試練への対策
「クソボスじゃないですか?」
「理不尽」
「回避型メタにも程があるよ……」
私達は復活地点であるシラカバの村に集まってそう愚痴る。
文句を言うのは浄化の光で死んだ私とフランさん、そして光からは逃れたものの追撃で死んだナタネである。そんな私達に対してヒーラー二人は冷静な反応だった。
「まぁ対策できないわけじゃないし、次はイケそうな気がするけどな」
「こっちの火力がもう少し欲しい」
あの犬は、最初は物理型として近接攻撃、HPが半分を下回ると魔法も交えた全距離対応の戦い方をする。問題となる浄化の光の効果は、投げた杖の中心から広い範囲の円状に犬の継続回復と、それ以外への継続ダメージ。犬が杖を銜えていない時は、序盤のような近接中心の立ち回りになって魔法が使えなくなるようだ。ノックバック耐性も復活することが分かっている。
避けようにも範囲内に居るだけで徐々にダメージを受ける攻撃というのは、私達のような回避を主体とした立ち回りをするプレイヤーの天敵だ。特にあれは範囲が広い上に、耐久の低い私達を殺すのに十分な威力がある。場所によっては私のように逃れることもできずに即死である。
私はシステムメニューを開くと、取るか迷っていた上位スキルを選択する。
私は属性攻撃を中心に習得しているが、踊り子のスキルには他にも自己強化技や相手の妨害をするようなスキルが存在する。本当ならそれらで敵陣をかき乱しつつ属性攻撃で決めると言う流れが一般的だ。そのため上位の属性舞を習得するよりも前に、低位のスキルしか取っていないそれらを育成しようと決めていた。
しかし、何となく踏ん切りがつかずに残していたスキルポイントを、私は上位スキルに迷わず変換する。
私は怒っているのだ。あの性格の悪い敵に。
同じ顔でメニューを操作するフランさんと頷き合い、徹底的にあの狼をぶちのめすことを心に決めた。
「惨殺しよう。一方的に、徹底的に」
「二度と立てない様に……もうちょっと言い方変えない? 流石に惨殺はちょっと……」
この人、もっと危ないことを考えていた。
私はフランさんとナタネから武器を預かると、この村のレンタル作業場に向かう。フランさんは弾薬とMP回復用の魔力水を買い占めに向かった。他の三人もそれぞれ再戦に向けて準備を進めているはずである。
受付でお金を払いレンタル作業場に入ると、爽やかな木の香りが私を迎える。私は真っ先に乾燥機に向かうと、絡繰夜桜を作るために買ってはみたが、強度の関係で結局使わなかった第2エリアのとある木材をそこに突っ込む。
私の弄月は木工で手を付けられる場所がないが、勝負師のライフルと陽炎の二つは、それぞれ木でできている部分がある。そこを弄ろうと言う算段である。
「ふふふ……」
ついでにティラナ用の杖でも作ろう。この木材と邪神官の相性はいいだろうし。時間はないがデザインはなるだけ美しく。
私は乾燥機から乾燥木材を取り出すと、早速作業に取り掛かるのだった。
***
「うーん……? 思いの外いい出来になっちゃった……やっぱりヒーラー用の杖は木工で作った方がいい仕上がりになるのかな?」
完成した二本の杖を前に、私は唸る。本当は泥団子用に作るつもりはなかったのだが、一本目が想像以上の性能になったのでとりあえず作ってみたのだ。
それは黒い美しい杖であった。“怨念の呪木”という禍々しい名前の真っ黒な木材だったとは思えない。ちなみにこの木材、呪いの人形が釘で打ち付けてられている木を伐採すると手に入るレアアイテムらしい。
一本は太陽系モチーフのデザインが施された、天体模型風の両手杖。中心には太陽を示す大粒の宝石があり、その周囲を8つの惑星と月が回転するような仕掛けになっている。距離や大きさの比率までは再現していないが、そこまで再現するのは無理だ。
ティラナ用に作ったが、ちょっと大きすぎる上に耐久力も平均以下だ。まぁこれで殴るわけじゃないので大丈夫だろう。数値的な能力は木製の杖の特徴である回復魔力を中心に攻撃魔力も結構上がる。主な材料が第2エリアの木材なのでその辺は伊達ではない。更に、闇属性の攻撃力の上昇効果もあった。
あの犬畜生は特に属性耐性を持たないが、闇だけは弱点だ。あんなに光ってるのに闇が弱点なのはおかしくないかと泥団子に聞いてみたが、逆に何がおかしいのかと聞き返されてしまった。ゲーマーの常識らしい。
泥団子用の杖はと言えば天使の羽をイメージして彫ったのだが、色合いのせいで完全に堕天使である。両方の魔力が高めで、聞いてみたところ今使っているマツメツさんの作品よりも回復魔力は強いらしい。こっちを使ってもらおう。
他の二人の装備は既に改造が完了して譲渡した後だ。私は仕上げの艶出し用の塗料を杖に雑に塗る。ムラは、出そうと思わない限り出ないので、塗り忘れさえなければそれでいい。
これで準備は整った。
私は二人にそれぞれの杖をメニュー画面から譲渡すると、レンタル作業場を後にする。
外で待っていたフランさんと合流して、改造銃の使用感を聞く。元の木材よりグレードは高いので弱くはなっていないはずだが、重量とか色々問題があると良くない。
「問題ない。威力は気持ち上がったくらい」
「そっか。剣にも弾丸にも属性付かないのは、むしろいい感じに働きそうな気がするね」
例のブログにあった記事によれば、銃本体に属性を付与しても銃弾や剣部分には影響しないらしい。影響するのはスキルのみ。無属性スキルは銃本体の属性に、他の属性スキルは変化なしか減衰、本体と同じ属性スキルはボーナスダメージが入る。
魔銃使いは各種属性スキルを習得するので影響は少ないと言える。純粋な強化になる場合が多いだろう。
それに対して、この戦いが終わったら改造部分を直さなくてはいけないのが陽炎だ。
陽炎にも闇属性を付与できたが、近接武器は通常攻撃にまで属性が付いてしまう。しかもハヤブサは属性攻撃をほとんど覚えない。そのため闇耐性のある相手に対して著しく威力が減衰する。これなら無属性の方が得だろう。
私達は村の外で待っていた3人と合流し、今一度神域の試練に挑むために歩みを進めるのだった。




