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傭兵の装備2

 夏休み一日目。

 私は今日も黙々と作業台に向かっていた。


 今日の傭兵のレベリングはユリアにお願いしている。私がメニューから許可を出せば、シトリン達も私のフレンドとパーティを組むことができるらしい。

 ずっと私しか編成できないものだと思っていたが、私がユリアに三人を紹介するという形で臨時パーティを作ることができたのだ。パーティ状態が維持されるのは私がログインしている間だけのようだが。


 私は出来上がった作品と現在時刻を見比べる。装備の作成は当初の予定通りに進んでいる。実際に使ってみるのも明日までには間に合うだろう。


 サクラギの街も目に見えて活気付いている。ここ一週間くらいはこの混雑を避けるため、第2エリアを目指して準備してきた。この装備はその総仕上げと言ったところだろう。


 それにしても夏休みパワーはすごい。格安VRマシンを頑張って買った学生や、社会的にはちょっと早い夏休みを取った社会人が(こぞ)ってこの天上の木をプレイし始めている。街に出れば初心者装備だらけだし、最近私に対する視線が復活してきてちょっと、その……あれ。ドキドキする。


「半分くらい終わったかな?」


 私は弓と槍の柄、そしてブーツや帽子などを作業台に置いて伸びをする。私の作れない武器はマツメツさんに依頼したし、私は私で残りの装備を完成させるだけだ。

 ちなみに、マツメツさんへの依頼料は、この前ティラナにプレゼントした失敗作の代金(一度断ったのだが、流石にタダでは貰えないと言われた)や私自身が傭兵のレベリング中に稼いだお金、そして何よりあの三人から装備代として渡された代金。それらを合わせて結構な額になったので、そちらで賄っている。サクラギの街にも例のカエル山の高級素材が安定して流れるようになったため、素材は何とかなるだろう。


 私の作業の中で最後に残ったのは、現状一番時間のかかる服の作成だ。特にラリマールの物は考えたデザインを実物にするのにかなり時間がかかるだろう。

 彼女らは装備の見た目に拘らないので、こっちから目一杯可愛くして「流石にこれを着るのは恥ずかしい」とか「可愛いですね!」とか言わせるのが目標だ。昨日は面白い素材も手に入ったのでちょっと楽しみだ。


 私は針を持つと、バザーで買ってきた布を縫い合わせ始める。


 多分だけど、私って凝り性なんだよなぁ。マツメツさんも同類な気がする。こういう黙々とした試行錯誤が楽しい人種だ。



 ***



「どうですか? 完璧ではありませんか?」


 ようやく指定したデザインの杖を持ってきたマツメツさんに、自慢の装備を身に着けたシトリン達を紹介する。


「完璧だ。完璧な……コスプレ集団だ」


 しかし、彼の反応は薄かった。というか、呆れている様に見える。

 おかしいな。シトリンは顔を赤らめて俯き、ショールは珍しく鏡の前で自分を見つめ、ラリマールは……一番張り切って作ったのにいつも通りだ。多分どんな衣装でも自分が美しいことを疑っていないのだろう。カナタさんに褒められて高笑いをしている。


 デザイン面は概ね私の目標達成なのだが、彼は何が気に入らないのだろうか?


「まずよ、あのクロスボウのお嬢ちゃんが着てるのは、何だ?」

「何って、エプロンドレスでしょう」


 シトリンが着ているのは淡いレモンイエローのエプロンドレス。ワンポイントで入れたミントグリーンのコサージュも可愛いく仕上がった。アシンメトリーな靴下とパンプスも注目して欲しい。

 服に合わせてクロスボウもパステルカラーでポップな見た目に変更した。軽そうな見た目に反して木製では最重量クラスの超火力弓でもある。可能なら矢にも色を付けたかったのだが、あれを個人で作ると面倒なので普通に他所から買っている。コピー機能が欲しい。


 私は俯いて裾を握り締めるシトリンの肩を叩いた。服の感想はどうかな?


