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事前告知

 あのステージから数日後。

 私達はただひたすらにレベル上げを繰り返していた。雷鳴の洞穴は適正レベルに到達したので、他のダンジョンに潜ったり、スキルポイント稼ぎに転職して他の職業のレベリングを行ったりもしている。

 主に私の新装備のおかげで非常にはかどる。


 そんなある日の移動時間に、泥団子がある情報を教えてくれた。


「半年記念?」

「そ。リリース半年を記念して大型アップデートと、もしかすると初の期間限定イベントもやるかもって告知が来てた。まぁ(ほの)めかすってことはやるんだろうな」


 私は望に道を進むのを任せ、天上の木の公式サイトを開く。

 そこには泥団子の言う通り、派手なフォントでリリース半年記念と書かれている。


 今は七月の末で、この作品がリリースしたのは三月。半年というには少々気が早いが、どうやら八月は段階を踏んで次々と追加要素を導入していくらしい。今のところ判明しているのは、新規プレイヤー向けのボーナスと、ペット機能の導入。八月の頭に導入されるらしい。


 初心者向け経験値ボーナスは種族レベル15以下、職業レベル20以下に適用と書かれているので、私達にとってはスキルポイント搾り以外に関係はない。


 しかし初心者ボーナスの一種として書かれている、換金アイテムを大量に落とすモンスターの追加は、一応全プレイヤーに関係するようだ。

 ただ、どの程度の稼ぎになるのかは分からない。おそらくは初心者でも倒せる難易度で、初心者の小遣い稼ぎに使える程度の報酬、という感じでバランスを取ってくるだろう。上位陣に効率のいい金策を与えると一気にインフレしちゃうしね。正しい意味で。

 いずれにせよ、第2エリアで積極的に狙うだけのうま味があるかは微妙といったところである。


 そして気になるペット機能の追加だが、こちらは公式サイトでは詳細不明だ。近日公開となっている。


 泥団子曰くオンラインゲームのペット機能と言えば、騎乗可能な動物で野を駆けたり、戦闘をさせたり、完全に愛玩用だったりと色々あるようだ。

 ただ、戦闘に参加させられるとなれば傭兵に課金したプレイヤーから不満が出る可能性が高いし、騎乗動物だって馬を高値で買った人からの心証は悪いだろう。実際、私としてはそうなったら完全に使わない機能になってしまう。


 ブラウザから顔を上げて、泥団子に視線を投げる。色々と詳しい彼なら何か的を射た予想が出来ているかもしれない。


「んー……泥団子はどうなると思う?」

「まぁ初心者救済は金策重視じゃね? ペットに関しては分からんとしか言いようがない。パーティを圧迫するタイプの戦闘員とか、馬の上位互換とかにはならないと思いたいな」

「そっか……」

「それより初の期間限定イベントだろ。ネットじゃこっちの方が話題だぞ」


 期間限定イベント。そもそも私にはその概念すらよく分からないが、話を聞く限りでは現実のお店や企業のキャンペーンに近いものらしい。


 参加資格のある全プレイヤーが参加する一つのお祭り。開催期間中にモンスターを倒したりアイテムを獲得したりすると、それに応じて景品がもらえるのだとか。


 この天上の木ではリリースからこれまで、一度もそんなイベントはなかった。今まで話題になったのはすべて、永続的な新要素の実装である。


 しかしここで一つ気になる点がある。


 この世界は移動が長い。

 つまり、現在地から開催地が遠いプレイヤーはそれだけ不利になるのではないだろうか。例えば、今から第3エリアで一週間開催と言われれば、私達はまず行くことができない。


 私がそのことについて聞いてみると、泥団子もしきりに頷いていた。


「それな。だから多分、運営が主催するイベントは場所関係ない物になると思うんだよ。少なくともこの世界のどっかに会場があって「夏祭りだぜ! わっしょい! たーまやー!」みたいなあれではない」

