表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/153

新たな仲間

 私は続けて二人目の傭兵の作成に取り掛かる。一人は無事に終了したしもう手慣れたものだ。

 ……正直、彼女の出来栄えを確認するのがちょっと怖いというのもあるが、レベル上げの手間なんかを考えると一度に全員作った方が効率がいい。


 私は名前を後回しにして、早速職業を選択する。

 今回はパーティのバランスから考えて簡単だ。足りないのは純粋な物理攻撃役である。踊り子は半分魔法攻撃だし、他の面子は魔法使い。純粋物理攻撃役で、タンクもできたらお願いしたい。ただ、あまりガチガチに着込むと装備を集めるのが大変かもしれない。

 それに、優秀な盾役がいるというのは少々その……ドキドキしない。


 つまり、私の後ろからでも物理攻撃が出来て、その上後ろに居るであろう二人を守れるような存在が必要だ。


 そこで私が目を付けたのはバトルマスターという職業である。戦士と射手の複合職で、最大の特徴はなんとすべての装備に適性があるということだ。元々、戦士と射手がどちらも装備できない武器は杖くらいのもので、(魔法を覚えないのでほとんど意味がないが)バトルマスターはその杖も装備できる。


 あまりに適性のある武器が多すぎるので、各武器に対応するスキルをあまり習得してくれないという弱みもあるが、単純に全距離対応の物理攻撃役として優秀だ。

 ある意味正反対な性能である魔銃使いは、銃しか装備できない代わりに、習得するスキルはすべて銃で使えるスキルばかりだ。どちらが強いかは簡単には言えないが、今のところバトルマスターの方が人気である。属性スキルがなくとも、無属性スキルさえあれば何とかなるという考えだ。実際、属性武器を複数持ち歩けるなら何とかなるしね。


 また、バトルマスターは弓使いの中で一番腕力が伸びる職業でもあり、通常攻撃限定なら地味に遠距離から最大火力を出せる。その上、距離が近くとも近接武器で対応してしまう。

 その対応力が最大の魅力だと言えるだろう。


 医療兵や魔銃使いと違って、結構人口が多い人気職の一つだ。剣と弓を同時に持って、重い鎧を着込める唯一の職業なので単純に強い。魔法攻撃に弱い、敏捷性がそれほど育たないなどの不安もあるが、その辺りは装備で多少調節可能だ。

 ちなみに銃も持てるが普通に弓と剣を使えるのであまり意味がない。間接的に、銃の不人気の片棒を担いでいると言ってもいいだろう。


 私は紙面上の項目を選択し職業はバトルマスター、そして種族はドワーフにする。


 ドワーフというと一般的には鍛冶や細工が得意といった印象だが、この世界では別にそんなのは誰でもできる。ドワーフは魔法系を犠牲に耐久力を高めるように成長をする。魔法が使えない職業にはピッタリ……と思いきやHPは伸びるのに魔法耐久はそれ以上に低くなってしまうので、能力的に一番不人気の種族である。ちなみに見た目は人間とあまり変わらない。


 ただ、個人的にバトルマスターとの相性はかなりいいと思う。魔法は詠唱中に弓である程度は潰せるし、応戦するという選択肢があるため他の射手系の職業よりも物理の被弾は多くなるはずだ。火力が増す獣人の方が人気というのはいつもの事だが、耐久上げの方が安定感が出ると思う。

 動きがトロくて魔法耐久が低いのは踊り子や魔銃使い的には完全にカモだが、傭兵がプレイヤーと争うことはまずないので大丈夫だ。


「性別は……もう全員女の子でいいや」


 泥団子への接し方を見るに、カナタさんが男性が苦手であるとかそういう素振りはなかった。しかし、まだ見ぬ彼が女3人を前に委縮してしまっては可哀想である。


 私は女性ドワーフの容姿の設定へと進んだ。女性ドワーフは髭が生やせるのが特徴らしい。当然、生やすつもりはない。街で全く見ないな、髭の生えた女性ドワーフ。

 体格は人間よりも小さく設定されるので若干子供っぽい。明るく元気な印象の顔にしようとも思ったが、さっきのシトリンがあれだったので出来る女がいい。私は早速容姿の調整を始めた。


 そして、作り始めてしばらく。

 大人びた印象の小柄な女性……。難しくない?

 私は姿を作り上げるのに行き詰ると、サッサと作業を放棄してオート設定を使う。印象だけ設定してオートでぽち。


 パッと鏡の中の彼女が姿を変える。少し子供っぽいが、確かにどこかちょっと冷めている感じがする顔だ。背伸びしているお子様という風にも見えるかもしれない。斜に構えてそうな。


 私は容姿の出来に納得すると、そのまま性格設定に進む。こちらもできる女を目指した設定だ。簡単に言えば真面目な令嬢。計算高くて無駄を嫌う、みたいな。

 そうして出来上がった設定を決定し、ついに質問の時間になった。


 私はどんなできる女になったのかと期待する。


 しかし、鏡の中から出てきた彼女は私を見るなりため息を吐いた。


「はぁ……私を呼びましたか?」

「え、あ、はい……」


 あまりの反応に一瞬困惑する。呼び出されたのが心底面倒だとでも考えているような反応である。

 しかし、私はめげずに質問を始めた。とりあえずはさっきと同じ質問を。


「えっと、意気込みとか聞いてもいいかな」

「特にはありません。可能な限り善処します」


 ……この子も、ダメかもしれない。

 流石にやり直そうかと思ったのだが、シトリンは良くて彼女がダメなのもちょっと可哀想だ。


「あなたの名前はショール。よろしくね……」

「そうですか」


 本当に大丈夫だろうか?

