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こちら保健室相談部、あらゆる変態たちがあらゆる相談を承ります。  作者: 上道修一
第一章 編隊(変態)! 保健室相談部
10/12

第九話 第一の試練 『誘惑の待ち合わせ』

登場キャラおさらいのコーナー


名前:通称:簡単なプロフィールの順番で書きます!


向井直(むかいなお):直、ナオちゃん:本作の主人公。姉がいない姉萌気質で豊河先輩に「お姉ちゃんになってください」と告白する。


豊河秋穂(とよかわあきほ):秋穂、あきほ:目立つことが嫌いの地味女子。直に「お姉ちゃんになってください」と告白される。


瀬木昏斗(せきくれと):昏斗:イケメンでロリコンで情報通。直の友人。


小野原妹子(おのはらいもこ):アックスフィールド・D・シエスタ(自称)、妹子、イモちゃん:保健室登校の中二病。

(……ずいぶん変わったな)

 

 電車で数十分。久しぶりに来る隣町の駅は、秋穂(あきほ)の見ないうちに発展していた。駅の向いにあるショッピングモールは白を基調とした外装に塗り替えられて、モダンな空間を作り出している。入り口の側の広場には子供が遊べる遊具なども置かれており、小さな遊園地のようだ。待ちゆく同い年ぐらいの高校生も社会人も心なしか洗練されてお洒落に見えた。


(ちょっと早く着きすぎちゃったかな)


 待ち合わせ場所の噴水の前には休日ということもあって人が多い。到着した秋穂は、手鏡を取り出して身だしなみをチェックする。


(よし、今日もどこからどう見ても地味娘だ!)


 長い前髪で目を隠し、センスの欠片もない黒縁の眼鏡の位置を直す。無難なプチプラシャツに無難なロングスカート。駅前の洒落た風景にむしろこの格好は目立つ気もするが、さすがはこの豊河秋穂、気配を消す力は人一倍だ。この物語のエキストラかのように街に溶け込んでいる。


「ねえねえ君。いまひとり?」


 後方でチャラついた男の声がする。おそらく女性に声をかけているのだろう。


(うわ、昼間なのにナンパなんている。誰かわからないけどあしらうの頑張って)


「ねえ、ねえってば」


(そうだよ。そうやって無視してれば相手も離れるからね)


「君だよ君。眼鏡で栗色の髪の彼女」


(へー、なんかわたしみたいな人だな)


「君だって!」


 秋穂の眼前に、男性の顔が現れた。ピアスにネックレスと明らかに女遊びをしていそうな風体だが、すべてがプラスの方向に転じているような笑顔をしている。かなりのイケメンだ。


「な、なんですか」


 これだけ人のいる休日の駅前でまさか自分が声をかけられるとは思わず、秋穂はおっかなびっくり反応する。ついさっき無視したほうがいいと自問自答したところなのについ返事をしてしまった。


「誰かと待ち合わせしてるの?」

「……そうです」

「へえ、彼氏?」

「彼氏じゃないですけど」

「友達?」

「友達ってわけじゃないですけど」

「え、じゃあ誰待ってるの?」

「……別に誰でもいいじゃないですか」


 秋穂はぷいっとそっぽを向いた。


(……って声かけたはいいもののこれからどうするんだろ)


 ナンパ男――瀬木昏斗(せきくれと)は心中で、嘆息する。


(やっぱり実物を見ても、そんな可愛い娘だと思えないな……俺が先輩をナンパするのってものすごい浮いちゃうんだよね)


「あの人、めっちゃイケメンじゃない? ほら、あのピアスの」

「どれどれ? ほんとだ……! スタイルもいいし、逆ナンしてみる?」

「てか、ナンパしてない? しかもぜんぜん地味女だし」

「逆ナンしたらいけるっしょ」


 昏斗の後方から黄色い相談話が聞こえる。


 街へ出てくると、その容貌から昏斗はだいたいの確率で逆ナンされてしまう。まったくタイプではないので、卒なく交わすのだが、今回に限ればナンパ中といういささか特殊な状況だ。


「すいませーん、お兄さん。なにしてるんですかー」

「そんな娘よりアタシたちと遊びましょうよぉ」


 明らかに遊び慣れていそうな高校生女子二人が秋穂と昏斗に近づいてくる。方や金髪の小麦色に肌を焼いた女子で、方や黒髪ロングヘアの色白女子だ。昏斗は何の反応もしないが、ともに肩を出して男子の情欲を煽る格好をしている。


(うわ、こっち来ちゃったよ。このカオスな状況、どうすんのナオちゃん――)


