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トーナメントの結果

「はぁーあ……終わっちゃったなぁ……」


 私は大会の参加賞を手に、アリーナの観客席で友人の入場を待つ。


 あの第1試合の後、私は激戦を繰り返し、そして結局第4試合で負けてしまった。

 全参加者中ベスト32。強いのか弱いのか微妙な所である。せめてもう二つ、いや一個でも上なら上位入賞だと喜べたのだが。ベスト16はそこそこって感じがするが、32では受ける印象がまったく違う。


 ちなみに終了直後に配られた決勝トーナメントの参加賞は、少量の経験値スクロールと記念の称号、そして勝利数に応じて多少変動する賞金である。

 賞金はこの大会の予選や本戦に掛けた時間当たりで計算すると、安いと言わざるを得ないし、スクロールに関してはもっと単純にケチと言っても過言ではない数だ。第3エリアの神域に20分も潜れば、普通にこれより稼げるだろう。


 本当にこれが無差別級の参加賞として相応しいのかと抗議したくなる内容である。レベルに応じスクロールの価値は下がるんだから、その辺りもう少し考慮してくれてもいいじゃないか。私はギリギリ使えるが、レベルカンストの人とか本当に売る以外の使い道が……あ、転生してねってことか。


「参加賞、微妙」

「フランも思う? 流石にもうちょっと欲しかったかな」


 私と同時刻に第2トーナメントで善戦していたフランもまた、参加賞にやや不満のある内の一人である。第2トーナメントの参加賞は決勝の物よりも更に格が落ちているので、本当に子供のお駄賃程度の賞金しかない。

 彼女は試合から帰って来てからずっと、私の隣でむっとした表情を見せていた。


 ちなみに彼女は今日行われた最終戦、つまりトーナメント第5試合目まで勝ち進んだが、そこで徹底的に遠距離に対するメタゲームを仕掛けてきた相手に負けてしまったらしい。

 時間の関係で直接は見ていないが、リプレイを見る限り負けるのも仕方ないという試合だった。相手が大きくヘマでもしない限り、勝ち目は一切なかったと言ってもいい。敏捷性特化装備に大盾って、フラン相手以外にどんな時に使う装備なんだろう……。


「もう一回やりたい」

「もう一回やっても同じだと思うけどなぁ……」


 フランは負けたという事実以上に、試合内容に納得がいっていない様子である。もうちょっと上手くやれてても結果は変わらないと思うけど……。


「終わっちゃうと何か寂しいなぁ」


 対して私は、負けた試合内容に文句はないが、これ以上戦えないというのが若干不満だった。

 決勝トーナメントの4試合は、どれもいい勝負だった。いや、観客から見ると前三戦は圧勝のように見えたかもしれないが、紙装甲にあれ以外の勝ち方はないので許して欲しい。HPギリギリで辛勝(しんしょう)なんて展開は元からできないのだ。


 一戦目は相手がペットモンスターを召喚する一瞬の隙で逆転されたかもしれないし、二戦目以降も避け切れずに防御手段として絡繰舞姫を使った場面がいくつもあった。まぁ積極的に使いたくないというだけで、それをすると即座に負けるわけではないのだが、個人的には避けられない攻撃という指標の一つになっている。

 負けた四戦目もまた、油断していたわけではなかったのだが、あと一撃と言う所で読み合いに負けてスキルの直撃を貰ってしまった。あれが避けられてさえいれば勝っていた……かもしれない。


 それにしても、どれも胸が熱くなるいい試合だったな。スリルと感動と達成感で、何と言うべきか頭の中が気持ち良いのだ。それをユリアに伝えたらドン引きされたけど。


「あーあ、もっと戦いたかったなぁ……」

「むぅ……お前は良いではないか。余など一戦目で負けたのだぞ」

「リプレイ見た。惨敗」

「フラン! お前より余の方が順位上だからな!」


 フランを挟んで向こう側に居るのは羅刹さん。さっきまで私と一緒に決勝トーナメントに参加していた一人だ。当然と言うべきか、私達は約束通りに決勝で会うなんてことは一切なかった。そもそも決勝は明日なんだけど。


 彼女はやはり緊張していたのか、一戦目の最序盤から盛大に先制攻撃を受けて一気に劣勢に追い込まれた。終盤は持ち直したものの、そのまま時間切れで負けてしまっている。

 魔人も踊り子と同じで自己強化や高火力のスキルにMPを消費するので、序盤の立ち上がりが重要な職業だ。あがり症とは相性が悪いだろう。可哀想に。


 余談だが彼女は、有難いことに負けて以降はずっと私の応援をしてくれていたらしい。この闘技場、観客席遠くて応援されても全く分からないんだけどね。

 そして今は、特にすることもないということで反省会を兼ねてユリア達の応援をしてくれている。実は彼女、ユリアとも泥団子とも面識があるそうだ。泥団子の友人の一人が彼女とよく組むメンバーの一人なのだとか。奇妙な縁もあったものだ。


