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再会とPvP

 フランさんの試験勉強は前途多難だったが、自分の試験勉強は驚くほど順調だった。どうやらフランさんに教科書の内容を教えるというのが、思いの外いい復習になっているらしく、試験範囲の練習問題はすべてあっさりと解くことができた。


 さて、もう一人の問題児(ソバオではない)だが……。


「順調! 順調だよ! これは息抜きだから!」

「えぇ……?」


 登校中は散々嫌だ嫌だと言っておいて、ゲーム内ではこれである。最近の放課後は私が勉強会を開いているので別々に帰宅している。私は初日から紗愛ちゃんを勉強会に誘っているのだが、今まで一度も顔を見せていなかった。


 それでいて私がその日の復習を終えて気分転換にログインすると、ゲーム内でユリアを見付けることが多い。というか私がログインする度に居るような気がするが、本当に大丈夫だろうか。


「うーん……まぁ、息抜きも大事だけど、本当にすぐ落ちるんだよ?」

「もちろん! 今日はどこ行く!?」


 どこ行くって、数時間やる気満々だ……。しかし確かに、このゲームはどうしてもワンプレイが長くなる作品だ。近場と言っても私達のレベルで遊びになるような場所は遠い。私は街の中で木工でもやろうと思っていた所なのだが、ユリアに付き合わせても楽しい気分転換にはならないだろう。


「……あ、じゃああそこ行こうよ」


 サクッと終わりそうな名案を思い付いた私が向かったのは居住区の反対側、サクラギ城方面である。

 サクラギの街は城下町で中央に立派なお城が建ってはいるが、あそこの王様は既にいない。この世界の街にはそれぞれに領主様が居て、その人が街を治めている。お城は過去の遺産であり、現在は文官や衛兵の詰め所だ。領主館は別にある。


 そんなお城の手前、商業区の向かい側に目的の建物はあった。巨大なお城の、大体半分くらいの大きさの建物。厳密に言えばここもお城の敷地内になるのだが、お城からはちょっと遠い。

 高さはそれほどないが横に広く、すり鉢状に客席が並ぶ。


 闘技場(アリーナ)だ。

 他のいくつかの街にもあるらしいが、第1エリアではこのサクラギの街だけの存在である。


「闘技場かぁ」

「ここならサクッと終わってサクッと気分転換できるでしょ?」

「サクッと……」


 ここでは様々なルールを設定してプレイヤー同士の対人戦闘が楽しめる。スキル火力にマイナス補正がついたり、弱点やノックバックなんかも調整されているのでモンスターとの戦闘とはまた違った戦略で楽しめるそうだ。

 ちなみに、ゲームについて何かと詳しい泥団子が対人戦をやらないので、私達も一度も使ったことはない。


 私達は大きな入り口から中へ入る。広いロビーに他のプレイヤーの姿はない。どうやらダンジョンやレンタル作業場などと同じ仕様で、パーティ毎にロビーが設定されているらしい。


「受付あっちだね」

「はーい……」


 本当にサクッと終わりそうなのが嫌なのか、ユリアのテンションは低い。私達は入り口右方向にある受付で一通りの説明を受けると、そのままルールの設定を始める。一気に表示された項目数は膨大で、呆気に取られてしまうがとりあえず端から選択してく。


「色々あるね……装備耐久力は無効でいいとして、ガード削り……?」

「武器とか盾に攻撃が当たった時のダメージ量みたい」

「なるほど、標準でいっか。試合時間5分、レベル上限なし、チャット機能オン、観戦許可しない……」


 その他良く分からない物は標準設定にし、設定完了ボタンを押す。

 闘技場内部への扉が開き、私達はそれぞれ闘技場内部へと足を踏み入れた。



 ***



 そもそも、私は大振りな攻撃を躱しやすいような能力値をしている。耐久力は低いし、リーチも短いので攻撃の回避は私の生命線だ。踊り子の自動スキルに回避補助システムがあるし、この舞踏服にも一応敏捷性の向上や攻撃が掠めた時のダメージを大きく軽減する効果なんて物もある。


 そして、今のユリアの装備は大斧である。重量で叩き切ることで威力を発揮する豪快な武器。

 何が言いたいのかと言えば、


「相性差で勝っちゃうなぁ」

「八百長してよ!」


 試合は3戦して3勝。私はユリア相手に一撃も被弾無しで完勝していた。流石に少し申し訳なくなってしまうが、勉強したくないユリアは変なやる気に満ち溢れている。


「まさか一発も当たらないとは……言っておくけど、勝つまでやるからね」

「……」


 ちなみに手加減すると怒る。

 私は一旦外に出る事を提案し、闘志に燃えるユリアを連れて闘技場を去る。外の空気でも吸えば落ち着いたり……しないか。


「まず、武器変えない? 正直、当たる気がしないんだけどそれ」

「えー……? でも攻撃力一番高いよこれ」

「当たらなきゃ意味ないよ……そうじゃなかったらもっと小さく振るとか……」


「あ、ラクスさん!」


 私がとりあえずの改善案を提案していると、聞き覚えのある声が耳に届く。

 振り返るとそこには、いつかの女装プレイヤー、ナタネとティラナが手を振っていた。ユリアはそんな二人を見て首を傾げる。そういえばユリアは顔も見たことがないな。


「知り合い?」

「一応フレンドではあるかな……」

「え、何その微妙な反応……」


 私が反応に困っていると、二人は闘技場の入り口まで嬉しそうに駆けてきた。別に悪い人ではないのだが。


 初対面のユリアと二人は互いに自己紹介をする。あ、しばらく見ない間にちゃんと女の子っぽくなってるな、この二人。それでも疑わしいレベルではあるが、これならロールプレイをしている女性との見分けは付かないかもしれない。