 ナンパ中にナンパされた昏斗は笑顔で対応しつつ、心中で首謀者である直に助けを乞うた。



 (なお)が喫茶店でバニラアイスに到達した頃、机の上のタイマーにはまだ余裕があった。


「ゴホッゴホッ! ……俺が豊河先輩をナンパするだって?」


 昏斗は口に含んだ烏龍茶が肺に入り、咳き込んだ。


「そうだ、昏斗は控えめに言ってイケメンだ。そんなやつに声をかけられればお姉ちゃんも少しは心が動くかも知れない」

「俺が豊河先輩をナンパしてどうするのさ。それじゃあ俺と先輩が仲良くなっちゃうじゃん」

「そこで僕の登場だ」


 甘さが足りなかったのか、直は店員にトッピングのメープルシロップとチョコチップを注文する。一旦手を止めて懐から、何やら書籍を取り出して続ける。


「知ってるか? この本によると女の子というのはいくつになっても白馬に乗った王子様に憧れるんだ」

「そりゃあ知ってるけど……」


 『猿でもわかる、女心の扱い方完全版』という胡散臭いタイトルの本を突き出して、付箋をしてあるページを開いて見せてくる。確かにそうあるが、昏斗には真に受けて良さそうなものとは到底思えなかった。


「女の子の意見としてはどうなのイモちゃん?」

「イモちゃん言うな! ……我の名前はアックスフィールド・D・シエスタ。我に言わせれば、王国軍の王子など敵にはなれど、意中の相手となるはずもない。我の心を射止めたくば……そうさなあ、魔竜の逆鱗でも我の前に差し出せば、考えてやらんこともな――」

「ナオちゃんが白馬の王子様として、ナンパする俺から先輩を助けるってことかい?」


 昏斗は水を向けたものの、シエスタ(休日ゴスロリver)を無視して話を進める。


「そうだ」

「……なるほどね」


(女装してるナオちゃんが助けに入っても、地味な先輩よりよっぽどナオちゃんのほうがお姫様っぽいけどなあ……先輩の悪口言ったら怒るから言わないけど)


 ナオちゃんにも考えがあるのだろう、と自分を言い聞かせ、昏斗は首肯する。


「なんで無視すんねん! もうええわ、店員さん沸いた悪魔の生き血おかわり!」


 メープルシロップとチョコチップを持ってきた店員に妹子がメロンソーダのおかわりを頼む。一方で直はバニラアイスをまたすくい始め、そこに二つのトッピングをたっぷりかけた。


 昏斗を含め、その甘さと甘さと甘さのカオスな融合に、周囲の客は吐き気を催している。


「昏斗という甘いマスクでお姉ちゃんの心は揺さぶられ、ナンパという緊張状態で心が縛り付けられる――」


 不敵な笑みを浮かべ、たっぷりと化粧をされたアイスを一口で食べた。


「――そこに、僕が白馬の王子様になって助けに入る。これで先輩の心はもう僕のものだ」


 

「ねー、いいじゃんお兄さん」

「一緒に遊ぼうよお」

「ごめん、また今度ね。いまこの娘に声かけてるからさ」


 昏斗はギャル二人に腕を取られてしまっていた。普通の男子高生なら願ってもないことだが、昏斗は重度のロリータコンプレックスであり、いまは作戦実行中だ。振り払おうにも、周囲の注目を若干集めているため無理に引き剥がすことができない。


「……わたし、もういいですかね。人を待ってるのでこれで」


 この期に秋穂は愛想笑いを残して広場の裏側まで抜けようとする。


「は? さっきからなんなのアンタさあ。ナンパされたからって調子のってんじゃないの」

「普段ナンパとかされたことないから、嬉しすぎたんじゃないのこいつ」


 気配を消し、当たり障りのない笑顔を顔に張っていたにもかかわらず、ギャル二人に目ざとく因縁をつけられてしまった。普段なら切り抜けられるが今は嫉妬の対象となっている。状況が悪い。


「……ぜんぜん……その、調子とか乗ってないですよ……」

「なに良い娘ぶっちゃってんのかなぁ? あんたみたいな地味娘は声かけてもらえるだけありがたいと思いなさいよね」

「ほんっとブスのくせにさあ」

「……や、やめてください」


 ギャルたちは左右から秋穂に迫り、昏斗に相手にされなかった鬱憤を晴らすように口汚く罵った。秋穂は若干助けてもらいたそうな目で昏斗の方を見るが、昏斗は目線を反らして気づかないふりをする。


(その役目は俺じゃないんだよね……えーと、変な方向に豊河先輩がピンチだけどいいのかな? まあ追い詰められてることには変わりないけど……とにかく助けて白馬の王子様!)


