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試練を乗り越えろ

 幻想的な森の中で、白い粒子が渦巻いている。


 神域の森の中心部、狼との戦闘エリアに再び足を踏み入れた私達は、狼の出現演出中に戦闘距離を整えていた。特に私は走って狼の背後まで回っているし、フランさんはスキルの発動タイミングを今か今かと待っていた。先制攻撃する気満々である。攻撃パターンと対策はサイトを読んで勉強したし大丈夫。


 そしてついに狼の唸り声が響き、それを掻き消すようにフランさんの銃声が轟いた。


 黄色いエフェクトと呪弾の黒い火花を散らしながら狼が姿を現す。それと同時に私は“雪の舞”を発動して狼の背後から斬りかかった。弱点に当たっていないしスキル威力もそこそこだが、これが一番攻撃後の隙が短い。序盤の狼はノックバック耐性があるので大技は使いづらいのだ。


 それと同時に邪神官の使う不気味な魔法陣が狼の足元で二度光る。ティラナの能力値低下の魔法だ。


「敏捷と防御は下がった。他は隙を見てから」


 三人とも回避型なのでそれだけあれば充分。攻撃低下がないと不安ではあるが、一応泥団子からのバフも戦闘前にかけ直してあるし、一撃で即死することはないだろう。


 狼は初手で最も苦痛を与えたフランさんに跳びかかる。しかし当然、他の者たちが見逃すはずがない。今回は一方的に殴ると決めたのだ。


 ナタネの陽炎が、凄まじい速度で頭蓋に叩き込まれる。ハヤブサのスキル、スピードウィップだ。本来は牽制に使うようなスキルだが、属性も部位も弱点で防御のデバフと攻撃バフまで付いている。ダメージ量は十分と言えるだろう。


 私も負けじと遠ざかる狼の足を切り刻む。属性が付いていないし弱点部位でもないので他の二人よりもダメージは低い。


 フランさんは狼の動きを読んで大きく回避する。尚もフランさんを追う狼に再びナタネの陽炎が、そしてやることがなくて暇だったのか泥団子の光魔法が突き刺さる。

 今度はナタネが不快だったのか、狼がそちらに素早く向きを変えた。


 しかしナタネはそれを見た瞬間攻撃を止め、さっさと逃げ出してしまう。普段ならば狼の方が速いのだが、今は敏捷性にデバフがかかっている。追い掛けっこで負けることはないだろう。


 私は一向にこちらを向かない狼の後ろ脚を我武者羅に斬り続ける。移動速度は同程度なので敵意がこちらに向かない限り一方的に殴りたい放題だ。楽で助かる。


 そして、注意が逸れた瞬間から準備していたフランさんのスキルが発動した。

 三度の連続した銃声が響く。バーストという銃のスキルだ。銃を使える職業の大半は覚えることができるスキルで、効果は単純な三連射。発動後も着弾地点はプレイヤーが若干操作できるらしく、地味に反動の抑制やエイム力が試されるスキルだ。


 闇属性が付与された三発の弾丸は、二発は弱点に、一発は惜しくも前足の付け根に当たった。

 敏捷性が下がっているとはいえ十分な速度で移動する狼の弱点に的確に当てるとか、この人やっぱり怖い。対人戦したら絡繰夜桜使っても勝てない気がする。


「ちっ……」


 軽い舌打ちが後ろから聞こえた気がするが気のせいだ。もしかして全弾弱点に当てるつもりだったのだろうか。


 ナタネはその間に狼からずっと離れた場所にまで逃げている。これなら狼の選択はナタネへの突進か、それとも狙いを変えるかだが……

 狼は苛立つかのようにくるりと反転。フランさんをギラリと睨みつけた。どうやら弱点への精密な射撃がかなり効いているらしい。


 しかし、その牙が彼女を襲うことはなかった。


「拘束入った!」


 不気味な手にがっしりと掴まれている狼は、拘束から抜け出そうともがいていた。

 冷酷な狩人がそれを見逃すはずもない。


 飲み切った魔力水の瓶を捨てたフランさんが“獣殺しの呪弾”を発射。その弾丸は吸い込まれる様に狼の眉間を貫く。私も旋風の舞で狼の体を切り刻んでいく。


 フランさんはスキルを撃ったらさっさと退避、代わりにナタネが戻って来て狼に攻撃を開始した。


 私達が立てた作戦の一つ目。狼戦の序盤の立ち回りはこうだ。


 まずフランさんかナタネが狼の注意を引く。狼は基本的に最も多くのダメージを与えた人物に敵意を向ける。たまに回復役を狙ったり、相手が遠すぎると追撃を止めたりするが、二人が交互に攻撃を続けていればその分危険は減るだろう。

 ティラナは能力値低下と足止めを狙う。地味だが非常に重要なポジションで、特に敏捷性の低下はミスすると前線が崩壊しかねない。即座に死ぬほどではないが、それでも継続して敏捷性だけは下げておきたい。

 泥団子は味方へのバフといざという時の回復。一応暇だったら攻撃もするが、狼の敵意が向かない程度に、ということになっている。

 残った私は遊撃。一人だけ闇属性武器を持っていないこともありターゲットになりにくい。そのため可能な限りダメージを与えつつ、できれば囮役兼攻撃役の二人の負担を減らす。正直前半は役割が少ない。


 私達がそうして狼をおちょくっていると、ついに狼のHPが半分近くになった。


「一旦下がります! 泥団子!」

「分かってる!」


 今はナタネが狼に狙われている。いつもなら的確に狙うフランさんは、射撃を止めのんびりと景色を眺めていた。やることないのは分かるけど、大丈夫かなあれ……。


 泥団子はまだまだ余裕があるバフも含めて前線三人のバフをかけ直し、更に今までとは違う魔法を一つ、一人ずつにかけていく。

 その効果はHPの継続回復。これが継続ダメージを与える浄化の光への対策だ。ダメージ量が回復量を上回ってしまうので完全な対策にはならないが、時間稼ぎさえ出来れば後ろの二人からの普通の回復魔法が間に合う。

 そうなれば怖い物なしである。


 そして、一人戦場を離れた私はメニューを操作して装備を変更する。

 具体的には左の弄月を外して絡繰夜桜に。重い傘が腰に吊られているのを確認してから、私は泥団子に合図を送った。


「よし、準備できたな。フランちゃん、撃っていいぞ!」

「うん」


 ナタネがフランさんに向かって疾走し、フランさんはスキルの発動をする。

 え、それ大丈夫、当たる?


 しかし私の心配を他所に、ナタネが突進してきた狼を気にすることもなくスライディングで体を下げて射線を空けると、その瞬間フランさんの呪弾が発射される。

 そして弾丸は、今まさにナタネに襲い掛かろうとしていた狼の頭蓋の真ん中に命中した。


「すご……」


 あれをやらせるナタネもナタネだが、何の相談もなく敢行するフランさんの神経どうなってんの。


 そして狼はその弾丸に苦しむように仰け反ると、光り輝いて姿を消した。


 さて、第2ラウンドだ。


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