表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/153

カエル山の秘密

 泥団子を迎えた私達3人は、サクラギ草原の道なき道を進んでいた。目指す場所は暗闇の洞窟の反対側、カエル山の麓である。

 そこはレベルは低いが鉱石が大量に採掘できることで有名らしい。運が良ければ宝石も出てくるそうだ。


「それにしても朝日が気持ちいいな。早起きしたみたいだ」

「もしかして今起きたの?」

「ああ、ついさっきな」


 泥団子の大欠伸にユリアが呆れている。休日はゆっくり寝ていたいという気持ちもそれなりに分かるが、すでに時刻は午後1時を過ぎている。一般的に考えれば遅すぎると言っていいだろう。


 そんな話をしながらのんびりと草原を歩いていると、前方に黒い影が立ち上がる。


 それとほぼ同時に私が飛び出し、まだ正体も判然としないモンスターを一刀両断。この辺りのモンスターなど倒しても微々たる経験値しか出ないが、疾風剣は移動技として非常に便利だ。


「ラクス、張り切ってるねー」


 ちょっとだけ速足で歩いてくる二人に手を振ると、私は二人に合わせる様にゆっくりと歩みを進める。カエル山はもう目の前だ。



 ***



 カエル山の麓には、湿度の高い林が広がっている。その林の所々に岩盤が突き出しており、そこが鉱石の採掘ポイントらしい。


 私達は東の空に浮かぶ太陽に照らされながら、各々サクラギ商会で買った採掘道具でひたすら岩を掘っている。じめっとした暑さが不快だが、汗をかいたりしないだけマシか。


 そんな私達三人の表情は、見るまでもなく暗かった。


「……鉱石っていうと、鉄とか銅とかの印象だったんだけどよ」

「掘れども掘れども謎の石しか出ないねー」


 そう、この採掘場、さっきから出てくるのが“白い石”という石ばかりなのだ。おそらくこれが石の剣の材料なのだろう。同じ色をしている。

 私はインベントリから白い石を取り出してみる。どう見ても拳大の粗く削られたただの石だ。これをどうやって武器の形に成形しているのかは謎である。


「はぁ……あの、もうちょっと奥に行ってもいいかな」

「そうだな。まさか俺も石しか見つからないとは思ってなかった。もっと下調べすりゃよかったな」


 三人で頷き合い、麓にある他の採掘ポイントをすべて無視しカエル山を登る。この山が鉱山なら上にも何かあるだろう。


 かなりの急斜面だが疲労も怪我もしないことをいいことに、私達は登山家もビックリのハイペースで登る。ジャンプで山登りなんて現実で実行したら、どれだけの低山だろうと地獄を見る羽目になるだろう。


 そんな風に私とユリアは何とでもなるが、物理系の能力値が低い泥団子には少々難しかったようで、二人で手を貸しながらサクサクと登る。


 そしてどれだけの時間が経っただろうか。

 私達は山の中腹に大きな洞窟を発見していた。


 私はカエル山の情報をくれた泥団子を振り返る。彼は途中で転んだ時に付いた葉や枝を払っている所だった。


「泥団子、ここのこと知ってた?」

「いいや? カエル山の麓に初心者向けの採掘ポイントがあるって攻略Wikiで読んだだけ」


 そういいながら、メニューを呼び出して件の攻略サイトで検索をかけている。

 私はメニューからマップ機能を呼び出す。それによるとこの洞窟の名前は“カエルの岩屋”。泥団子の話では少なくとも攻略サイトには載っていなかったらしい。


「まぁこの世界広いからなー。こういう小さい洞窟をいちいち書き込んでたら大変だって話なんじゃないか?」

「それはそうだね」


 草木に隠れ、ツタが垂れているこの入り口を発見するのは難しそうだが、そういうことなのかもしれない。私もそれに納得すると、ユリアは不満そうに声を上げた。


「そんな夢のない事言ってないでさ! 新発見だ! いやったあ! って喜ぼうよ!」

「いやでも、このゲームサービス開始から三ヵ月だぜ? 毎日10時間プレイした人は30日×3ヵ月×10時間で大体1,000時間だ。それだけの時間を数万人がプレイしてて、最初の街から1時間で到着するこの場所に気付かないとかありえるのか?」


 まぁ、一日10時間プレイしている人数がそれほど居るのか分からないが、泥団子の言っている事は一理ある。ここはサクラギの街からほど近い初心者向けの採掘場。その山中でこれが見つからないとは思えない。


 ただ、それはここで言い合っても仕方のない事である。


「まぁ、とにかく入ってみようよ。もしかしたらユリアの言う通り、未発見の金銀財宝ざっくざくかも知れないよ?」

「流石にそれはないだろー」


 希望を抱くユリアを先頭に、私達は洞窟へと入る。真ん中に回復役の泥団子、最後が私だ。今回は何があるか分からないので泥団子には松明を持ってもらっている。ただの炎とは思えない光量が洞窟内部を照らし出していた。


