事前告知2
ボスを倒し終えた私達は、獲得した素材を確認しながらトウヒの町に戻って来ていた。
ラリマール達から十分な数が揃わなかった素材を譲ってもらったし、後で装備を作る実験をしようと思う。一番重要な木材がこの辺りでは手に入らないが、薬代が浮いた分のお金はあるし、未だに木材はプレイヤーから買うと結構安いので何とかなるだろう。
そんな事を考えながら泥団子の待つ場所へ向かう。
そこはレンタル作業場からほど近い公園。この町ではプレイヤーがそれなりの人数で集まることができる無料の施設として人気だ。サクラギの街では中央の噴水広場が担っていた役割である。
私は四人と別れ、あの街とは少し雰囲気の違う公園のベンチに座っていた泥団子を見付ける。どうやら二人はまだ来ていないようだ。それとも最初から私にしか集合をかけていないのだろうか。
泥団子に声をかけて隣に座る。近くにいたプレイヤーから少なくない恨みがましい視線を集めたが、泥団子は特に場所を変えようとも言わずに私を迎えた。おそらくはあまり気が付いていないのだろう。最近は結構遠慮なく私の事見て来るし。
「二人は?」
「どうもログインしてないみたいだな。お前が朝早すぎるんだ」
「夜更かしよりは朝起きた方が健康的だと思うけどね」
朝起きてやることがゲームだと、結局どっちもどっちという感想も抱くが。
「で、話ってのはこれ」
泥団子は早速とばかりに公開設定になったブラウザで、天上の木公式のホームページを私に見せた。
そこにはこの前話していた半年記念の続報と、アップデート対応のタイミングで数秒間のサービス停止を行う旨が書かれていた。世界が一瞬止まるだけでサーバーから追い出されたりはしないらしいので、これはあまり関係ないだろう。
「あー、もう八月だもんね」
「リークされてた内容とほぼ同じだな。まぁ無難なところだと思う」
初心者救済ボーナスは概ね前に書かれていたことと同じ。強いて言えば、換金アイテムの売値とそれをドロップするモンスターの出現場所が公開されていることだろうか。
思った通りモンスターは通常フィールドの全域で出現し、売値はそこそこ止まり。私なんかはまだちょっと高額に感じるが、出現場所がダンジョンではない事を考慮すると普通に狩りをした方が稼ぎは良いだろう。第3エリアの上級者達には尚更だ。
私は初心者向けの記述を読み飛ばすと、気になっているペット機能の詳細を開く。そこには泥団子の言葉通り、確かに無難と言える内容が書かれていた。
各地で出現するモンスターを倒すと、そのモンスターの強化版と戦えるアイテムを低確率で落とす。そのアイテムを使って呼び出した強敵を倒せれば、そのモンスターをペットにできるそうだ。
ペットは一人一体まで“装備品”として一緒に行動することができるらしい。
効果はモンスターに依って様々で、装備者が死ぬかモンスターのHPが無くなるまでずっと一緒のものも居れば、一定時間限定で召喚して戦うもの、戦場に強力な一撃を放ってすぐに消えてしまうもの、そして完全に装備品として特殊な効果を発揮するものまで居る。
ペットは傭兵にも装備できるので、お金を払ったプレイヤーが若干有利だろうか。騎乗できるかは書かれていないが、一部モンスターは乗れるかもしれない。こちらはモンスターそれぞれの性能がはっきりしてからしか分からないな。
「結構私達も関係あるね」
「というか、プレイヤーなら手を出さない理由が特にないな」
この仕様は、一つパーティの戦力が倍増するシステムだ。上手く使えば止まっている第4エリアへの挑戦が進むかもしれない。
私がそんなことを考えている隣で、泥団子は私が閲覧している場所を横目で確認する。
「ペットシステムの続報が出てからは、今まで判明している奴の中でどれが強いかって話題になっている」
「実際に実装されてみないと分からないけど、後衛は自分を専門に守ってくれる壁役が居れば心強いかもね。前衛中衛は……スタイルとパーティのバランス次第かなぁ」
