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映し身の魂

 二戦目の鏡の間にたどり着いた私は、さっきとは違い弄月をインベントリに仕舞い込む。

 ここからは全力も全力、月夜の舞姫で速攻を仕掛けていく手筈になっている。


 この作戦で不安だった敵の火力の増大だが、フランが私を即座に射殺することができると分かったので安心だ。私から言わせれば全く安心できないのだが。


 再び同じような演出で転移させられた私達だが、今度の鏡は一味違う。

 二枚で宙に浮いているのである。当然現れる映し身も二倍だ。ここからが本番と言われる所以である。


 一戦目は同じ戦力、二戦目以降はそれ以上の戦力を相手に戦い続ける、非常に厳しいダンジョンである。合わせ鏡になっていないだけマシだろうか。

 ちなみに最初に鏡に映らない場所に移動しても何の効果もない。ちょっと演出がおかしく感じるだけである。


 敵の出現タイミングを読み切ったフランが、出現直後に一人目の私を弾丸で消し飛ばした。儚いなぁ私。

 その銃声を合図に私とユリアが駆け出した。私の役割は、とにかくフランの映し身の足止めだ。他の事は絶対にできないと伝えてあるので、本物のフランやユリアが戦況を何とかしてくれることに期待である。


 左に出現したフランの弾丸を大きく回避しながら、右のフランに接近する。鏡の位置の影響で映し身同士の立ち位置が遠いのが難点だ。私は通常攻撃でフランを撫でる。

 当然弄月のような火力はないが、この舞姫には魅了の効果が付いている。発動条件はこの武器で攻撃した姿を目撃すること。


 願わくばあっちのフランの映し身が止まってくれますように。

 私の接近に反応して距離を取る目の前のフランから一瞬視線を外して、後ろをチラリと見やる。止まって……ないね!


 私は彼女の銃口から逃れる様に、大きく迂回した。

 その間に、逃げていた映し身が体勢を整える。距離もあまり縮まっていない。思った通り少々面倒だ。


 私は近い方の映し身の背後に回り込むように駆ける。

 彼女は即座に私に銃口を向けて弾丸を発射。急な動きに戸惑うことなく、私はスライディングするように下へともぐりこんだ。


 直後に私の体の上を、3発の弾丸が抜けていく。魔銃使いは三連射のスキルが結構あるので判断が付かないが、スキルであることは間違いない。あの急な動きの変化はスキルによるもので、その後の隙は大きい。


 このタイミングでスキルを使ったのは、少しばかり私に都合がいいと言えるだろう。

 いつもよりも長い硬直時間に合わせる様に、私は旋風の舞を発動する。

 もう一体のフランは、手前のフランが邪魔で射線が塞がっているはずだ。スキル中に攻撃される心配はない。


 猛烈な風に体を傷付けられた映し身のフランが、すぐに消滅したりしなければ。


「あっ」


 舞姫の攻撃力を忘れていた。未だにスキルの発動中である私に、奥のフランの銃口が向く。

 これは死んだ。


 短い、乾いた銃声が戦場に響いた。


「えっ!?」


 銃声の残響を聞きながら、私は目を見張る。


 フランの映し身の銃があらぬ方向へと吹っ飛んで行ったのだ。

 当然暴発などではない。やったのは本物のフランだ。彼女は私のピンチに気付いて、即座に映し身の銃を撃ち抜いたらしい。え、何? あの人特殊部隊か何かなの?


