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王都散策と新たな出会い

 王都と外を隔てる境界。

 立派な白い門をくぐった瞬間、世界が変わった。


「王都だ……!」


 未知の土地に踏み込んだ冒険家の気分で、アレンは黒い瞳を輝かせる。その目に映るのは、吹雪でも小屋でも見ることのできない色彩豊かな世界だった。


 響き渡るのは様々な人、人間ではない種族も含めた、明るい声だ。開かれた大通りに面した店はどこも活気に満ち溢れ、盛んに交流が行われている。


「アレン、いつまでもそんな所に立ってると邪魔だぞ」


「は!?」


 デオンにマントを軽く引っ張られ、我に帰る。その顔は初めての場所にやって来た幼い息子を眺める父親のようだ。


 行くぞー、と陽気に歩き出してしまったデオンを追いかけ、アレンは王都最初の一歩を踏み出した。


「すごいな、王都は!」


「そりぁーそうだ。なんせこの国で一番デカイ街だからな」


 どこか得意げに自慢して胸を張る。王都に入れば外すだろうと思っていたフードは目深に被られていて、正直とても不気味である。

 だが、アレン自身もよくよく考えてみると、マントを被っていて全く同じような格好をしていた。

 自分も同類か、と内心苦笑しつつも、王都の街並みに意識を戻す。


「兄ちゃんたち、冒険者かい? これ、買って行きなよ!」


 眩しい営業スマイルを浮かべた青年が赤い果実を差し出してくる。

 彼がアレンたちを冒険者だと思ったのは、やはりこの微妙な格好のせいか。


 アレンは赤い果実の甘い匂いに思わず立ち止まりかけた。


「行く所は他にあるからな、先にそっちに行くぞ」


「はーい……」


 後ろ髪を引かれるような気持ちで、赤い果実の屋台を振り返る。食べてみたかったなー、と唾を呑み込み、アレンは人混みの中を進んだ。


「……まずはあの店だな」


 顎を撫でてデオンは呟く。迷わずに通りを歩いていくのを見れば、この街をよく知っていることがうかがえる。王都で働いていたという話は本当なのだろう。


 食料品ばかりが売られている通りを抜け、衣類を売る店が増えてきた。その辺りで買うのかと思いきや、デオンはあっさりと通り過ぎていく。

 そして、角を曲がって路地へと続く道を選んだ。

 さらにその路地を進み、左に曲がって、右に曲がって……。


 頭がこんがらがってきた。どこもかしこも同じような薄暗い住宅密集地。光といえば、林立した建物の隙間から差し込むもの僅かばかり。


「どこに行くんだよ……。店なんてどこにも無いぞ?」


 痺れを切らし、とうとうアレンは問いかけた。デオンも路地を歩き回って、ご機嫌とはいかない顔付きだ。それなら、大通りの店でいいと思うのだが……。


「すまんなー。もうすぐ着くはずなんだがー」


 緊張感のない声。しかし、その目は周囲を警戒しているように鋭い光を浮かべている。


 最後にもう一度角を曲がると、住宅の並びに混じって建っている小さな店が目に入った。


「こんな所に店が?」


「ああ、ここが俺たちの目的地だ」


 その店の風貌はあまり綺麗とは言い難いものだった。古びた木の扉の取手は黒く錆び付いていて、窓ガラスだってあちこちに亀裂が入っている。おまけにツタが絡み付いていて、薄暗い路地にはとても不気味に映った。


 デオンは何の躊躇もなく錆びた取手を握る。そして、ドアを押し開けた。


 ガランガラン。

 くぐもった鐘の音が響く。中から返事は返ってこないが、デオンと共に店の中に入ってしまった。


「うはぁ……、中も微妙だな……」


 思わずそう呟いてしまうほど、中も予想通りだった。薄暗い店内に、乱雑に置かれた武具や衣類や、高級そうな装飾品の数々。こんなにもテキトーに扱っても良いのかと心配になってくる。


「……何がビミョーだって?」


 不機嫌極まりない女の声がした。ビクッとアレンは肩を強張らせ、引き攣った表情筋で笑顔を作る。ギギギッと壊れた機械のような動作で振り返った。


「い、いえ、な、なんでも……」


「あ? 客じゃないなら出てきな」


 鋭い眼光がアレンの身体をすくませる。すぐ後ろに立っていたのは、くすんだ赤髪の女だった。使い古された暗い色のコートを羽織り、皮のブーツを履いている。やけに露出度の高い足はブーツでは隠し切れていない。


「ぎゃ!?」


 女はアレンの首元を鷲掴みにして、店の外に放り出そうとする。


「カイラ、その辺にしといてくれ。そいつは俺の連れだ」


「……」


 今まで沈黙していた、というか気配の無かったデオンは、そこで初めて声を発した。カイラと呼ばれた女はギロッとデオンを睨む。

 いろんな意味でヤバイ、と目を閉じかけたその時、カイラが口を開いた。


「って、はぁあ!? ツレってコレ、あ、あんたの!?」


「あーあーあーーーー!?」


 叫びながら、ガクガクとアレンの身体が揺さぶられる。そして、最後にはポトリと落とされた。デオンの目が一瞬哀れみの色を帯びる。


「いってぇ……」


 顔をしかめる。完璧にフードは頭から外れて、白い髪が露わになっていた。見上げると、カイラと目が合う。


「見ない顔だねぇ。白い髪に黒い瞳。その髪は生まれつきかい?」


 立ち上がりながらアレンは答える。


「ちょっと分からないです。俺、記憶が無くて」


「へぇ? デオン、あんた、こいつどうしたんだい?」


 デオンはマントを脱いで勝手に楽な格好になっていた。腕組みをして口を開く。


「雪山で拾った」

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