「そうだな。まだ予想だけど常駐型は強そうだって話になってる。その他は性能次第だな。まぁ実際の性能より可愛いモンスターゲットできることに興奮してるやつも居るけどな」
サイトには特に入手できるモンスターが制限されているとは書かれていないので、特殊なモンスターやボスなんかももしかしたら入手できるのかもしれない。難しそうなのは再戦不可能な神域の試練やミッション関連のモンスターくらいだろうか。
私がピロピロと数度読み返していた画面をスクロールをしていくと、下の方に半年記念のアップデートの第二弾の情報が掲載されていた。
そこには何と、各職業の“奥義”追加と期間限定イベントについて書かれている。
奥義については詳細が掲示されていないが、要するに新規スキルの追加だろう。
私はまだまだスキルツリーの上位系を取得していないので、今すぐに関係があるかは怪しい。ポイント搾りに難がある傭兵達に偶然入手できたSPスクロールを全部プレゼントしているので、多分平均よりも遅い方ではあると思う。
フランなんかはカジノの数量限定スキルポイントスクロールを全入手して、全部自分で使っているので滅茶苦茶早い。もう残り十数個で魔銃使いのスキルツリーをコンプリートするらしい。
私達でこの調子なのだから、上位陣はもう普通にスキルのコンプリートを終えている。メインの職業とは別に、サブで使う職業という概念すらあるらしいのだから恐ろしい事だ。
そんな状況のため、泥団子曰く新スキルの導入は一部で結構盛り上がっているようだ。
そして前々から話題になっていた期間限定イベントだが……
「これつまり、どこからでも行けるお祭り会場がありますってこと?」
「……表現はともかく、認識は正しい」
書かれていることを読む限り、イベント期間中は天上への塔というダンジョンが出現するらしい。そこへは期間中にログインすることでに配布される、専用アイテムでワープすることができるようだ。
その内部のモンスターを倒したり、最高到達階層が増える毎にイベントスコアが加算される。スコアには累積報酬とランキング報酬がある他、ダンジョン内部には宝箱が設置されていて中からレアアイテムが貰えたりするようだ。
そして最後の一文には、イベントダンジョンは強力なモンスターが出没するが死んでもペナルティがないので気楽に参加してみようと書かれていた。
「ちなみにこの仕様ってゲームでは普通なの?」
「んー……まぁまぁ普通? ただ、最高到達地点がポイントになるって仕様は珍しいかもな。大抵は個別に報酬だったりする」
「でもこれって、イベント期間中ずっとこの塔を登ってた人が勝っちゃうよね?」
「いやそっちは普通。こういう期間限定のイベントは拘束力強くて面倒なのが大半だからな。暇人が勝つのはいつの世も一緒だ」
泥団子曰くそれが普通な事らしい。何か一気に面倒な感じになって来たな……。
私の雰囲気を察してか、彼は苦笑を溢しながらこう続けた。
「大抵の人は累積報酬で欲しい物貰ったら終わるんだよ。ランキング上位なんて廃人の集まりだし、万が一変な考え持ってる人が上位だったりすると緊張感でヒステリー起こしたりしててあれだ。特別目指すもんじゃない」
「尚更ちょっと嫌なんだけど……それ実体験なの?」
「まぁ俺もVRゲーム歴一年くらいになるし、何々キャラ総選挙みたいな人気投票とかでは地獄を見てきたからな……***、あ、コードに引っかかったわ。今のなし」
「……止めよっかこの話」
その後私達は気を取り直して、ペットにしたいモンスターの話題に転換する。
私はあんまり可愛いのを見たことがないのだが、どうやら精霊や悪魔の類には美男美女のモンスターが居たり、獣系には可愛すぎて愛護団体という名のファンクラブまであるモンスターも居るらしい。大抵属性魔法型に偏っていて性能は微妙そうだが。
ネットに上がっているスクリーンショットを参考に、私達の会話はあれやこれやと盛り上がっていくのだった。
ブックマーク数が百に到達したのが嬉しかったので、今日はもう一話更新します。