「そういえば、あいつらならもっと上に行けたであろうに。さては予選をサボっておったのだな?」

「ユリアがあんまりやる気じゃなかったのは確かみたいだけど、それ以上に泥団子がね……」

「ヒーラーは団体戦でも不利」

「……やつが言いそうな言い訳だな」


 ようやく始まった試合を見ながら、羅刹さんは微妙な表情で呆れていた。眼下に見える試合の方は、私達が応援するまでもなく楽勝そうである。


 まぁ泥団子の言う通り、ヒーラーが試合で不利と言うのは事実だ。

 この試合では防御削りの他にも、試合展開を早くするための措置として、回復量が大きく引き下げられているという仕様がある。

 時間切れの時の判定はHP残量ではなく与えたダメージ量で勝敗が決する。

 そのためそこまで気にしなくとも良いとは思うのだが、おそらくは迷惑遅延行為防止の措置なのだろう。勝ち筋のない無限回復って相手にするの面倒だからね……。


 そんな仕様もあって、純粋ヒーラーの治癒術師は確かに環境にまったくいないと言っても過言ではない。パーティ戦で人数合わせの様に居るのが目撃されるとかされないとか。

 しかし、泥団子はそもそも半分アタッカーの祓士をメインの職業にしているのである。

 私の作った杖を使っているので攻撃魔力も戦士系には十分通用するはずだし、回復以外の支援魔法も当然使える。今も最大強化を受けたユリアが敵の前衛を圧倒している隙に、光魔法で的確に敵戦力を削っている。


 つまり、ヒーラーは不利でも、彼が大きく不利というわけではないはずなのだ。

 それでも何か言い訳を見付けてから消極的に取り組むのは、何と言うか彼らしい。フランと一緒にカジノに行く時は、いつも聞いても居ないのに「どうせ負けるんだろうけれど」という雰囲気をアピールしてから向かうほどである。


「泥団子は、あんまりゲームに本気出したくないみたいに見えるよね。……カッコつけかな?」

「ま、あやつにも色々あるのだろう。……お、勝った」

「連携のレベルが違う。第2トーナメントか決勝トーナメントに出るべき」

「これは第3トーナメントだと普通に優勝もあるかなぁ……」


 そもそも傭兵が参加できる5対5や、気楽に一人で出られる1対1に比べて、2対2の大会は出場者数が少ない。それに比例してあまり参加者の質も良くないらしい。

 他の部門にエントリーしたプレイヤーも参加できるのだが、予選の仕様のせいで大抵は一本の大会に絞って参加する人がほとんどなのだ。


 結局ユリア達は一度も苦戦することなくその後の第5試合を乗り切り、明日の準々決勝への切符を勝ち取ったのだった。



 ***



 次の日、いつもの面子で私の家に集まった3人は、大きなジョッキに各々の好きな飲み物を入れて私の挨拶を今か今かと待っていた。


 奥のキッチンではラリマールが鼻歌交じりに巨大なケーキをデコレーションしており、ショールはやや呆れたようにその手伝いをしている。並べられた椅子に大人しく座っているのはシトリンとカナタだけだ。


「早く、やろう」

「う、うん……」


 私はフランのやや圧力の強い視線に急かされる様にジョッキを掲げ、この集まりの趣旨であるお祝いの言葉を口にした。本当はあっちの二人待つはずだったんだけど……まぁいいか。


「えーっと、ユリアと泥団子の準優勝を祝しまして……かんぱーい!」

「かんぱーい!」


 私は座っているユリア達とジョッキを打ち鳴らして、中身を喉に流す。


 甘い香りが口いっぱいに広がって、私は幸せいっぱいで腰を下ろした。

 ちなみにジョッキの中身はアルコールではない。私の飲み物はラリマールが作ってくれた梅シロップだ。味はほんのりと梅の風味がするだけでほぼ砂糖。甘い。美味しい。

 祝いの席だからか、この世界で味の分からないユリアも今日ばかりは高級なジュースを飲んでいた。この値段でワインじゃないのと思う様な、ご立派なぶどうジュースである。


「ユリア達の決勝戦、いい試合だったね。私もあれやりたかった」

「そうかなー? ちょっと油断したから悔しいんだけど……」


 盛大に並べられた料理の数々に、私はやや不作法ながらも次々と手を伸ばす。

 私は話題として決勝戦を褒めてみるが、隣にいるユリアは今日の昼に行われた決勝戦に不満があるらしい。まぁ確かにユリアがあそこで踏ん張ってれば勝ててたかもしれないが、それだけ接戦だったと言える。

 私としては緊張感のある試合というだけで十分に羨ましいのだが。


「ラクスこそ、まさか無差別級で決勝トーナメント行くなんて思ってなかったよ。というか、私達メインで祝われてるけどこの中で一番順位低いの私達だからね?」

「まぁ何て言うか、準優勝って分かりやすいし……」


 ユリアの言う通り、私が本当の意味でベスト32で最高成績だ。フランはベスト16だが、出場したのが第2トーナメントなので実際は上に256人もいる。

 そして第3トーナメントだったユリア達は、言われてみれば確かにこの中では一番戦績が低いのかもしれない。


 しかし昨日で試合が終わってしまった私達より、今日の試合で準優勝まで勝ち残った彼らの方が何となくお祝い感があっていいのだ。昨日の試合も予選みたいなものだったしね。


 それに実を言えば、こうして集まったのは他にも理由が一つある。


 私達はその時間まで他愛のない話をしながら、楽しいひと時を過ごしたのだった。


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