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移動

「関所の向こう側……ですか?」

「そう。この前通行許可を貰いに行ったでしょ?」

「あぁ、そういえばあれそういう集まりでしたね!」


 私は貸し馬屋で馬の値段を見ながら、シトリン達に第2エリアのどこに行きたいかを聞いてみる。今日のユリア達の反応次第だが、昨日の反応からして彼女らの誰かが行きたい場所を言ってくれればそこへ、という話になりそうな気がする。


 外に出て以降色々な場所を調べているカナタさんは興奮した様子だが、ラリマールとショールからは特に反応はなかった。どこへでもいく、とだけ伝えて後は成り行きを見守っている。

 私は早く聞いて欲しいとばかりに目を輝かせるカナタさんに質問を続けた。


「カナタさんはどこか行きたい場所とかありますか?」

「私、モミジの里とかサンゴの森とか樹氷の丘とか色々気になる場所があって!」


 私はカナタさんが次々と挙げる場所を淡々とメモしていく。

 見事にバラバラだ。私が把握していない場所もいくつかあったが、カナタさんはいきたい場所がどこにあるのかも知っていたので地図に印をつける。


 これを全部回るのは確定としても、結局問題はどこから行くかだ。ダンジョンは難易度があるから行ける順番が限られるが、人里も複数出ているのでやはりどの関所から行くのかの決め手にはちょっと難しい。


 私はこれらの場所に必ず行くことを約束してその話を止める。


「カナタさんの要望は叶えるとして、シトリンは何かないの? 希望とか」

「自分ですか? えっと……」


 どこでもいいとばかりの反応の2人に比べて、シトリンは明らかに何か言いたげだった。

 それなりの付き合いになっているので、こういう場では自分から何か言うタイプではないというとこも分かっている。少なくとも私に対しては一番自己主張をしない仲間だ。


 シトリンは少し視線を泳がせる。

 しかし私達が聞く姿勢を崩さずにいると、意を決した様に顔を上げた。


「北の関所の先には、毛豚という家畜が放牧されている牧場があると聞きました。そこにちょっと興味があります」

「モートン?」

「はい! もこもこに毛の生えた豚だそうで、毛刈り体験ができると!」


 北に牧場があるという噂は知っていたが、そこにどんな動物がいてどんなことができるのかまでは知らなかった。カナタさんほどではないが、シトリンはその牧場に興味津々といった様子だ。相当その豚が気になっているらしい。


「分かった。一応ユリア達に伝えてみるね。確証はないけれど、多分北から行くことになると思う」


 北の牧場に行くならここで馬を買わなくてもいいかもしれない。私は結局いつもの馬をレンタルする予約をして貸し馬屋を出た。



 ***



「この道を真っ直ぐ行くと北の関所だね! 移動何時間かかるかなぁ」

「大急ぎで3、4時間だとよ。ワープ機能実装して欲しいな」

「馬ってどのくらいの速度?」

「ここだと時速30㎞は出るって聞いたことあるけど、本当かな」


 空は今日も快晴で気持ちのいい日差しが降り注ぐ。出立日和だろう。まぁここは毎日こうだが。


 私とユリア、泥団子、フランさん、そして道中も見て回る気満々のカナタさんの五人は、サクラギの街とティラナとナタネに別れを告げて、ひたすら道を進んでいる最中だ。


 道はサクラギ草原を抜けて山の間を縫うように進んでいく。まだ出発したばかりで先は長い。それに、せっかくカナタさんも居るのでシラカバの村にも立ち寄る予定だ。そこで挨拶もするので、まず間違いなく三時間では到着しないだろう。


 ユリアは大きく空を見上げながら両腕を広げる。現実だと馬上でそんなことしたら落ちるんじゃないかな。


「風が気持ちいいけど、やっぱり移動って退屈だよねー」

「ユリア、補習楽しい?」

「突然何を聞いて来るかな、フランさんや」

「私補習受けてないから」

「くっそー……私も次はラクスに頼ってやるから!」

「少しは自分で頑張ってよ……」


 いや頼られたら応えはするけど。


 私は最後尾のカナタさんに歩調を……馬調(?)を合わせて近くに寄る。この馬は操作が楽で助かる。

 カナタさんはフランさん相手に多少緊張している様子だが、それでも流れる景色を楽しんでいるようだ。楽しそうでよかった。


「カナタさん、これからシラカバの村に行きますよ」

「あ、はい。……あの」

「はい?」


 彼女は少し言いづらそうにしながらも、言葉を続ける。


「私の事、カナタって呼んでください。敬語も要らないので」


 そういえば私、カナタさんにだけ敬語だった。初対面があれだったし、そもそも私は基本的に敬語を使う。マツメツさんもそうだしティラナやナタネもそうだった。

 敬語を使わない相手の方が限られていて、何となく個人作成の傭兵たちには敬語も要らないかなと考えていたというだけだ。他の3人は同級生だし。


 きっと、この中で一人だけ敬語を使われると距離があるようで嫌なのだろう。私は隣を走る彼女に微笑む。


「カナタ、分かったよ。これからはそうするね」

「あ……はい! よろしくお願いします!」


 そんな二人の様子をじっと見ていた人物が一人。


「ラクス、私は?」

「フランさんには敬語使ってないと思うけど?」

「さん付け止めて」


 フランさんは何となくフランさんって感じだからさん付け。やめろと言われたら止めるけれど。

 そもそもあの勉強会以前はあまり仲がいいと言えるほどの仲ではなかった。呼び方だってクラスの誰もがニックネームで呼んでいるから、私もそれに合わせていただけだ。


 しかし、確かにもう随分仲良くなった気がする。呼び方を変えるいい機会かもしれない。


「向こうでもフランって呼び方でいいの?」

「ランでもいいけどフランがいい」

「フランだね、分かったよ」


 フランの本名は布津 蘭。縮めてフランだ。ちなみに全く関係ないが、異世界人カーペンターこと金田 ふみは、金田とインベーダーを混ぜたカーネーダーというあだ名からカーペンターが来ているらしい。彼女が異世界人と言われる所以は……まぁ、ある程度自業自得の面がある。


 そんなやり取りをしている間にも馬は健気に休まず走り続け、私達はシラカバの村へと到着したのだった。


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