「可愛いよシトリン」

「じ、自分は、こういうの……だ、ダメ、です」

「性能が第1エリアのトップクラスなのは嫌がらせなのか? というか、クロスボウにどうやって回復魔力上昇効果つけた」

「企業秘密。まぁ単純に材料の工夫ですけど」


 私は絡繰夜桜作成以降も色々と木工について調べていたのだが、私の木工技術はこの世界でも有数なのではないかと思える。ここだけはそこそこ誇れるのだ。裁縫で服を作るのも上手くはなったが、こちらはまだまだ第1エリアにも上がいる。


 マツメツさんが弓に回復魔力の向上効果を乗せる方法を気にしているが、木製装備は金属装備とは色々違う。

 そもそも素材の種類の数が違う。鉱石は種類は他の素材に比べて少ないが“合金”で性能を上げられる。

 それに対して木材はそもそもの素材の種類が豊富なのが特徴だ。しかも、こちらも組合せ次第で多少性能が変化することに気が付いた。

 後は実験を繰り返すだけである。


「で、あっちは軍服と」


 シトリンの次は、意外にも新しい装備が気に入ったらしいショールだ。いつもはおしゃれも食べ物も興味なしといった雰囲気だが、今回の装備は鏡の前で何度も確認している。


 深い緑色の制服風の格好は、確かに軍人風だ。サーベルが下げられたベルトとズボンに硬そうなブーツ、帽章のついた帽子、ネクタイ、ブラウス。一見少年のようだが、ショールには似合っている。


 私は隅々まで鏡の前で確認するショールの後ろから声をかける。彼女は鏡越しに私の顔をチラリと確認した。


「……気に入ってくれたかな?」

「そうですね。……何だか、服が似合う、というのが初めて理解できた気がします」

「それは良かった」


 ちなみにこの軍服、結構重い。ある素材を薄く仕込んでいるので革鎧くらいの重さだし、防御力は布製品の枠を大きく超えている。バトルマスターは装備重量に強めなのでギリギリ何とかなっている。

 しかし彼女は剣と槍と弓を同時に装備しているので、武器だけでかなり重い。十分な性能の金属鎧はとても着られないだろう。


 ショールから視線をラリマールに移し、そして私を見たマツメツさんは頭を抱える。何だその反応は。


「……ここまでは分かる。プレイヤーにもこのくらいのコスプレは居る。でもよ、最後のあれは一体何なんだ?」

「武器はマツメツさんが作ったではありませんか」

「そうだけどよぉ……まさかこんなになるとは……」


 最後のラリマールは、魔女の姿をしている。それもただの魔女ではない。多量のお菓子でデコレーションされたすごく甘い匂いのしそうな魔女だ。


 帽子や服はチョコレートのような色合いで、カラフルなチョコスプレーや生クリーム、アイス、キャンディ、ドーナツ……などなどお砂糖と夢がいっぱいデコレーションされている。

 ちなみに生クリームやプリンの飾りは昨日倒したホワイトスライムの素材を使っているので押すとプルプルする。むにむにで気持ちいいと遊びに来たフランさんには高評価だった。


 杖はマツメツさん謹製の、巨大フォーク型の金属杖である。先端には大きなマシュマロが刺さり、上からとけたチョコが垂れている。チョコレートフォンデュ食べたいなぁ。


 マツメツさんがひどく渋い顔をする。それとは対照的に、お菓子の魔法使いは笑顔で対応した。


「何ていうか、派手過ぎないか?」

「まぁ! 派手で結構ではございませんこと? (わたくし)も甘い物には目がないので、この服は気に入りましてよ」

「甘い物好きなのとその服好きなのは関係ねぇよ!」

「えー、私作っててお腹空きましたよ?」


 第2エリアではプレイヤーの料理屋というのが結構あるらしい。私は最近VRマシンの味覚の設定を直して、永遠の病院食から解放された。こっちでの食事も楽しみの一つになっている。


「はぁ……まぁいい。どうせお前の戦力だしな。それより、あっちのもう一人の装備は良いのか?」

「カナタさんは、元の装備強いですからね。流石は専用装備というか」


 カナタさんが餞別に貰った杖とか私から渡した服とかは、今回作った装備と同レベルだ。


 自慢じゃないが私の作品は強い。そりゃあもう、ミッション報酬の私の舞踏服がゴミみたいに思えるくらいには強い。ちなみになぜこの装備を着続けているのかといえば、舞踏服の軽さと追加効果をまったく再現できないからである。

 私の作った作品と同レベルというのは、この第1エリアでトップクラスというのとほぼ同義である。


「ま、見て呉れ(みてくれ)はともかく、性能は一級品だ。これなら第2エリアは十分だわな」

「はい。いつもご協力ありがとうございます」

「出発はそろそろなのか?」

「明日は装備の慣らし、明後日が関所チャレンジです」

「頑張れよ」


 マツメツさんにポンっと頭に手を乗せられる。思えば随分仲良くなったものだ。彼はあまり戦闘をしないとかで、まだまだ第2エリアに向かうような力はない。


 きっと、そろそろお別れなのだろう。少しだけ心寂しい気もするが、私は彼の激励に笑顔で返事をした。


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