あと一歩の言の葉
----「キミの事が好きです・・ 」
そう素直に言えたのなら、私の気持ちは、どれだけ楽になるのだろうか・・
「好き」という、たった一言を伝えられない。
彼と私の心の距離は、どれくらいなのだろうか?
それを考えてしまうと、一歩が踏み出せないでいる。
彼、勇樹くんとは、小学生の頃からの幼馴染だ。
学校こそ違えど、高校に進学してからも、彼とは一緒に勉強をしたり、休みの日には買い物に行ったりもしている。 彼と過ごす時間はとても楽しいが、とても短く感じてしまう。
彼は英語が苦手らしい。 だから今日も私は、自宅近くの駅前のカフェで、勇樹くんと一緒に英語の勉強をしている。
彼の家は、隣駅。 駅から徒歩10分くらいの場所にある。
いつも彼は、勉強に付き合ってもらっているからと、私の家の最寄り駅まで来てくれるのだ。
そろそろ日も暮れてきた。
今日が終わる・・ 勇樹くんとの大切なひと時が・・
「梨華、今日も付き合ってくれてありがとう。 じゃ、またな! 」
そう言うと彼はいつも通り、駅のホームへと改札を通り抜ける。
彼の姿を見送ると、私は家へと歩き出す。
(ありがとう。 か・・ )
この言葉を聞くたびに、私の心は切なくなる。
彼にだけだ、彼にだけ「ありがとう」と言われると、何故か切なく感じてしまうのだ。
他のクラスメイトや、友人に言われても、特にこんな感情は湧かない。
こんな気持ちを抱えつつ私は帰宅した。
帰宅し、スマートフォンを開くと、勇樹くんからメッセージが届いていた。
メッセージを開くと、私の心はすぐに温かくなった。 単純なものだ。
「梨華、明日は土曜だから、学校休みだろ? 」
「予定空いてる? 」
そう届いたメッセージに、すぐに返信する。
「空いてるよ! 」
「また買い物に付き合ってほしいとか? 」
そう返信をし、既読になるのを待ち、再び彼からのメッセージが届くのを待った。
「さすが梨華、よくわかってんじゃん! 」
やっぱりだ。 いつもの流れだし、わかっていた。
「しょうがないから、付き合ってあげる! 」
そんなやり取りをしばらく続け、待ち合わせ場所や時間を決めたのだった。
(やったー! )
今日は彼とデートだ。 昨晩は嬉しくて、中々寝付けなかった。
彼はデートとなんて、思ってはいないのだろう。
彼と無事合流すると、それから過ごす時間はあっという間に過ぎていく。
お互い学生という事もあり、当然、贅沢なデートはできない。
そんな事は、最初からわかっている。
ただ、彼との限られた時間を過ごせれば、それだけで私は十分なのだ。
気付けば、すでに彼と夕飯を取っていた。
時間の流れは残酷だ。 待っては・・ くれないのだ。
(もう今日も終わりか・・ )
彼の横に座り、電車に揺られながら、他愛のない会話を楽しむ。
電車は容赦なく、彼の家のある駅へと近づいていく。
「梨華、今日もありがとな! また来週、勉強付き合ってな! 」
(また、ありがとう・・ か・・)
私の口数が減ると、彼は私の顔を覗き込み尋ねた。
「梨華、どうしたの?」
私は軽く微笑み、彼の言葉に返事をした。
「ううん・・ 何でもない! 」と・・
本当は彼の気持ちを知りたい。 彼に「好きだ」と言ってもらいたい。
言ってもらえたのなら、私は喜んでその言葉に応える準備はできている。
この帰り道も、切なく感じなくなるのに・・
いや、むしろ、私から気持ちを伝えられたなら・・
だが、やはり、あと一歩が踏み出せない。
電車は彼の家のある駅へと到着し、彼は下車する。
閉まるドア越しに、お互い手を振り合った。
(勇樹くん、また来週ね・・ )
この物語はフィクションです。
読んで頂きありがとうございました。
今回も掌編で作品を執筆させていただきました。
読んで頂いた方々に感謝を申し上げます。
さて、みなさんは、この作品のような経験をしたことはあるでしょうか?
筆者は、幼馴染だからこそ伝えられない気持ちや言葉があるのでは?と思い、女性の視点からの執筆の挑戦をしてみました。
女性と男性では考え方は異なるものなので、女性目線できちんと書けたのか、自信はありません。
男女問わず、共感できる作品になっていれば幸いです。