 スキルが終わった私は、残りの映し身に接近して炎の舞で攻撃する。超火力で焼かれた彼女はすぐさま崩れ落ちていくのだった。


 その後はあっさりと戦闘が終了した。

 私は早々にフランに狙撃されていたし、戦線の後ろで回復を続けていた泥団子は私が倒していく。

 そして耐久力の関係で一番最後まで残っていたユリアだが、ユリアの映し身は……。


「何か、ユリア魅了かかりやすくなかった?」

「えっ!?」


 彼女の映し身は私の姿を見てぼうっと突っ立っていることが多かったのだ。

 即座に殺された他の映し身も同じ確率だったのかもしれないが、体感的には非常に多かったように思う。ユリアは慌てて否定していたが、多分魔法耐性とか装備の追加効果の問題なんだろうなぁ……。


 魅了はプレイヤーには視線固定、モンスターには行動不能効果なので敵から私達への魅了はさほど怖くない。視線の移動が忙しい私がかかると大問題なのだが、魅了を撒く敵の私はフランが即座に倒してくれるしね。


 私達はさっきの戦闘を参考に戦略を立て直すと、再び戻ってきた廊下を突き進むのだった。



 ***



 このダンジョンは五部屋まである。

 一部屋目と二部屋目は見ての通りだが、三部屋目からもこれまた奇妙な部屋が続く。


 三番目の部屋には鏡が五枚。パーティの内の誰か一人が五体で登場する。数の不利は小さいが、誰が出て来るかによって難易度が大きく変わる。私達のパーティで言えば、泥団子ならボーナスステージ、フランなら地獄絵図である。最悪の場合は、泥団子が全力で回復しつつユリアが特攻するしかなくなってしまう。


 四番目は魔法と物理が反転した映し身が登場する。通常攻撃が魔法判定になるため魔法防御の薄いユリアに大ダメージが入る。そのため地味に厄介な敵だ。耐久も反転しているので、非常に硬いはずのユリアの映し身が物理攻撃に弱くなるのが救いだろうか。

 ちなみにこのゲームでは非常に珍しい物理判定魔法が放たれる場所として、検証界隈では有名な場所である。


 そして最後の部屋は非常に単純。それでいて最大の難関。全滅するパーティが多発し、そこまでいかなくとも蘇生薬のストックをガリガリ削る部屋。


 三面鏡である。

 二倍でも辛いのにそれが三倍。ある意味このダンジョンのボスだ。


 私達のパーティで安定する攻略法はまず、フランには私ではなく最初に自分の映し身を倒してもらことで素早い遠距離攻撃の頻度を落とす。

 フラン二体なら私が何とか足止めや、隙があれば倒したりもできるのでフランは私が引き受ける。

 泥団子はユリアを支援し、その支援を受けたユリアが全力で残った私と自分の映し身を受け止めるという流れだ。


 ユリアの負担が重すぎる上に、私の動きが安定しないので結構な死者を出す戦略である。

 それでも大量に持って来た蘇生薬をふんだんに使い、ユリアと私の回復をして倒していった。ここでもフランが“私殺し”に大活躍だ。今回の周回最大の功労者と言ってもいいだろう。


 ちなみに魅了は、ユリアの映し身とフランの映し身に効果があることが確認できた。おそらくは魔法耐性に比例しているのだろう。私は魔法防御こそ低いが、装備の追加効果の影響で状態異常にかかりにくいし、泥団子はこのパーティの中で一番の魔法防御を誇る。

 これをユリアに話したら、本物とは大違いだと不貞腐れていた。


 私達は休憩を挟みつつ、何度もこのダンジョンを攻略していく。

 そして繰り返すこと五度目の最奥の間。蘇生薬も尽きてきたというその時に、私はシステムメッセージ君がレアドロップを通知していることに気が付いた。


 詳細を開いてみるとそこには“映し身の魂”と書かれている。


「あ、出たよ」

「マジで!?」

「消耗的にこれがラストだったから助かったね!」

「私はもっと回ってもいいけど」


 とりあえずは目的の達成に喜んで、ダンジョンを脱出する。いつになく上機嫌だったフランは不服そうだが、特に文句はなく後を付いて来る。今日は終わり、という部分は賛成しているのだろう。

 外へと出ると何人かのプレイヤーに私達が喜んでいることがばれたらしく、譲ってくれないかと相談されたが当然拒否。少なくとも最初の一つを売りに出すつもりはなかったが、全員結構な金額を提示してきた。


 ちょっとした金策にはなるのかもしれない。


 私達はそれぞれの馬に乗って最寄りの村に駆け出したのだった。


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