表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/153

金属装備の作成

 イベント開始から翌日の早朝。

 私は一人、レンタル鍛冶場で剣を作っていた。


 この世界の鍛冶は極めて単純である。

 まず最初に鋳造のための型を作って溶かした金属を流し込む。固まったら取り出して、砥石で研いで完成である。

 もちろんお好みで鋳造ではなく最初から鍛造してもいいし、鋳型で作った物を加熱してハンマーで叩くという事をしてもいいそうだ。


 現実なら金属の中の隙間を叩いて潰すから鍛造の方が強いらしいのだが、ここでは鋳造してもそうそう変な性能にはならないらしい。昨日アドバイスしてくれたマツメツさんの言である。

 型を作るのが面倒と思いきや、あの万能彫刻刀に似たシステム補助があるためその辺りも実にらくちん。これなら全部彫って作らなきゃいけない木工の方が何倍も面倒だと思う程である。皆鍛冶ばかりやるはずだ。


 攻略サイトを参考に色々と実験してみるが、金属装備はやはり事前情報通り形と刃の研ぎ方、そして何より合金の比率によって性能が変わる。ハンマーで叩くのは整形以外の意味はない。

 一応リリース直後から日本刀もどきを作りたいという有志が伝統的な手法を色々と試したのだが、結果は芳しくなかったそうだ。そのため鍛冶界隈では大人しく型を作って鋳造するのが手っ取り早いと決着がついている。木工なんて構造が単純な物は、彫る事しかできないのでそれに比べたらマシだろうか。


 刀身部分が出来たら柄や鍔お好みで護拳を付けて、鞘を作れば剣の完成だ。私なんかは弄月の見た目が好きなので鞘を使わずに、抜身のまま腰に引っ掛けているくらいだし、柄も鍔も最悪要らないのでこの辺りはデザイン次第ではあるのだが。数値上の性能にはあまり関係がない。

 しかし、使い勝手には大きく関わる部分だ。柄は短ければ扱いにくく、長ければ細かく動かすことができない。護拳は防御に有用だが、刃先を返すような動作に差し障りが出てしまう。鞘だってあまり変な形だと邪魔になる。


「んー、大体分かったかな。意外に簡単だ」


 私は今後も使わなそうな安い材料で作った私の処女作を放り捨て、次の作業に取り掛かる。

 今日中に仕上げたいのは、とりあえずユリアの鎧と武器、それからフランがこの街のカジノで取ってきた銃の改造。時間があればショールの剣と槍、ラリマールの杖を作る。


 面倒そうな方が優先順位が高いのが厄介だが、とにかく手を動かすとしよう。


 私はイベントの宝箱のおかげで大量に出回っている素材を取引掲示板で購入し、小型溶鉱炉に鉱石を入れるのだった。



 ***



 私は完成した装備を並べて椅子にぐったりと座る。


 思っていた以上に疲れるなこれ。暑いというのが精神的に参るのかもしれない。

 その上ユリア用の防具はインナーも作ったので今までで一番手間がかかっている。デザインも粗野に見えない様に頑張っていたらかなり時間がかかってしまったし。


 しかし、試行錯誤の結果は満足のいくものになっていた。

 ユリアの鎧は今まで通り軽さを重視している。その辺に置いてあったマネキンに着せられたその鎧は、さながら戦場に赴く姫のような煌びやかさだ。今までちょっと和風だったし、職業が侍なのが絶妙にマッチしないが本人の容姿が金髪の獣人なので似合わないということはないだろう。


 薔薇の彫刻が施された胸当ては白銀で、鎧の下は裾の広がったワンピース。スカートにも一応金属板を縫い付けたが、現実的には飾り以上の意味はなさそうである。まぁこの世界では数値上の防御力が上がるので全くの無意味ではない。

 籠手やレガースなども布と金属で煌びやかに作り、防御力よりは動きやすさを重視。ユリアはヒールなんて履けないのでペタンコ靴だが、高いヒールも似合うだろうな。

 頭の装備は少し迷ったのだが、兜ではなく冠にした。物理耐久よりも魔法防御と見た目優先である。本人が視野の狭くなる兜を嫌っているというのもある。マツメツさんの作ったような陣笠にすれば視界も確保できるのだが、どうしてもこの衣装には似合わないからね……。


 武器も今使っている装備に比べて軽い物にした。これにはいくつか理由がある。

 実はマツメツさん謹製の大地の叫びは凄まじい性能を誇っており、私の弄月と同じくエリアを越える毎に手を加え直せば、十分に第3エリア前半くらいでも使える性能をしている。

 これを超えるのは中々難しいので、別方向からの戦略として盾との同時持ちについて考えたのだ。


 当然鎧にも盾にも装備重量があるのであまり重い物は持てないし、そもそも片手で扱う重さには限界がある。しかしユリアの性格上、小さい武器を好むとも思えなかった。ずっとあの巨大な大地の叫びを使い続けているあたり、かなり気に入っているのだろう。