「ほら、結構深いじゃん!」

「まぁ、深いな」

「確かに深いね」


 敵影感知で探ってみると、どうやらこの洞窟にはモンスターも居るようである。急斜面にはモンスターはいなかったし、草原も麓も取るに足らない雑魚ばかりだった。私は少し気を引き締めて、少しワクワクしながら奥へと進んだ。


 そして、洞窟に入ってしばらく経った後。


「そい!」


 ユリアの斧が不格好な人形を吹き飛ばしていた。


 結果から言うと、敵はそう強くはなかった。アイアンゴーレム・ミニという小さな人形と、ダンシングサーベルという空飛ぶ剣、そして結晶兎というガラス細工の様に美しい兎。

 合計三種類のモンスターが出現したが、どれも泥団子から攻撃力上昇効果を貰ったユリアの攻撃を弱点に当てれば一発で沈む程度である。


 しかし、一つ誤算があったとすれば、


「あ、銀出た!」

「お、ラッキーだな」


 そう、ここのモンスター、何と倒すと鉱石を落とすのである。

 アイアンゴーレム・ミニは鉄鉱石と稀に銀鉱石を、ダンシングサーベルは折れた剣という素材アイテムと暗化銅鉱石という鉱石を、そして結晶兎はたまに結晶核という宝石を落とす。


 更に素晴らしいことに、洞窟内にそれなりの数がある採掘ポイントからも普通の銅鉱石や鉄鉱石を採掘できた。さっきの麓の採掘ポイントに比べて明らかに優秀だ。冗談で言った金銀財宝ざっくざくに割と近い状況である。


「ほらほら、私の言う通りだったじゃん。二人とも反省してよね!」

「いやこれ多分、誰かが発見して黙ってたやつじゃねぇかなぁ……」

「何でそんなにネガティブなの!?」


 ユリアはそんな反応をしながらも器用に結晶兎を叩き割っている。私も採掘ポイントから鉱石を掘り出しながら泥団子に心の中で同意する。

 だってここ、麓の採掘ポイントの途中から真っ直ぐに頂上を目指しただけの場所だよ? 見つからないはずがないじゃん。


「んぇ?」


 そんなユリア曰くネガティブなことを考えて無心でピッケルを振っていると、採掘ポイントがキラリと一瞬光った。予想外の事態に思わず変な声が出る。

 もう一度叩いてみるが、採掘ポイントに特に異変はない。中に何かがあったというよりは、光る何かが取れたのだろうか?


 非表示にしていたシステムメッセージ君を呼び出すと、取得物には“風の魔石”と書かれていた。


「……ねぇ、泥団子」

「何だ? ピッケル壊れたか?」

「魔石って何?」


 インベントリから取り出して説明文を読むと、『風の魔力を秘めた宝石 素材アイテム』と書かれている。


「魔石って言えば、今隣の隣町くらいで出てきた属性素材で、結構高値で取り引きされてるらしいぞ。……って、何でそんなことを……?」

「何か知らないけど取れた」

「嘘だろ!?」


 泥団子が駆け寄って私の手に乗っている直径数センチの緑の球体を覗き込む。


「これが……って、よく考えたら本物見たことねぇからインベントリに入ってないとわからん」


 この作品、他人の持っている物の説明文は例えパーティメンバーだろうと読むことができない。私は魔石をインベントリに入れて泥団子の肩を叩く。

 視界には果敢にモンスターへと突撃するユリアの背中が小さく映っていた。流石にユリアも松明の光が届かない位置まではいかないだろうが、それでも置いて行かれるのは良くないだろう。


「ほら、ユリアが先に行っちゃうよ。確率で取れるなら私が全部叩いて行くから」

「あ、ああ。おいユリア! ちょっと待ってろ!」


 その後も私達はうっはうはの鉱石集めの旅を続ける。これだけあればもう十分だと誰もが思ったが、それでも私達は止まらなかった。


 ただ、幸せな時間は長く続かない。

 それは唐突に終わりを告げた。


「あれ、広い場所に出たね?」

「そうだな。ってかここ何か明るくないか?」


 そんな二人の声を聴きつつ、魔石を求めてピッケルを振り続けついに最後の採掘ポイントからキラリと光る物が零れ落ちる。

 風の魔石だ。試行回数が少ないのでまだまだ分からないが、この洞窟をここまで採掘すれば1つか2つくらい出てくるものらしい。


 私も二人の後を追って部屋に入ると、それと同時に大きく洞窟が揺れ始めた。


「何だ!?」


 泥団子の言葉に呼応するかのように広場の中心の土が盛り上がり、巨大な“手”が飛び出す。続いて頭が岩盤を砕くように持ち上がり、止まった。


 名前とHPバー、そして敵対キャラクターであることを示す赤いアイコンが表示される。


 名前は“大地の精霊 プロトタイプ”。上半身だけが地面から生えた奇怪な顔のない巨人である。


「ボスだー!?」


 ユリアの歓喜とも驚愕ともつかない絶叫を合図に私達は武器を構えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