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試験勉強

 梅雨もすっかり明けた快晴の空。季節はすっかり初夏で、予報では今年も猛暑になると言っていた。

 そんな中でも私は学校に通う。日傘を差して直射日光は防いでいるが、アスファルトの照り返しが既に暑い。

 機械義手のバッテリーも気温が高いと熱くなるので嫌な季節である。


 夏もこれからという季節にすでに嫌そうな私の隣では、紗愛ちゃんが元気に登校中だ。その元気はどこから来るのか。軽そうな鞄を振り回しながらいつもの道を歩いていく。危ないからやめなさい。


「夏って気持ちいよねー。やっぱり梅雨明けはこうでなくちゃ」

「もうやだ……暑い……」

「ほらほら、今週と来週と再来週頑張れば夏休みだよ!」

「あー、そういえば、そろそろ期末テストだね」


 去年は夏休みの数週間前……二週間前くらいだったかな。その辺りからテスト期間になって部活をやっている生徒も皆一斉に下校していた覚えがある。

 今学期のテストは祝日と曜日の影響でそれよりもちょっと早いと、化学の先生がボヤいていた。あの人授業進めるの遅いからなぁ。


 私がとぼとぼと通学路を歩いていると、隣の紗愛ちゃんが急に大人しくなる。夏休みはいいが、テストは嫌なのだろう。

 私は好きだけどな、テスト。何といってもテスト期間は課題は出ないし授業も楽だ。テスト自体も悪い点を取ったことがないし。


 まぁ今回はいつもより勉強できていない自覚はあるので、その分しっかりテスト対策として時間を設ける必要もあると思うが。別に復習は毎日やっている日課のような物。今更何か嫌だとかそういう感情はない。


 しかし、紗愛ちゃんは違うようでテストの話題になった瞬間に肩を落とし、とぼとぼと私の後ろを歩く。学校行きたくないとか言わないよね?


「私、勉強するために高校入ったわけじゃない」

「部活もしてないのに何言ってるの……」


 私は汗をかきながらようやく校舎にたどり着くと、下駄箱で紗愛ちゃんと別れて教室に向かう。教室は冷暖房が付いているし気温を保ちやすい構造に設計されているので、夏や冬はいつもよりも人口密度が高い。みんな暑い廊下には出たくないのだ。


 私は汀さんに挨拶をして自分の席に座る。

 そして、それを待ち構えていたかのように、机に影が落ちた。


 このクラスになって三ヵ月近いので、段々とクラスの雰囲気も固定されてきている。このクラスは他のクラスに比べて明らかに大人しい。問題なさそうな連中詰め込みましたみたいな教室だ。


 そんなクラスには、異質な存在が3人……いや、4人いる。私を含めて。

 その内の一人、フランさんが席に座った私を見下ろしていた。


「瑞葉……」

「えっと、何かな?」


 フランさん、本名を布津(ふつ) (らん)さん。クールな見た目とずば抜けた運動神経を持つ女生徒。

 一年の時は陸上部だったのだが、夏合宿中に交際を申し込んで来た先輩を殴って無断で帰宅。現在は部活を止めて一人で公園やハイキングコースを走っているらしい。


 欠点は、若干の愛想の無さと、


「勉強、教えて」

「あ、はい……」


 授業中に爆睡して起きないことである。



 ***



 先輩をぶん殴った女フラン、学校で朝食を済ませる男ソバオ、異世界人カーペンター、そして私が、2年3組変人四人衆。……と他のクラスから呼ばれているのを知ったのは今年の5月の末頃。陰口なら聞こえない様に話して欲しいものである。


 そして今、()しくもその内三人が放課後の教室に残って勉強をしていた。テスト期間前なので教室には他に人気もない。外からは元気なのかやけなのか、それとも惰性なのか、運動部の大きな声が響いていた。

 今日から勉強会である。私は一方的に教える立場だが。


「ソバオも来ればよかったのになぁ」

「変人衆揃い踏み」

「ねぇ、二人ともそれ馬鹿にされてるってわかってる? 怒っていいのよ?」


 四人で机を合わせて参考書を開く。フランさんが私に助けを求めたように、この学校の異世界人ことカーペンター(本名、金田 ふみ)は、汀さんについこの前から助けを求めていたらしい。

 隣で私とフランさんのやり取りを聞いていた汀さんが、どうせなら一緒に勉強会をしようと誘ってくれたのだ。


「それにしても、テスト期間前からテスト対策なんて二人共そんなに殊勝だったかしら。まだテスト範囲だって公表されてないのよ?」

「今回はマジキツイんだって! 中間赤点だったし、数学だけでいいから!」

「そもそも授業聞いてないし、今外暑いから」

「あー、暑いよね……って、もしかして外涼しかったら勉強しないの?」


 金田さんは数学の教科書を開いて汀さんの言われた通りに問題を解いている。私は……まず、フランさんに全教科の教科書の内容を解説するところからである。大変だ。


「うーん……解けたけど何でこれで解けるのか分からん……」

「どうして……どうして公式を丸暗記しているのに、当てはめるだけの問題が解けないの……?」


 いや、あっちもあっちで大変そうだった。

 対してこちらはと言えば、とにかく量が多い。授業でやった内容を私がとったノートと、なぜか半壊しているフランさんのデバイスを用いて説明していく。幸い彼女は理解力も記憶力もいい……のだが。


「……飽きた」

「もうちょっと、もうちょっと頑張ろう!」


 集中力が続かない。なんでも体を動かすのは得意だが球技全般は集中力が続かないので、無心でも何とか続けられるトラック競技を選んでいたらしい。おそらく授業中に寝るのも集中が切れて、他のこともできないから寝ているのだと思う。


 私は焼きチョコやお茶でフランさんの手綱を握るように、汀さんは延々と終わらない証明問題を解き続けるように、それぞれ問題児達に教科書の解説を続けるのだった。


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