銃
私達は装備の能力補正値まで計算に入れた適正な狩場に来ていた。
懐かしき迷いの森である。
ゴブリンや狼が生息するこの森で、フランさんは勝負師の拳銃を片手に敵を射殺していた。ものすごく淡々と。……いや、ちょっと笑ってる。怖い。
「やっぱりこれがいい」
「うーん。そっか……」
フランさんには今までに私が作成した木製武器を色々渡して使い勝手を試してもらっている。金属装備よりも軽いが基本的な部分は同じなので、剣や槍、鞭、斧、弓、棍棒と手元にある限りの物を渡した。
しかし、どうやら銃が気に入った様子である。一応不遇だと言う話は伝えたのだが、それでも気に入ったのならば仕方がない。
銃は本人の能力値によってあまり火力が変動しない武器らしく、迷いの森程度なら楽勝だ。弱点特効もそこそこ働いている。しかし、例えば神域の森ではこの火力は少々心許ないだろう。
「一回戻ろうか。その間にちょっと銃について調べてみるね」
いつも使っている攻略サイトは、銃についての記述が少な過ぎて使い物にならない。木工と同じである。
しかし銃に関しては木工と違って、実際に色々試すには問題が多い。主に金銭的に。木だけで銃を作ることができれば色々試せるのだが、金属部品を含まない銃は作れないらしいというのは実験の結果分かっている。
私はサクラギ草原を歩きながら、検索サイトを駆使して情報を漁る。ながら歩きは危ないが、今はフランさんが左手をつないでくれているので安心して欲しい。
そうして私は、使えない攻略サイトや掲示板の愚痴の海中から、一つのブログを見つけ出した。
タイトルは“ガンスリンガー日記”。
天上の木で銃を何とかして使いたいという試行錯誤の日記である。鍛冶も自分でやっていて、その情報の量は個人で書いているとは思えない程だった。若干読みづらいし、アクセス数は雀の涙だが。
「何か見つかった?」
「うん、面白い事書いてある」
私が示したのは、天上の木の銃初心者が、銃を扱う前の心構えについて書かれている部分だ。
曰く、
「銃は弱い遠距離武器だ。高い、重い、射程も短い、弓でいい。これは評価として間違っていない。
しかし同時にこれは、銃という武器の一側面でしかない。
銃は弱い遠距離武器であると同時に、弱い近距離武器もである。……どういうこと?」
「それはね……」
筆者が言うには、すべての銃は装備改造で剣を取り付けて銃剣にすることができるのだと言う。銃本体の重さの半分以下の剣なら大抵は取り付けることが可能で、その銃剣は取り付けた剣の性能をそのまま持った近接武器になるらしい。
銃剣用の近接スキルは存在しないが、近くの敵を持っている武器で遠慮なく殴れるというのはかなり大きい。射程も短いのに取引掲示板には、長くて重い銃ばかりだと思っていたが、どうやら通常攻撃の範囲を広げるためだったらしい。
「銃は弓と比べてどうとかなじゃくて、そもそも比較対象は槍とかなんじゃないかな? 射程が短い遠距離武器なんじゃなくて、異様に先制しやすい近接武器だったんだよ」
「うーん……?」
「えっとね……」
まず、銃にファーストアタックで勝てるのは遠距離で構えている弓と魔法だ。しかしこれらは、どうしても近距離には対応できない。
次に近距離での対応力だが、弓と魔法以外のありとあらゆる武器が銃よりも対応しやすい。しかしそれらは、射程の関係で銃より早く先制を取れない。
つまり銃は、射程が短いが近距離でも殴れる遠距離武器であると同時に、単純な攻撃しかできないが射程が長い近距離武器でもあるのだ。
この作品唯一の遠近両用の武器と言っても過言ではない。
近い存在に槍や鞭があるが、3つの中で最もスキルによる射程が長いと言うのが差別点となり得る。
半面近接攻撃スキルと範囲攻撃で劣っているが、どちらを取るかは“好み次第”である。性能的に明らかというほどではまったくない。装備できる職業が限られるというのが大きな問題はまだあるのだが、それは見なかったことにする。
「つまり、これに剣をくっつければいいの?」
「いや、それよりまずはその銃その物の威力を上げたいかな。軽すぎてまともな剣付けられないし」
そう。この勝負師の拳銃、滅茶苦茶軽い。軽くて高威力なのは本来良い事なのだが、今回ばかりはそうも言ってられない。何せ短剣より若干重い程度なのである。このままではそれこそ木製の短剣くらいしか取り付けられない。
金属製品は、困った時のマツメツさんである。
***
「お願いできますか?」
「うーん……一から造れって言われるより大分マシだが、正直自信はないな」
私はフランさんと一緒にマツメツさんを訪ねていた。勝負師の拳銃と件のブログを見せて装備の改造をお願いしに来たのだ。
装備の改造とは、既存の装備の一部を変更して性能を変化せるシステムの事。改造するといつかの石の剣+のように普通よりも性能が上がったりすることもあるが、それ以上に重さや威力のバランスを整える役割が強い。槍なんかは穂先を重くするか軽くするかで意見が分かれるらしく、結構活用されているシステムである。
ちなみにどれだけ失敗しても、装備は元に戻すことができるので初心者鍛冶師の練習台にもなる。使った素材は返ってこないが。
「必要なら素材集めとか行きますよ?」
「んー……よし、やる。少し素材の調達を頼まれてくれるか?」
パラパラとブログを眺めていたマツメツさんは、突然そんなことを言い出す。何か有用な情報を見付けたのだろうか。まぁ受けてくれるならこちらとしては問題ない。目標の重量と威力、改造部位の相談と、彼の欲しい素材の量を聞く。
「分かりしました。フランさん、行こう」
「うん。改造よろしく」
「任せとけって言いたいところだが、とりあえず書いてある通りにやってみるわ」
私には専門用語が多すぎて鍛冶関連の情報は読むことすら難しかったので、その辺は頑張って欲しいところである。
私達は素材を探すため、まずはバザーへと向かった。