 昏斗が胸中で叫ぶと同時に、レトロな機械から出たようなメロディー音が緩く広場に響いた。昏斗も秋穂もギャルの二人も目線をそっちにやる。


 そこには白馬……ではなく遊園地の広場によく置いてあるパンダのメロディーペットが現れた。小銭を入れて、音楽が流れるとともに操縦できる、子供が乗るアレである。


 それに乗っているのは、王子様……ではなく今風ファッションに身を包んだモデル顔負けの美少女だ。白馬の王子様ではなく、パンダのお嬢様だった。


「おい、お前らお姉ちゃんをいじめるな。ん? お前ら?」


 シュールな光景にあっけにとられた四人は動くことも言葉を発することもできない。ただそこにはパンダの奏でるメロディーと直の声だけがあった。


「……なるほど、顔の広い昏斗が協力を仰いだんだな」


 得心行ったようにポンッと手を打つと、先日の秋穂の仕草を真似するように人差し指を立てて言った。


「お前らナンパとかそういうのは不純だから良くないぞ。あとブスとかそういう汚い言葉も使うな。お姉ちゃん以外この世は全員ブスだ。あと、その次に可愛いのは僕だ」

「「あ、うん」」


 ツッコミどころしかない説教にも誰も反論することができない。


「さ、お姉ちゃん。デートに行くぞ。後ろに乗ってくれ」

「え、あ、もしかして向井くん?」

「そうだぞ、何を言ってるんだ今更」


 秋穂はかろうじて硬直から溶け、返答することに成功した。パンダよりもこの美少女が待ち合わせ相手である向井直、つまり男であることの衝撃が追加できて、脳内で衝撃と衝撃で相殺されたのかも知れない。


「あ、でも、このパンダさん二人で乗っちゃいけないやつじゃない?」

「なに、そうなのか。本当は本物の馬で来たかったが、手近な白馬っぽいものがこれだけだったんだ。白いし動物だし行けると思ったのに、人数制限があるのか。じゃあ仕方ないな、歩いていこう」

「そうだね」


 そう言いながら二人はショッピングモールへ歩いていった。


(……プッ、ナオちゃん……いや、ナオちゃん、ハハッ……流石にそれは無理があるよ……)


 昏斗は戸惑いから開放され、今度は抱腹絶倒したい思いをぐっと堪えていた。直と知り合いだということが秋穂にバレれば、事をややこしくするため、なんとか二人が行くまで耐えているのだ。


「「……」」


 一方でギャル二人は完全に呆けている。その間に昏斗も隠れている妹子と合流するため、腹を抱えながら人混みに紛れた。


 歩きつつ、直は自分の作戦の感触を確かめようと、秋穂の顔を盗み見た。秋穂は脳内の整理ができていないようで、目をぐるぐるさせている。オーバーヒートで頭も顔も熱くなっていた。


(よし。一緒に白馬に乗ることはできなかったが、お姉ちゃんは照れてるぞ。順調だ)


 確かな手応えを感じて、直は次の作戦について頭を巡らせるのだった。

今回のお気に入りセリフのコーナー


秋穂「あ、でも、このパンダさん二人で乗っちゃいけないやつじゃない?」


 どんな奇天烈で面食らう状況でも、最低限のマナーを守ることって大切ですよね。どれだけ急いでいても前の人を押してはいけないですし、どれだけ一度目でソースを付け切れなかったとしても二度漬けは禁止です。切羽詰まっている状況にこそ、人間の本性が出る気がします。その点、秋穂はいい子ですね。


「あ、えっと……そんなことないです、ありがとうございます」


 お、意外にもこのコーナー初登場じゃないですか?


「そうですね、初めてです。あんまり目立たないようにしてるので……だからもう取り上げないでほしいです」


 でもこれは筆者の楽しみコーナーですから、気に入ったものをできるだけ取り上げたいんですよ。


「本当にやめてください」

 

 えでも……


「おいお姉ちゃんをいじめるな」


 あっ陽気な音楽とともに、パンダに乗って直がこちらに向かってくる! 逃げろ! 

 ……あ遅いから余裕で逃げ切れる。というかアレをどう見たら白馬の王子様に見えるんだろうか……。


 次回は映画デート回です! 次は妹子が活躍します、お楽しみに!

 感想ブクマ評価などなど心待ちにしております! していただけるとやる気が出て執筆が早くなります!


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