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フラン

 翌日、私はゲームにログインすると言うフランさんを待っていた。


 小学校の頃からのお年玉やらお小遣いやらが丸々口座に残っている彼女の貯蓄は、ちょっとVRマシン買っちゃおうかなどころの金額ではないらしく、家族に相談することもなく一括でハイエンドモデルをポンと買ってしまったらしい。金銭感覚が怖い。


 VRマシンのハイエンドモデルと言えばその手のゲーマーでさえ躊躇する値段で、余程のマニアかちょっとした富豪が手を出すような存在だ。同じ金額があったら働かずに半年くらいは余裕で生きていけるだろうし、一般家庭でお父さんが無断で買ってきたら家庭崩壊の危機くらいには思った方がいい。

 ちなみに紗愛ちゃんはレビューサイトで低評価が付きまくっている格安モデルを使っている。一般的なゲーマーはその一つ上くらいのモデルを使っているようだ。


 これで飽きたとか言ってすぐ止められたらと思うと、何の関係もないが私が気が気ではない。なるだけ丁寧に教えよう……。


 嫌な緊張感を覚えながら、噴水広場でログインしてくるフランさんを待つ。私の顔は知っているはずなので、向こうから声をかけてくれるのをひたすら待っているだけである。


 手持ちのアイテムの確認も終わり、暇そうなフレンドと通話でもしようかなと思っていると、背後から誰かに声がかけられた。

 その声に振り向くとそこには一人の美女、名前はフラン。どうやらあだ名をそのまま使うらしい。


「来た」

「あ、うん。何ていうか……ちょっとアバターの雰囲気似てるね、私達」

「そうかな」


 長身で冷たそうな雰囲気というか、そういう所が似ている。髪の色と目の色が違うのでぱっと見では結構違うが、よく見ると似ている気がした。

 フランさんは現実でも似たような感じなので、どちらかというと私がフランさんに似せて作ったのだろう。あの時は考えもしなかったが言われてみれば合致する部分も多い。大きく現実の彼女と違うのは……まぁ言わないでおこう。


「じゃあチュートリアルは……どうする? やる?」

「楽しい?」

「このゲームの授業」

「やらない」


 ものすごい渋い顔をされてしまった。まぁ基本的な説明しかないし、私も最初のチュートリアルは飛ばしていた。気が向いた時に達成しているので全く進めていないわけではないが。

 私もこのゲームを始めて既に一か月の月日が流れた。初心者への説明などお手の物である。


 私はとりあえず近場のバザーの仕様やサクラギ商会の説明、結構忘れる満腹度の解説などをしながら街を観光していく。闘技場や貸し馬屋、アイテム倉庫、レンタル作業場なども解説し、一通り街の解説をし終え戦闘関連の実戦に移ろうかというその時、フランさんがある建物を指さした。


「あれは何?」

「あれ、は……」


 怪しげな看板に、扇情的なバニースーツを着た客引き。見た目は小さいが、妙にお金のかかっていそうなその建物を、私は利用したことがなかった。だってなんか怖いし。


「あれは賭場だよ」

「トバ?」

「カジノみたいな、賭けをする場所。私は行ったことないや」

「行ってみよ」

「えっ」


 フランさんは分かりづらいが今日一番の食い付きを見せて、私の腕を引っ張る。なぜそんなにもやる気なのか分からないが、この店はゲームの難易度の割りに景品がしょぼいと泥団子が怒っていた……というか、かなりの金額を()っていた印象しかないのだが……。


 私達がバニーの客引きに笑顔で見送られ建物の中へと入ると、赤や金で彩られた豪奢なロビーが姿を現す。どうやらここではチップの購入と景品への交換ができるようだ。そしてここからから地下の遊技場へと行くことができるらしい。

 私は愛想はいいが肌色面積が広い店員に勧められて、幾ばくかのお金をチップに交換する。空いているので受付で実際にやり取りしたが、店内ではいつでもチップの購入がメニューから行えるようだ。

 フランさんもチップに……


「え、全財産出すの? 本気……?」

「あんまり手持ちないし、戦うとお金貰えるんでしょ?」

「それはそうだけど……」


 初期の所持金は2,500カペラ。100カペラで一枚のチップが購入できるので一番安いチップが25枚受付から渡される。私は様子見で1万カペラ入れたが、所持金から考えればたった数パーセントである。

