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映し身の強さ

 私達はそれからもペットに戦闘を任せて塔を上に上にと進んでいく。

 10の倍数の階層にはボスモンスターが設置されていて、その次の階層はセーフティエリアになっている。モンスターが出ない実質的な安全圏だが、先の階層で死んでしまうとその安全な階層ではなく元居た街に帰還するので普通の安全圏ではない。

 しかし、次に挑戦する時は到達したセーフティエリアからの挑戦ができるようなので、実際には転移する手間があるだけである。

 ちなみにダンジョンからの脱出は異界への扉を使っていつでもできるので、態々脱出口を探したりする必要はない。イベントダンジョンではデスペナルティがないので、時間の関係以外では戦績に傷が付かない以上の意味はないが。


 私達の現在地は42階。

 30階までが第1エリア相当の強さだったので、ここら辺は第2エリアのモンスターが出没する。私達は第2エリアを駆け足で抜けた上に、北側のダンジョンしか回っていない。そのためダンジョン内部には未見のモンスターが多かった。


 階層が上がる度に出没するモンスターの強さも上がってきているので、映し身たちの戦闘もかなり無理が出てきている。特に泥団子の人食い蛇の魔法が、最初の方に比べてあまり効果を発揮していない。今はまだ映し身が凌いでいるが、それも時間の問題だろう。

 ユリアのデュラハンが常駐型、いやせめて召喚型なら良かったのだが、再使用までの間隔が異様に長い一撃型はいつでも使えるという手段ではない。

 そろそろ戦い方を変えた方がいいのかもな。


 私は宝探しに夢中なユリアとフランを放置して、泥団子とショールを振り返る。一応相談しておいた方がいいだろう。勝手にやっても怒られはしないだろうけれど。


「私そろそろ出ていいかな?」

「ん? まだ余裕あると思うけど、やりたいならやってもいいぞ。あっちの二人呼ぶか?」

「そっちはまだ大丈夫。ショール、泥団子の事守ってあげてね」

「了解です。援護は必要なさそうですね」


 宝箱から出る素材群は少しずつ改善しているが、それでもまだまだ弱い素材ばかりだ。

 それでも宝箱を開けるという行為が楽しいらしく、ユリア達はダンジョン内部を色々見て回っている。一つの階層が広いので、ああやって気合を入れて探索してくれるのは結構助かる。

 あちらはこちらとは違い鎧袖一触といった調子で突き進んでいる。ここに呼び戻すほどでもないだろう。


 あっちが探索班ならこっちは言わば育成班だ。

 私はゴーストの色違い相手に苦戦している私のコピーを、飛び越える様に戦場に躍り出た。



 ***



 私の膝蹴りが灰色の大男の体勢を崩し、その隙を逃さないフランの銃弾が突き刺さる。そして少し遅れて私の体を掠る様な軌道で映し身が弄月を振るった。


 私が戦闘に参加して数十分、私は珍しく格闘戦でモンスターを相手にしていた。

 格闘家系統以外の職業の肉弾戦は弱い。どれだけ体重の乗った拳でもシステムの補助がなければノックバックもあまりしないし、威力は素の腕力から更にマイナス補正が入った微々たるものだ。

 それでも速度を付けて全体重をかければ、何とか体勢を崩すくらいの威力は出せた。弄月を使うとあっさり終わるのでちょっとした加減である。


 私は消えて行くモンスターを見送りながら、次の戦闘を求めて突き進む。

 どうも少しずつ戦闘が楽になっている気がする。私がこの手加減に慣れてきたということもあるのだが、それ以上にこれは……


「んー……ショール、今のタイミングどうだった?」

「私ならもっと上手くやれますが、及第点でしょうか。何と言うべきか、最初に比べて見違えましたね」


 彼女が言っているのは私の戦闘ではない。映し身の戦いのことだ。

 少しずつだが映し身の動きが良くなってきている。フランの援護射撃のタイミングも、私の攻撃の合わせ方も。

 指示しているわけではない。待機と攻撃以外の指示を聞いてくれるほど知能がないと、少なくとも私達は思っていたからだ。


 しかし実際にこうして戦ってみるとどうだろう。少しずつだが傭兵達のように戦闘思考が育ってきている気がする。

 防御が下手なだけで元から攻撃は得意だったという可能性もあるにはあるが、後ろから見ているショールが上達しているというのだ。確かに成長していると見て間違いない。


 私は何となく映し身の体に触りながら通路を進んでいく。

 別のプレイヤーや傭兵の体にベタベタ触るとシステムから警告が来るのだが、映し身は特にそういったあれはない。胸とかお尻を触っても触った感触しないし、普通に手が貫通するんだけどね。揺れるけど触った時の当たり判定はないのだ。攻撃は当たるのに。

