第3エリアへの一歩
「これで全員分ペット揃ったね」
「まぁな。俺のがかなり見劣りするが……」
あの石像の洞窟での戦いから一夜明けた今日。
私達は全員揃ってペットを手に入れていた。
私は映し身、フランはクラヤミと映し身、泥団子は前々から言っていた人食いの蛇を手に入れ、そしてユリアはあのデュラハンのペット化に成功している。
ちなみに昨日デュラハンの魂が落ちたことに気が付かなかったのは、フランがレアドロップ通知を切っていたからである。どうも気が散るらしい。
この作品のシステムメッセージ君は主張激しいので、ほとんどのプレイヤーは自分好みにメッセージの通知を切っている。魂周回のおかげでレアドロップ通知を復活させるプレイヤーは増えてはいるが、未だにそれすら切っている者も多い。
哀れ、システムメッセージ君。君の事は忘れないよ。私も自分で何を切っているのかもう覚えてないけど。
話を戻そう。
デュラハンは本来第3エリアに出没するモンスターであるが、ペットには装備制限がない。そのため魂が入手できて、強敵を倒せれば何も問題はなかった。
もちろん第3エリアのモンスターとは言っても、普通の無限湧き雑魚モンスターなのでそこまでの性能はなかったが。
フランのクラヤミは召喚型、泥団子の蛇は常駐型、ユリアのデュラハンが一撃型なので、これで一応完全装備型を除くすべての仕様のペットが揃ったことになる。装備型は追加効果がそのプレイヤーに合っているかしかないし、成長もしないので完全に別種として扱われている。今回は除外でいいだろう。
「んー……能力値を均等にするように計算すると、やっぱりDPSは常駐型の方が強いね。盾としても常駐型が有利だし。一撃型は成長すれば使用間隔とダメージが上昇して大きく成長する可能性もあるけど……」
「結局常駐型の攻撃力も上がるから大きく差が縮むことはないんじゃないか? その分装備としての追加効果は一撃型の方が圧倒的に強い。常駐型は追加効果なしが基本なのに比べて、一撃型の追加効果は……」
「そうだね。召喚型は良くも悪くも平均的って感じかな。多分ペットの性能順は基本的に常駐、召喚、一撃、装備が基本だね。装備としての性能は逆順になってるわけだ。映し身は一撃型で常駐するペットを召喚するけど、装備の追加効果はなし。事実上の常駐型として扱われているみたい。不具合の線は消えたと見ても……」
「しかしこの能力値の平均化がそもそも前提として間違ってる可能性もあるわな。まだ情報が出揃ったわけじゃないが、常駐型に弱いペットしか居ないなら、どの面から見ても一撃型の方が強くなるわけで……」
「それだとボス系統が一撃型ばっかりなのが影響しちゃわない? そもそも入手難易度が低いならそれも考慮されなきゃいけない。そうなってくると評価基準から見直す必要が……」
「あーもう! 難しい話終わり!! フランが寝るから!!」
私と泥団子がリストや実験結果をまとめた表を見ながらそんな話をしていると、ユリアが突如そんな叫び声を上げた。ちなみにゲーム内で寝ると強制的にログアウトされてしまうので結構問題だ。
私達は渋々話し合いを止めて、次の行き先を決めていたはずのユリア達に向き直る。
「で、行き先は決まったのか?」
「もうさ、サクサク行こうよ。目指せ第3エリアって感じで」
「第3エリアか……確かに、この前の戦闘で適正レベルに乗ったよね」
この前のデュラハン達との戦闘で、私達のレベルはかなり上昇していた。そもそも第2エリアに到着してからは高レベルダンジョンばかり巡っていたので、レベルの上昇頻度も高い。個人的には第2エリアの南や神域の試練に行ってみたかったのだが、今の私達ならばギリギリ第2エリアの関所を抜けられるだろう。
ちなみに第2エリアの関所は三つ。北東、北西、南だ。ここから一番近いのは北西の関所。鏡鳴の社の更に奥だろう。
第3エリアにはモンスターと戦うためのお城と城下町が三つあり、北西の関所を抜けた先はツバキの街という街があるはずだ。この世界の人類圏の中央にあるサクラギの街と同じくらい栄えた街で、比較的平和なサクラギの街に比べると武闘派な雰囲気の場所らしい。
第3エリアのプレイヤーはそれぞれ三つの街のいずれかを選択して拠点にするので、サクラギの街に比べると人も少ない。第2エリアに来て実感したのだが、あそこの混雑具合は世界一だ。初心者全員の拠点なので当たり前と言えば当たり前なのだが。
ちなみに、第3エリアの関所を抜ければそこはもう人類圏ではない。当然ながら人里はなく、完全にモンスター達の楽園であり、通常フィールドですらダンジョンと同じようにモンスターがポップする場所……という噂だ。第4エリアに行ったという話は未だに聞かないので分からないが。
おそらくだがペットモンスターの育成が完了し、次のアップデート内容である奥義の追加がされれば流石に突破者が出て来ると思う。レベルカンストの上級者様には是非とも頑張って欲しいと、職業レベル63の私は思う。ちなみに種族レベルは38。レベル100って遠いんだなと改めて感じる。
第2エリアの突破の適正レベルは65。全員若干低いが、適正レベルは5くらい低くても、連携が取れたフルパーティならば結構余裕で突破できる。流石に全員10以上低いと厳しくなってくるが、私達にあと誰か一人、ラリマール辺りを加えれば十分に突破できるだろう。
もちろん、相応の事前準備は必要だが。
「んー……装備の更新は必要かな。金属装備はどうする? って、買うしかないよね」
「今地味に値段上がってるよなー。誰か頼める相手居ないのか?」
「私達第2エリアに来てからずっと一緒だったじゃん。居るわけないでしょ」
「ずっとではない。居ないけど」
偶然マツメツさんが第2エリアに来たりしてないかな。あれからしばらく経ったしそろそろ来てもいい気がするんだけど……。
私はフレンドリストから彼にメッセージを送るかしばらく悩み、そして止めた。
今は特にそれっぽい素材も持っていないし、都合よく利用しているようなのがちょっと気になる。しばらく連絡も取っていないのもあって気が引けた。
私は取引掲示板で装備の欄を見ていく。
とりあえずラリマールの杖とユリアの鎧、斧……あ、忘れていたけどフランの装備も更新しなければいけないな。あの銃の弱点特効と本人のエイミング精度の所為で忘れていたが、未だに全身第1エリアの装備だ。
「うーん……高いなぁ……」
どうも最近はインフレ気味で装備が高い。私が始めた頃は第2エリアの装備なんてこんなにしなかったのだが……。
買うだけの十分なお金はあるのだが、何となくこのお金に手を付けるのは憚られる。悪い事したわけじゃないんだけどね。
「取引掲示板って普段から高い気がするけど最近異常だよな。露店とか回った方がいいんじゃないか?」
「露店も多少は値上がりしてるみたいだけど、こっちよりはマシかなぁ……」
「露店……あ、もしかして今あそこに行けば強い装備売ってるんじゃないかな」
私が偶然思い付いた街の名前を挙げると、全員がそれに賛同する。
どうやら次の目的地が決まったようだ。




