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理想の姿3

 私とティラナは、別れを告げるコウタとアズサに手を振って応える。

 あんまり干渉しすぎるのも良くないだろうと思って、基本的なことを教えフレンド登録した後に別れたのだ。分からないことがあったら何でも聞いてねと、メッセージの送り方も教えたし大丈夫だろう。


 それにしてもコウタは実に筋がいい子だ。何しろ、教えた通りに体が動かせる。私もその才能欲しかったよ。ピコピコするゲームも好きらしく、ゲームシステムへの理解も早かった。

 格闘家は調べても良く分からなかったが、一応体の動かし方と攻撃の避け方、受け止め方、力の伝わりやすいパンチやキックといった所は教えられてホッとしている。


 私が頼もしくなった背中を満足気に見送っていると、下からティラナの落ち着いた声が響いた。


「子供、好きなの?」

「別に好きって程じゃないですよ。ただまぁ、放って置けなかった、みたいな」


 現在時刻は午前11時。システム的には夕方である。

 私は気分が良くて、つい余計なことまで口から零れた。


「私も外を走れないとか、あー……その、分かっちゃうので」


 口にして、後悔する。

 見ず知らずの人に同情を誘うようなことを言ってしまった。チラリと見やれば、ティラナはメニューを立ち上げていた。


 すぐに彼からプライベートチャットの通話許可申請が来る。プライベートチャット中は他の人に会話内容が聞かれない。要するに、いくら声を張り上げても許される内緒話がしたいらしい。


「許可した方がいいですか?」

「私の話がしたいだけだから」


 私はちょっとだけですよ、と言って通話ボタンを押す。私達はナタネやユリアの待つ闘技場までの道すがら、他愛もないことを話した。見つけた不思議空間について運営に問い合わせたらただのバグで修正されただとか、ナタネの弓は最初はビックリするぐらい下手だったとか、アズサは非常に優秀なメディックだったとか。


 そのまま噴水広場までやってくると、ティラナは立ち止まって深呼吸をした。


「俺、昔から体が大きくてさ」

「……はい」


 彼の突然の言葉遣いの変化に少し驚き、どうやらこの話がしたかったのだと気付いて続きを促す。少女の声で紡がれる“彼”の言葉を聞き逃さない様にと心に決めて。


「小学校から親に柔道やらされて、体格も良くて強かったんだけど……いや、別に嫌だったわけじゃなかったんだ。ただ、何て言うか……それが自分の理想の姿じゃなかったんだよな」

「……」


 何となく分かる気がする。

 現状に不満はないが、“自分”が“別人”だったらと考えてしまうその気持ち。それは中学の頃、低い身長を気にしていた私に少し重なる気になってしまう。

 きっと、彼に私に分かって欲しいなんて気持ちはないだろうけれど。


「俺さ、お姫様が好きだったんだよ。悪い奴らに捕らわれて、格好いい勇者様に助けてもらうお姫様が好きで……なりたかったんだと思う。お姫様に」

「……」

「別に男と恋がしたいわけでもなくて、フワフワのドレスのドレスを着てか弱いことが、無力で可愛いことが、綺麗でいることが存在意義の……まぁ変な言い方をすれば、勇者様が貰う“報酬”としてのお姫様になりたかった」


 現実の彼は、その理想と現実のギャップにどれだけ悩み、苦しんだのだろうか。

 聞いても良いのか、判断に迷う。


 彼も私に反応を期待しているわけではないのか、吐き出すように言葉を続けた。


「そんなわけで、プリンセスラインのドレスとかにも憧れはあってさ、でも女装してもどうしようもなく理想には及ばないわけ。……だから、頑張ってバイトしてお金貯めて、このゲームを買った。お前は理想にはまだまだだって、あんたには怒られたけど」

「それは……」

「あ、別に根に持ってるわけじゃない。むしろ本当に感謝してる。確かに俺は理想に遠く及ばないことに、気付いてすらいなかった。

 体格が、性別が変われば何もかも変わると思ってた。違うんだよな。可愛いって、美しいってそんな簡単な事じゃなかったんだ」

「そっか」

「……これが、“私”がこのゲームを始めた理由。長くなったけど」


 彼は、いや、彼女はそう言って噴水広場から闘技場方面へを歩みを進める。


「私の話もちゃんと聞きたいですか?」

「私が勝手に話しただけ。気にしないで」

「そう。じゃあ言いませんけど」

「ユリアに聞いたら分かる?」

「きっと怒りますよ。私の本名で新聞調べれば出てきますから、検索してみたらどうですか?」

「……そんなに大事(おおごと)なの?」

「教えませーん」


 私達は友人の待つ闘技場へと向かうのだった。



 ***



「本当にごめん!」

「いえ、別にそれならそれで大丈夫ですけど……」


 私は闘技場に到着して早々にナタネに頭を下げられていた。この人にこの勢いで謝られるのは二度目だな……。私はティラナに何とかするように目で訴える。


「ナタネがボロクソに言った作品が、実は使いこなせてないだけで有能だったって話で合ってる?」

「端的に言うとそれ!」


 ナタネは頭を上げるとティラナの話を肯定する。

 何でも昨日のあの後、彼女は街の近辺で狩りをしていたらしい。その時ふと思い立って最後に渡したヨーヨー最終形態を使ってみたそうだ。あまりに太いそのヨーヨーは手に収まりきらず、投げるの一苦労だったという話で私との相談は終わったのだが、外で練習してみたところ何とあっさりとコツを掴んだらしい。


 別に謝られるようなことではない気がするが、律儀な人だ。そんな言葉を漏らすと、評価をしたらそれに対する責任を持つのは当たり前だと強く主張されてしまった。そう言われると返す言葉もない。


「では、あれを基本に細かく改良していきましょうか」


 ということになり、私は再び作業部屋に戻る。


 一応考えてきた改良案を元に、癖が強い投げにくさやデザイン面を整える。マツメツさんには再び部品作りをお願いしている。

 今回はリムだけではなく外側を金属で覆うようなカバーで更に耐久性を上げつつ、内部で重量を調節する。ここまで来ると私よりマツメツさんの作業量の方が多いが、ようやく終わりが見えてきたネタ装備開発にやる気になっているようだ。


 刃はマツメツさん考案のフランベルジュ刃を採用。投げにくさに繋がっていた本体部分の大きさは少し直径を小さくし、滑り止めのために外側の素材を変更した。デザインは本人の強い希望で彼女の好きな車のホイールを参考に、メカニカルなデザインに。

 外の刃が白いので、白を基調にホイール部分をメタリックな黒、黒のメッシュ部分からは赤い下地が見えるようにした。何だかレトロな色合いになったが、モノトーンが好きな本人はご満悦である。


 これを二つナタネに渡すと、飛び上がらんばかりに喜んでいた。一応お礼として結構な額を貰ったので、マツメツさんと折半している。大体私が使った素材の五倍くらい、マツメツさんの金属素材が高いとはいえ赤字にはなっていないはずだ。本当は七割くらい渡そうと思ったのだが、設計料と押し切られてしまった。


 そして、ようやく武器が出来上がった私達に待っているのは、闘技場での楽しい殴り合いである。

 同じくテスト期間中で久しく顔を見せなかった泥団子も合流し、選手3人観客3人の闘技大会が幕を開けるのだった。


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