 サイズを落とさずに軽くする方法として考えたのは、俗に“肉抜き”と呼ばれている手法である。

 つまり、斧の刃の部分から必要ない金属を削ってしまおうという手段だ。

 当然だが軽くなる代わりに耐久性が下がるのでやり過ぎは禁物だ。私はこれがサブの武器であることを考慮してガリガリと削っていき、最終的には斧というよりも鎌に近い見た目になってしまった。

 使った金属が良かったのか削り方が良かったのかは分からないが、私の舞姫と比べると耐久力もかなり高い。あっちが低すぎるというのもあるが。


 柄は木製で使いやすいように僅かに曲線を描き、片刃の剣のような美しい刃が取り付けられている。

 一見閉じた鎌のような見た目だが、その歪曲した刃はしっかりと外側を向いて敵を今か今かと待ち受ける。一応綺麗に見える様に模様も彫っておいたが、そもそもあの鎧に斧はあまりに合わない気がする。


 盾は昨日預かってきたカジノの景品を改造した。半分以上素材を変更したが、頑張って元のデザインを再現しているので色合い以外は変わっていない。装備制限の関係もあるのであまり大きく強化はできなかった。


 ユリアの分だけでかなり疲れたが、一応フランの銃や傭兵達の装備も作り終えている。


 フランの銃は本人の希望通り威力重視で銃身を伸ばし、一応剣も取り付けた。あんまり使ってくれないんだけど、麻痺の追加効果を狙える代物だ。攻撃性能的にも悪くないと思う。

 この銃は勝負師の拳銃の中折れ式とは違ってボルトアクションと呼ばれる構造の物らしく、構造が前回よりも複雑だ。銃身作るのが手間なので全部中折れ式にして欲しい。連発銃作れないんだから何でもよくない?

 フランとしてもリロードの練習をしなければならないそうなので、もう無断で中折れ式にしたいほどである。やらなかったけど。

 この“運命”と名付けられている銃は、使われている木材も一新した。もはや細かい歯車などの構造以外元の部品は残っていない。

 元から強かったのでむしろ装備制限のために性能を落とした形になっている。


 同じくこの街の賭場の高額景品だった“ファムファタル”というドレスも装備制限を下げるために性能を落としている。見た目は変わらない様に改造したが、このドレス元から結構きわどい。

 シースルー素材で蝶の形にお腹が出るデザインになっているのだ。少なくとも私には、単純な露出よりこっちの方が淫猥に見える。へその下の結構な部分まで見えているので、何かもう見るからにエッチだ。胸の部分もゲームシステムでポロリしないからこそできるような構造と見た目になっているし、かなり挑戦的と言えるだろう。


 露出度は私の舞踏服の方が酷い物だが、何かもうこれは色々不味い気がする。背中丸見えだしスリット深いし、フランがあんまり周囲の視線気にしない性質なのもあってこういう服着ると注意を集めるんだよね。デザイン勝手に変えとこうかな……。


 私は大きく息を吐いて、その装備達をそれぞれに譲渡申請した。意外にも朝が早いフランはもうログインしているが、ユリアはいつも通りまだ来ていない。そもそもまだ早朝と言ってもいい時間帯だ。


 数があった二人の装備が片付いたので、部屋には二本の武器が置いてあるだけになっている。

 ショールの剣とラリマールの杖だ。


 ラリマールの杖は結構デザインが気に入っているのでそのまま巨大フォークとマシュマロである。元と比べるとその性能は大きく変わっているが、まだまだ杖としては普通の部類。特殊な効果も攻撃力強化やMP効率上昇の他には付いていない。


 そしてショールの武器だが、槍と剣を両方持つのを止めようかと思っている。それというのもこれが予想外に重くなってしまったのだが一番の原因なのだが。


 私はその長巻(ながまき)に視線を落とす。

 私の身長よりも長いその剣は、全長の半分ほどが柄という異様な見た目をしていた。黒い刃は太く長い長方形。切っ先はなく、鉄板のような重くて分厚い刃は明らかに相手を叩き潰すことを目的としている。


 リーチを生かした戦法が得意なショールには向かない装備かもしれないが、完全に思い付きで作ったら重量と癖の関係で扱えそうなのが彼女しか居なかったという悲しい装備である。

 要は柄の長い大剣なのだが、気に入らなかったら返してもらうとしよう。


 それらも最終調整を終えて、それぞれの使用者に送り付ける。

 とりあえずはこれで完了か。後は使用感を聞いて直していくという作業こそあるが、一から作り直すことはないだろう。まぁこんなの嫌だと言われる可能性もなくはないのだが、ショール以外は結構本人の適正を考えてまとまったと思うのであまり心配していない。


 後はショールの槍と剣を新しく一応作っておくのと、最後のお楽しみが残っている。


 最後のお楽しみ、つまり弄月の後継の制作である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