 まぁ触れたら青少年健全育成に差し障るという判断なのだろう。ちなみに自分の体は触れるが、性的と思しき部位は触った感触もなければ触られた感触もしない。


 私が自分の体を弄びながら歩いていると、隣を進んでいたフランの映し身が通路の奥に向かって発砲する。どうやら会敵したらしい。


 私は映し身の体を引っ張って戦場に飛び出した。

 梟頭の灰色の男の攻撃が私に当たる前に、私は顔面にドロップキックを繰り出す。人型なので結構高い位置に頭があるが、ゲームの中なら十分に届く範囲である。そもそも垂直跳びであれ飛び越えられるしね、私。


 格闘技にマイナス補正がある上に装備も軽い私の全体重を受けて、梟男は踏鞴(たたら)を踏む。首にこんなことされたら死ぬかもしれないと思うほどだが、ここではバランスを崩すだけである。衝撃以上に威力は低く、HPは数パーセントも削れない。


 私は体が落ちる前に両手を地面についてバランスを取る。そのまま半回転して両足を地面につける僅かな間に、私の映し身は弄月を振るって梟男を追撃した。

 段々良くなってきているとはいえ、まだまだ攻撃力も回避技術も発展途上。素早く体勢を整えた梟男の鋭い爪が、その柔らかな肌に迫る。


 彼女はその爪を避けようと身を捩るが、それより早く私が梟男の腕を蹴り上げた。うーん、戦闘思考が育っているということは、回避も練習させた方がいいのだろうか。鏡鳴の社でも感じたが、自分が負けるとこあまり見たくないんだよね。


 腕を蹴った直後に私が滑り込むように体勢を下げると、映し身は梟男に向かって炎の舞を使った。炎が羽毛の生えた体を焼いていく。

 映し身のスキル使用頻度はあまり高くないのだが、これもいずれは改善されるのだろうか。そうだといいなとは思うが、この性能でスキル濫用するとちょっと強すぎるかな。そうなるとヒーラーのペットが映し身一択になってしまう気がするが。


 梟男の周囲に毒の霧が湧き出し、じわじわとHPが減る。人食い蛇の魔法だ。この作品にはフレンドリーファイアがないので、ノックバックしないこの魔法は援護攻撃として非常に優秀である。

 蛇が常駐型の中で比較的人気な理由の一つだったのだが、今は肝心の火力が今一つだ。今後の成長に期待である。


 私は霧に体を隠しながら、自分の映し身のスキルが終わるタイミングに合わせてハイキックで顔面を狙う。瑞葉なら絶対に届かない高さなのだが、ラクスは身長が高いし足も長いのでギリギリ届いた。

 その隙を逃すまいと映し身は剣を突き出し、私と位置が入れ替わる。


 私も少しずつ後退する梟男を追う。映し身の肩に手を置いて、彼女を乗り越える様に梟男の鳩尾を蹴り抜いた。蹴りは流れる様に急所に吸い込まれたが、威力が低いので人体の中央部分への打撃はあまり効果がない。

 私はそのまま落ちる様に体勢を下げて梟男の爪を回避する。

 体勢を下げた私に合わせて、映し身が月影の舞で梟男を攻撃。


 ちょっと面白いかもしれないなこれ。

 さっきまではユリアとの連携を参考にして戦っていたのだが、どうやら判断能力が上がってきたこともあってか結構無理が利く。二人で同じ動きが出来たら相当面白いんじゃないかなこれ。


 闇の魔力に飲まれて消えて行く梟男を見送りながら、私はこれからの連携について考え始めるのだった。


5万PV達成しました。

4月1日ですが嘘ではないです。

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