 私は消えて行くショールを目で追う。

 あの頼りないシトリンに、無気力そうなショール。そして私とカナタさんがそこに入って戦う姿を想像する。


 ……あんまりいい想像ができない。


「もう一人。もう一人居れば何とかなるかな……」


 私は半ば諦める様に三人目の傭兵を作り始めた。


 パーティのバランス自体は大分まとまってきた。最後の一人はもう究極的に言えば何でもいい。強いて言うなら妨害役が居ないくらいだろうか。


 妨害役と言えば、魔術師の上位職である呪術師の出番だ。魔術師の特徴である攻撃力と妨害能力の内、攻撃力が伸びたのは賢者、妨害能力が伸びたのが呪術師だ。能力値はほとんど変わらないが、スキルは大きく違う。


 呪術師は邪神官の魔法スキルの派生元と言ってもいい。邪神官のデバフ魔法や足止めのスキル、そして魔術師の上位職らしく攻撃魔法も覚える。邪神官と違って回復魔力が要らないので杖で火力を伸ばしやすいし、魔法の属性も色々覚えるので対応範囲が広い。

 攻撃魔法専門の賢者に比べると攻撃の威力も燃費も悪いが、他の攻撃役に力を発揮させるサポート職としての役割が持てるのが特徴だ。


 呪術師は人気、というか多分どれだけ経ってもそれなりに需要のある職業である。同じように人口よりも需要の多いヒーラーと違うのは、そこそこ攻撃力もあるので雑魚狩りでも役割があるという点だろう。

 欠点は、足止めやデバフが無効の相手に対してやる事が少ないくらい。先程も言った通り火力の足しにはなるし、雑魚相手のヒーラーほど役割がないわけではなない。


 呪術師は魔力よりもMPの方が重要なので、種族を私と同じホムンクルスに設定。性別は女性だ。全員女性になってしまったが、まぁ仕方ないだろう。ここで男にしても……いや、泥団子みたいに喜ぶ可能性もないではないが、どうせなら同性で固めよう。


 今回はプリセットではなく私の姿がそのまま鏡に映る。多分だが、私もホムンクルスで女だからだろう。

 そのまま私をベースにするのはあれなので、ランダム設定で適当に出した容姿から改変していくことにしよう。


 で、ランダム設定にドンっと出たのがこれがまたすごかった。

 何がすごいかといえば、髪型。縦ロールである。まさかの大ボリュームの縦ロール。

 色素の薄い真っ白な容姿の縦ロール。ちょっと新鮮な気持ちになる。普通は縦ロールといえば金髪だろうという先入観染みたものがあるため違和感すらあった。


 驚いたような表情で鏡に映る彼女は私よりも身長が低いが、同じように胸やお尻の主張が激しい。低いと言っても平均よりちょっと高めなくらいなのだが、ある意味私よりも目立つ体型だといえる。


「これは、これでもういいんじゃないかな……」


 私は赤い目や鼻筋の調整を少しだけして体のあちこちを見る。何というか、やっぱり変な感じだが、美人ではあるし。


 私は性格を自信家にして設定も……と思ったが、設定は色々困ったことになっていた。

 何しろホムンクルスは人造人間だ。出身地や家族構成なども研究室や育ての研究員など特殊なものばかりだった。

 結局、短命だった富豪の娘の身代わりとして育てられたという絶妙に重い設定が付与されている。業の深い人物を生み出してしまった。可哀想……。


 私がちょっと同情しながらも設定の決定ボタンを押す。

 鏡から出てきた彼女は私を見るとにっと笑った。


(わたくし)をお呼びになりまして? 世界最高峰の魔導の才を見出すとは見る目がありますわ。褒めて差し上げてよ」

「……」


 ここにきて、三回目にしてようやく思った通りの性格が出た。私は呆けたようにその姿を見る。すごい。想像通りすぎてすごい。


「何ですの? 要件があるなら早く(おっしゃ)いな。……ああ、もしかして(わたくし)の美貌に見惚れてしまった、ということかしら」

「すごい……採用! あなたはラリマール!」

「ええ、よろしくってよ」


 消えて行くラリマールを見送り、私はホッと一息つく。ようやくお目当ての……お目当て?


 決定ボタンを押した後に気が付く。最初私はあんなお嬢様ではなく、パーティのまとめ役を求めていたはずなのだが。


「どうして……」


 私は集まったメンバーを思い返して頭を抱えるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