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神域と作戦

「外れた! あっ毒! 回復して!」

「今自分で使ったからもうない、ごめん」

「そっかー。死ぬね!」

「流石にもうちょっと生きようとして!」


 神域の深い深い森の中、私は見えない敵に苦戦を強いられていた。

 別にトラップが仕掛けられているわけでも、過酷な環境なわけでもない。本当に見えない敵が“居る”のだ。


 彼らは“神域の守り人”。暗闇の洞窟で言えばスケルトン先生の立ち位置に該当する、大量に出現するタイプの人型モンスターだ。剣を持った人型モンスターなので本当にスケルトン先生とよく似ているが、その厄介さは比較にもならない。


 まず、しっかりとした剣技を扱う。距離を置いて相手を見定めてから攻撃をするので、隙が少ないし、避けるのも容易ではない。


 次に問題なのは、このダンジョンが一本道ではなく四方八方に広がる森であるということ。敵のポップする位置が分かりづらい上に、戦闘の音を聞きつけてモンスターがどんどん寄ってくる。


 最後にこの守り人は、姿が見えないということ。持っている剣だけは視認できるが、体は透けている。剣が浮いているだけのダンシングサーベルのような見た目だが、本体は剣ではないので見えている部分を叩いても白いエフェクトが出て弾かれるだけである。

 個人的には最後が一番やりづらい。動きを読んで攻撃を躱す時に見る部分と、攻撃を当てる時に意識する位置がズレているのが、頭で理解しても体が追い付かない。


 この森には三種類のモンスターが居るが、守り人と同時に出てくるモンスターもかなり厄介だ。

 木目蛸という四本足の大きな蛸は、緩慢な動きだと油断していると突然高速で飛び掛かってくるし、破裂茸という巨大キノコは、動きはしないが近付くと破裂するように麻痺効果のある胞子を撒き散らす。蛸は突撃以外にも周囲に毒の煙幕を吐いて視界を遮ってくることもあり、守り人の位置が更に分かりづらくなる。

 どちらも木の影などの見えない位置にポップしていることもあり戦闘が終わった後も油断できないのだ。


 それでも最初の頃は上手くいっていた。戦闘自体はボロボロだったが、勝って前へと進めていたのだから。

 しかし、途中で集団と交戦中に別の集団が乱入して大乱戦になったあたりからは前に進むどころではなくなっている。


「あっ……」

「ユリア!」


 毒の煙幕に紛れた守り人の剣が、毒によってすでに満身創痍だったユリアにとどめを刺す。

 助け行こうとした私の前に、ユリアの相手をしていた守り人が立ちはだかった。私はそれでもユリアを助けようと、守り人の剣を掠りながらも潜り抜ける。


 アイテムの呼び出し機能で蘇生アイテムを取り出そうとした瞬間、樹皮の色をした太い鞭に膝を打たれ、私はなすすべなく地面に倒れる。


 木目蛸の長い足だ。

 元々適正レベルよりも圧倒的に低いレベルに加えて、私は防御の薄い能力値をしている。すでにHPは限界だ。自分の回復か、ユリアの蘇生か、どちらを優先すべきか。


 そんなことを悩んだが、結果として意味はなかった。背中に爪で撫でられたような感覚が走り、体から力が抜ける。


 ああ、死ぬってこんな感じなのか。何となく確認したシステムログには、守り人に斬られたと書かれている。


 すぐに私の視界は暗転し、神域の森には静けさが戻った。



 ***



「そのレベルで稼いだ経験値の全ロストってさ、レベルマックスになったら死に放題ってことだよね、ずるくない?」

「いや、別にズルくはないでしょ……」


 神域の森で死んだ私達は、シラカバの村へと転移させられていた。

 このゲーム内で死ぬと、プレイヤーは経験値を失い最後に立ち寄った安全な場所で復活する。アイテムやお金は減らないし、レベルが下がることもないが、種族レベルの経験値はレベルアップまで遠いので、経験値を失うのは結構重い。

 そのため、上位の狩場で死につつ無理矢理レベルを上げると職業レベルに比べて種族レベルが伸びにくくなるのだ。


 私とユリアはシラカバの村でNPCからアイテムを買い漁る。ちなみにユリアは私がこの格好で人前を出歩いている事を、初めての死亡経験ですっかり忘れているらしい。


「やっぱ、解毒薬と回復薬はたくさん準備しないといけないね」

「考えてみれば当たり前だよね……」


 今回の敗因はやはり、準備不足と慢心だろう。

 森のダンジョンは囲まれると厄介ということは迷いの森で経験済み。そして今回は泥団子も居ないので回復はアイテムに頼ることになる。

 だというのに私達は、必要以上に奥へと進み包囲されるし、回復アイテムの準備は足りないしでまったくもってダメダメだった。


 私はこの二つさえ何とかなれば、レベル上げくらいはできる気がしている。しかし、ユリアは更にもう一つ敗因があると言う。


「連携も甘いと思うんだよ。私達ならもっとできる気がする!」

「それは……連携って言っても具体的にどうするの?」


 戦闘……プレイスキルの上手さは一朝一夕では改善されない気がするが、ユリアには何か考えがあるのだろうか。ユリアはとんっと黒い鎧を叩くと胸を張る。


「まずさ、私はそこそこ防御力あるでしょ。ここは特に魔法攻撃してくる敵居ないし。だから攻撃は全部私が受け止めてさ、二人で一体を集中攻撃すれば相手の数を減らせると思うんだ」

「うーん……」


 言っていることは分かる。要するに私が回避も防御もせずに攻撃一辺倒になれば、殲滅速度が上がって盾になっているユリアへのダメージが減り、結果的に戦闘がスムーズになる、という考えだろう。

 しかし、それで上手くいくのだろうか。ユリアの耐久力が致命的に足りないような気がするし、私が攻撃を咄嗟にユリアの後ろに下がって避けなくてはいけないのが難しいような……?


 私達は一応の準備を整えると、徒歩で再び神域への道を歩く。馬は神域の手前でレンタルを解除したので、今頃はサクラギの街の自分の家だろう。


 道中は思い付いた作戦や、それの実現が難しそうな要素、解決策などを無数に話していく。そもそも前衛二人での連携はこれが初めてに近いので、難しそうでも一通り試してみることに決まり、システムのメモ機能を使っていくつもの無茶な作戦案が積み上げられていった。


 どうせ経験値0の状態で死に放題の私達は、軽い足取りで再び神域へ挑むのだった。


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