、行くぞ」


 魔王城より快適化と安全性が優れたエレベーターに乗り、声楽部のある階層まで浮上。


 数分後、声楽部のある階層に到着するや否や、美しき歌声が響き渡り、セイレーンの声量の凄まじさを体感。

 野・KILL YOU部にも言えたが、レベル自体は申し分なさそうだな。


 歌声のする扉先へ邪魔しないよう静かに開くと、遮蔽物があった時とは比べ物にならない程、圧巻の歌声が私の体を突き抜けた。


「~♪」


 小規模のオペラ会場っぽい室内だが、どこの席も満席状態で、どいつもこいつもだらしなく酔い痴れているぞ。

 それ程までにステージに立つセイレーンの歌声に、魔の者が魅了されているという訳か。


 セイレーンが歌い終わるまで、私は右腕と立ち見で聞き惚れ続けた。


 ただ、既に終盤だったのか、ものの数分で歌は終わり、スタンディングオベーションの嵐が吹き荒れた。


「どうもありがとうございました! 皆さんのお陰で本番当日も頑張れそうです!」


 深々と頭を下げ、満面の笑みでステージ横へと去ったセイレーンに、更なる拍手の雨。

 私も思わず拍手を送るぐらい、素晴らしき時間だった。


「いや~いつ聞いても、セイレーンちゃんの歌はいいですね~」

「同感だ。いつでも聞いて……はっ」

「ん? どうしました?」


 いつでも聞いていたいという事は、日常にセイレーンの歌を活かしたいという意味だ。

 そして、日常で歌を活かせるタイミングは、これしかない。

 私の中で全てが決定し、未だに分っていない右腕の奴に、単刀直入に言ってやった。


「今からセイレーンと会うぞ」

「え。あ、でしたら控室に行きましょうか」


 言われるがまま案内を始めて右腕だが、疑問に思う事すらしないのは、マイナス点だな。

 あとでヘッドホンを付けてやって、爆音を流してやるか。


 そんなんで会場を出て、廊下にある関係者以外立ち入り禁止で、右腕があれやこれやと警備の魔の者に説明。


 5分だけセイレーンと会える許可を貰い、控室に早速お邪魔した。


「邪魔するぞ」

「こんちはー!」

「へ? あ、こんにちは! セイレーンです! えーっと……どちら様……でしょうか?」


 私が現魔王であり、右腕が元ハゲの魔王だと簡潔に説明。

 セイレーンは正していた姿勢を、更にキビキビと正して、若干緊張の面立ちになっていた。


「し、新旧の魔王様お2方だとは……」

「あぁ。突然来てしまって、すまないな」

「いえいえ! わざわざ足を運んで頂いて光栄です!」

「そうか。言いそびれたが、先程は素晴らしき歌声だったぞ。正直に言って聞き惚れた」

「えへへ~ありがとうございます!」


 年相応な女子の可愛らしい反応だが、早速本題を切り出させて頂こう。


「そのだ。お前に会いに来た理由だが、安眠用の歌声と、目覚まし用の歌声が欲しいんだ。だから是非とも頼めるか?」


 魔王討伐の旅前に人間界で買った、高性能の録音媒体を取り出し、セイレーンへと近付けた私。

 録音した歌声を私の部屋にある音楽再生機器に接続すれば、素晴らしき入眠と起床は約束される。


 今か今かと歌を待ち望む私とは違い、セイレーンは軽く悩みながら答えを出した。


「ん~……あ、でしたら……こちらをどうぞ!」


 カバンから取り出した物を受け取ると、どうやらCDっぽいものみたいだった。

 ジャケット写真が物々しい陰鬱なもので、裏面の曲名が何とも言えないものばかりだった。


 鬱になる歌、責められる歌、失神する歌、失禁する歌、絶望する歌、痛みの歌エトセトラ。

 曲のラインナップがマイナス成分で構成されて、私が望むものとは真反対だった。


「寝目覚めが悪くなりそうだぞ」

「その点はご心配なく! そのC(コンパクト)D(デビル)は魔び舎で知らない者がいないぐらい、メジャーな作品になってます! きっと魔王様も気に入る筈です!」

「そ、そうなのか?」


 やはり魔の者と人間とでは、そもそもの定義が異なるんだな。

 念の為、試聴してから実用的かを判断する事にするか。


 再生機器を準備し、ヘッドホンの装着が完了、いざC・Dの試聴だ。


 流れ出す音楽に集中する事30分強、全て聞き終えた私はセイレーンの肩を掴んでいた。


「セイレーン……大変に素晴らしかったぞ」

「ほわわわわ! あ、ありがとうございましゅ!」

「是非とも買い取らせて貰う、幾らだ」

「だだだ代金なんていりません! 無償で差し上げましゅ!」

「いいな~ワシも欲しい~」


 貴様が羨ましそうに指を咥えたところで、ただの幼児退行にしかならん。

 約束の時間をかなりオーバーしてしまったが、セイレーンは問題ないと屈託のない笑顔で言ってくれた。

 C・Dを有難く頂いた私は、セイレーンに見送られながら声楽部を後にした。


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