「全マップに期間限定のモンスターが出没したりとか?」

「それかイベント用のマップがあってどこからでもワープできるとか」


 ワープか。そういえばこの半年記念でワープ機能解放されたりしないかな。


 現状、異なるエリア内に居る友人と一緒に遊ぶのは現実的でない。第3エリアからサクラギの街まで大体10時間。一日ログインしっぱなしでようやく、といったところである。泥団子も他のゲームで知り合ったフレンドが第3エリアにいるらしいが、一度も会ったことがないという。

 この点は結構評判が悪く、現実の友達に勧めたけれど一緒に遊べないと嘆いている人も多い。


 それに関所を越える毎に、ドーナツ状のエリアの輪はどんどん広がっていく。進む毎に同一エリア内でも移動に苦労するようになってしまうだろう。

 現状第2エリアでも端から端まで移動するのは結構大変だ。最短距離でも、広大な第1エリアを横断しなければならない。とても越えられないような広い広い湖や孤島のフィールドも用意されているらしいので尚更である。


 噂では、実は初期から実装されていてそれが発見されていないだけだ、と言う人もいる。これだけ文句を言われていて実装しないのは明らかにおかしいという意見だ。


 これは十分あり得る。

 私たち自身、第1エリアでは未発見と思しきダンジョンをいくつか発見しているし、カナタだっておそらくはこの作品で初のイベントだった。

 もちろんそれは、先人たちは先へとどんどん進み、後追いは攻略情報を見ながら進む第1エリアだったから、というのもある。しかし広大なこの世界で、前人未到の地などまだまだたくさんあるはずだ。


 そこにワープ機能を解放するアイテムが置かれているという可能性も捨て切れない。

 ダンジョンの最奥ではしれっと転移陣が設置されているので、この世界において質量体の瞬間移動は不可能という訳でもない。普通にありそうなんだけどなぁ。

 とはいえもちろん、私達は魔法は使えるが、魔法の理屈を全く知らない。設定上何らかの制約があっても知る由もないのだが。


 私達は目的の遺跡へと到着し、馬を下りる。

 私はフランとペットの話に夢中だったユリアを振り返り、アップデートの話題を振ってみた。犬やら猫やら鳥やら、可愛い生き物ならいいね。


「ユリアは他のアップデート何だと思う? そもそもこの世界に追加できる要素ってあんまりないと思うけど」

「んー……あ、あれじゃない? スキルポイントの振り直しとか」

「あー」


 意外にもしっかりした返事が来て驚く。

 スキルポイントの振り直し手段は現状、キャラクターの再作成しか存在しない。


 アカウント共通のインベントリに入れると、アイテムを失わずにキャラの再作成ができるので結構な人数が再作成をやっているらしい。傭兵も姿形が変わった同一人物だと判断でき、編成権限も持ったまま。失うのは完全に経験値だけの優しい仕様ではある。


 しかし、スキルポイントが全職業共通だと知らず、初期職業の短いスキルツリーを育成してしまうという事故は、初心者の間では結構頻繁に起きている。その辺りの仕様の変更はあるかもしれない。


「私はあれだと思う。装備が作る場所で違う強さになるあれの変更」


 フランはフィールドに出たモンスターを射殺しながら、気楽にそんな話で会話に参加した。

 ちなみに、装備の強さ云々というのは私が昨日話して教えたことだ。その時からあまり納得してない様子だった。


 例えば、第1エリアのプレイヤーが第2エリアの素材を使って装備を作った場合、本来発揮されるはずの性能よりも低く完成する。

 反対に、第3エリアで第2エリアの素材の装備を作っても強くはなならない。

 つまり、強い装備は手に入りにくい仕様になっているのだ。


 当然と言うべきか、弱く完成した装備にも救いはある。第2エリアに到着した後に、装備改造で手を加えれば第2エリア相当にはなるのだ。そのため私なんかはあまり気にしない仕様だ。むしろこの仕様がなければ弄月を装備できなかったので感謝すらしている。


 しかしフランはこの中で一人だけカジノ装備一色。ほぼ完全に第1エリアの装備なので不満なのだろう。唯一違うのは私が神域の狼戦で闇属性を付与した銃の一部分だけである。


「ってか、お前ら不満ばっかだな……」


 私達はその後も色々と空想を交わしながら、今日のレベル上げに勤しむのだった。


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