「ところで、何してるの? PvP?」

「まぁ気晴らしに、友達とちょっとね」


 ナタネのそんな問いに、私は一応答える。二人はまたあれだろうか。不思議探し。この辺りは、というかサクラギ城には確かに隠し部屋とか沢山ありそうだ。観光資源として部外者にもその一部が開放されいるし、この二人が狙っていてもおかしくはないだろう。

 しかし、彼らの話は思いもよらぬ方向へと進んだ。


「実は、あの時貰った装備が鬼強(オニツヨ)で、二人して戦闘に目覚めちゃったんだよね」

「外に出ても意外に戦えたから、今はもっと広範囲を探索してる」


 へぇ。意外だ。

 ピンと弓の弦を引っ張るナタネと、そんな彼を呆れたように見やるティラナ。そんな二人が闘技場へとやってきたということは……。


「複合職のレベル上げ終わったから、ランダムマッチでもやろうかと思ってさ」

「ナタネだけ。私はPvEはやるけど対人は興味ない」

「またまたぁ。ズタボロに負けて拗ねてるだけじゃないの?」

「違う。そもそもあのルールは後衛に不利が過ぎる」


 とのことだった。

 私とユリアは顔を見合わせると、ナタネを伴って闘技場の中へと再び戻るのだった。



 ***



 宣言通りティラナは最初の数戦を観戦してから別行動となり、私達三人は順番で闘技場で戦っている。ちなみにティラナは僧侶と魔術師の複合職“邪神官”。完全魔法職なので一対一が性能的に不利というのは本当らしい。


 今はレベル20統一ルールを適用しているが、ナタネは戦闘に目覚めたと言うだけあって非常に上手かった。

 盗賊と射手の複合職である“ハヤブサ”をうまく活用している。


 射手は弓矢と銃しか装備できない初期職業の一つで、6つの内唯一の後衛の物理職でもある。遠距離武器は魔法よりも当てづらいので人を選ぶ職業だが、そんな射手が盗賊との複合になると、超凶悪になる。


 元々盗賊も射手も敏捷な職業だ。当然ハヤブサも速い。素早く戦場を駆け抜けながら矢を連射する。近付けないし、私にとっては非常に怖い攻撃だ。

 半面防御性能は紙もいいところだが、同じく脆い上にこちらから接近しなければいけない踊り子より大分マシである。踊り子が勝っているのは精々攻撃力くらいなものだ。


 レベル制限で弄月がギリギリ二刀流が出来なくなった私の、ナタネへの勝率はかなり低い。ナタネ相手には勝率が三割を下回っている。左に貴人のサーベルを持つなら二刀流ができるが、風に乗るそれでいて重い剣と、それよりも軽い剣を同時に扱いきれないので弄月一本に戻している。


 ではそんなハヤブサへの対策はと言えば、ユリアが今やっていた。

 あちらもレベル制限で大地の叫びが装備できなくなって、前の斧に持ち替えている。まだ大きいのだが、それでも馬鹿でかいあの大斧よりは対人向きなサイズ感と言えるだろう。


 レベルと共に敏捷性は落ちたはずだが、装備重量が一気に軽くなって素早く動くユリアはナタネの矢を物ともせずに前進する。ナタネも後退を繰り返すが、徐々に徐々にその距離が縮まってきた。一発の威力が物理攻撃職の中で最弱のハヤブサは、ああして多少のダメージを物ともせずに突進されると脆い。

 私のような紙装甲にはできない芸当だ。彼女の勝率は今のところ十割。全試合に勝っている。


 結局その試合もナタネが避け切れなくなって終了となった。タイムアップは与えたダメージ量が多い方が勝ちなので、制限時間まで逃げきれればナタネの勝ちとなるはずだが、難しいようだ。


 エンジンがかかってきたのか、すでにユリアは私からも一勝を奪っている。勝率こそ私が圧倒的優勢だがやはり油断ならないし、そこまで実力に差があるようには感じないな。


 私達は最後の試合を終え、闘技場を後にする。

 夜空を見上げながらユリアが大きく伸びをした。


「いやー遊んだ遊んだ!」

「ナタネ強いね、ビックリしちゃった」

「ハンデ貰ってそんなこと言われても……というか、見事に三すくみになったね」


 ユリアはこっそり耳打ちするように私に近寄ると、当初の予定通りサクッとは終わらなかった息抜きに付いて言及した。


「このゲーム、相性ってあるんだねぇ……もう深夜だし寝てもいいよね?」

「……明日からは頑張ってね、本当に」


 私達は別れの挨拶を交わすと、ログアウトしてそれぞれの部屋へと帰って行った。


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