 初っ端から賭博に全財産入れるあたり、やはり金銭感覚おかしい気がする。


 私達が地下への階段を下りると、そこは広い部屋だった。スロットマシンやルーレットテーブルが並び、プレイヤーもNPCも結構な人数が遊んでいる。どうやら受付でチップの購入をするのは少数派で、受付以外は結構混んでいるようだ。


「じゃ、遊んでくるね」

「あ、うん……」


 フランさんはいつもの読めない表情で賭場の奥へと姿を消した。あんまり一人にしないで欲しかったな。

 静かだが確かな熱気に包まれているこの部屋は、明らかにおかしい。興奮している様子の客の声が耳に届かないので、そういう設定になっているのだろうし、テーブルの付近では消えたり現れたりを繰り返すプレイヤーも居て中々に混沌としている。


 私はとりあえずルールが単純そうな1チップスロットマシンに腰を下ろす。隣の台が空いているのに特定の台に並んでいたり、ここも結構な異質さで居心地が悪いが。

 メニューから攻略サイトを覗いてみれば、どうやら日によって当たりやすい台が異なるらしい。並んでいるのは今日の当たる台、ということだろう。


 私は景品リストに並べられた品を吟味してからチップを三枚投入し、レバーを引く。何やら色々とテクニックがあるようだが、とりあえずは適当にボタンを押した。

 プレイしながら攻略サイトを流し読む。どうやらレバーを倒した時点で当たる役は決まっているが、変な場所でリールを止めるとそれすら当たらないらしいので“目押し”が必要なのだとか。


 私は淡々とレバーとボタンを操作し続ける。

 ついに手持ちのチップが半分を切った時、大きな当選をしてチップが……元の枚数に戻った。


 結局若干のマイナス収支で台を後にする。

 その後もルーレットやサイコロの大小などを遊んでみたが、どれも細かく勝てはするもののプラスになることはなく段々とチップが減っていく。


 私は諦めてフランさんの様子でも見に行こうかとフレンド通話をかける。この賭場、混雑防止のためなのかテーブルゲームに参加すると外から見えなくなってしまうので、探すのは一苦労だ。


 しばらく後にフランさんと繋がる。


『もしもし』

「フランさん、どこに居るかな?」

『サイコロ。えと……ここ何てゲーム?』


 どうやらまだゲームが続いていたらしい。今気が付いたが、25枚なんてあっさりとなくなってしましそうなものだが。意外に勝負師なのかな?

 ゲームの名前が分からなくて隣の人かディーラーに聞くあたりはいつものフランさんだ。


 サイコロを使うゲームはこの賭場には一カ所だけだ。私は大小のゲームテーブルへ向かうと、フランさんが出てくるのを待つ。


「お待たせ」

「随分長い事やってたね。勝ったの?」

「結構?」


 私はテーブルから唐突に出現したフランさんを迎えると、チップが結局何枚になったのかを聞いてみる。

 彼女は一瞬悩んだ後、インベントリからチップを取り出して見せた。


「これだけ」


 零れないためにか自動でトレーまで付いて来た、多種多様な山積みのチップ。ちなみにチップは一番安い物から青、赤、緑、黒。それぞれ100、500、2,500、1万カペラ相当となっている。

 見ただけではいくらなのか分からないが、黒いチップが塔のように積みあがっている……。


「あ、あんまり見せない様に」


 別に盗難される心配はないし、何ならここで全部落としてもしばらくすればインベントリに返却されるので何の問題もない。しかし何となく大変な大金であるという感覚からフランさんにそのチップを隠させる。


 緊張感を持ちながら受付へと戻り、チップの合計額の清算をしてもらう。本当はインベントリを見るだけで合計額は分かるが、一旦落ち着くためにも外に出たかった。

 この賭場、変な熱気に感化されそうで怖い。


 受付のバニーさんは笑顔で対応してくれた。トレーをカウンターに乗せるだけで一瞬で計算できてしまうらしい。


「合計8,572枚分のチップがございます。景品に交換いたしますか?」

「はっせっ……」


 あまりの枚数に一瞬言葉を失う。

 受付の人曰く、ここには85万カペラあるらしい。ここにある最高の報酬は1万チップ。100万カペラ相当の景品に手が届きそう。たった25枚からスタートして一時間でこれ。私の所持金より多い。


 私の中で何かが崩れ落ちる音がした。


「やろう……」

「瑞葉、どうかした?」

「やろう! ルーレットが一番じゃないかなやっぱり! あの一番上の展示品持って帰ろう!」

「うん、いいよ」


 楽しくなってきたぞぅ!

 私は自分が勝っているわけでもないのに意気揚々と地下へと戻って行った。


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