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トーナメント

 次の日の土曜日。

 昨日は自分のファンルームを見付けてしまうという事件があったりもしたが、私は今日もいつも通りの時間にログインする。

 家を出るのが若干躊躇われるが、ずっと家にいるわけにもいかず、私は最近の日課になっている闘技場へと向かった。流石にちょっと服装を変えて。


 昨日で予選は終了し、私が寝ている間に集計結果が発表された。

 リアルタイムで見ていた人もいるようで、結構お祭りのような盛り上がりだったのだそうだ。半分くらいは本戦に出場できなかった嘆きなのだろうけれど。

 というか、午前2時とか普通にプレイヤーいるんだもんな。相変わらずゲーマーとは、私にはよく分からない人々である。眠くないの?


 気になる私の予選結果はと言えば、何と見事予選突破。

 決勝トーナメント進出である。

 朝はほぼ同じ時間にログインするフランと通話してみると、彼女は第2トーナメントに割り振られたらしい。中盤まで拮抗していたはずなので、(ひとえ)に絡繰舞姫が想像以上の活躍した結果である。


 絶対に足りないと思っていた試合数だが、どうやら一定回数以上試合をしていれば勝率の方が大きく判断されるシステムだったらしい。勝ち星より勝率で判断と言うのは、妥当なのかどうなのか……。


 しかし、勝率も結局最後の方だけれ見れば五分五分といった所に落ち着いたはずなのだが、そんなに上位だったのだろうか。確かに一番初めと絡繰舞姫投入直後辺りは連戦連勝だったが……。

 まぁ、数少ない回避型と言うことで、相手からすれば戦いにくい相手だったのは間違いないだろうけれど。


 私は露店通りで商品を見て回り、少し時間をつぶしながら闘技場へと向かう。


 決勝トーナメントの試合は今日のお昼から。ログイン制限で出れなくなってしまっては申し訳ないが、一試合最大7分半で決着が付くし試合会場は試合の数だけ用意できるので、準決勝までは全試合同時進行。

 準々決勝からは明日の予定なので、今日行う試合は最大でも5試合しかない。試合開始に合わせて2時間も時間を作れば十分なはずだ。


 そのため少なくとも午前中は自由行動。

 私は変な性能の装備を見付けては店主に質問するというのを繰り返し、闘技場へと歩みを進めるのだった。


 午前中はとりあえずここで時間をつぶして、闘技場でログアウトすればいい。午後のログイン時も闘技場に居るはずなので、お昼を食べてからすぐに接続すれば遅刻することはない。


 私は決勝前の肩慣らしのため、予選終了後もまだまだ熱の冷めやらぬ戦場に身を投じた。



 ***



 私はお昼ご飯を済ませて、いつも通りマシンに横たわって目を閉じる。

 そして、目を閉じたままでもできるまでに手慣れたログイン処理を実行した。


 ぐらつくような奇妙な感覚を覚えながらも、瞼を閉じたままのはずの私の視界がぼんやりと明るくなって、そして次第に視界の輪郭がはっきりしてくる。

 私は目を閉じていたこと意識の外に追いやって、その光景にじっと目を凝らした。


 最近は自室のベッドでログアウトすることばかりだった。少しこの感覚が懐かしい。現実での姿勢と違うと少し体が戸惑うんだよね。


 予定通り闘技場の内部へとログインした私は、メニューから時刻を確認する。現在時刻は12時40分。試合の開始20分前だ。

 ちょっと早いかとも思ったのだが、流石に5分前では遅すぎるかと思ってこの時間にした。


 私は自分と受付の人しかいない闘技場のロビーでトーナメント表を見上げる。

 今朝発表されたトーナメント表では、選手のログイン状況も確認できる。どうやら既に8割くらいは準備完了の確認ボタンを押しているらしい。気が早い人が多いな。


 私も一応ログアウト前にも行った装備の点検をしてから、準備万端整ったと確認ボタンを押す。

 するとトーナメント表の私の名前の隣が、黄色の表示から青に変わる。ログアウト中の表示は赤、ログインしているが試合の準備が完了していない人は黄色、確認ボタンを押した人が青である。


 当然、赤や黄色の人は試合時間が来ると棄権扱いで失格となる。参加賞は貰えるらしいが、ここまできたら特に理由もなければ出るだろう。私はあのページを開いて自分の注目度を知り、流石にちょっと迷ったが。


 この闘技場は、観客席にプレイヤーやこの世界の住人が座っている。


 予選の時点から何を言っているのか分からない歓声が聞こえることもあったが、決勝トーナメントではその比ではない人が入っているんだろうな……。あのファンルームにいるような人も来ているのだろうか。

 まぁ飛んでくる野次で調子を崩さないようにという配慮なのか、何か言っているという程度にしか認識できなくなっているのであまり関係ないとは思いたい。


 準備が整って特にやることもない。私はじっとトーナメント表を見ていると、ある事に気が付いた。


「あ、羅刹さんがいる……」


 今まで自分の対戦相手くらいしか見ていなかったが、トーナメント表の真逆の位置に見覚えのある名前を見付ける。

 ちなみに彼女の近くに汀さんのお兄さんの名前も見つけた。やっぱり出てるんだなあの人。面識ないけど頑張って欲しい。


 彼女の名前を少し意外に感じてしまったが、思えば確かに羅刹さんの実力ならば十分にトーナメント出場を狙えるだろう。狙えるというか、実際にこうして突破してきているのだが。


 ただ、彼女の表示は黄色である。ログインはしているが準備の確認ができていない状況だ。

 私はつい何をしているのか気になって、フレンドリストから彼女へ通じる通話ボタンを押した。


「もしもし、羅刹さん?」

『お? おー、ラクス! 皆まで言うな、決勝で会おうという奴だな!』

「いえ、違うんですが……」

『余もお前に……え、違うのか!?』


 やや緊張しているのか、いつもよりちょっと上擦ったような声が耳に響く。それでもちょっと尊大に演じている語り口は変わらない。

 こうして出てた以上少なくとも忙しそうな感じではなさそうだが、一体何をしているのだろうか。

 私は予想できる状況から、一番適当と思われる仮説を導く。


「もしかして、装備が届かない感じですか?」

『ん? 別にその辺は大丈夫だ。何の問題もないぞ。何か心配事か?』


 逆に心配されてしまったが、そういう話ではない。


 準備完了の確認ボタンを押すと、他のプレイヤーと譲渡申請などが出来なくなるのでそれ関連かと思ったのだ。違ったらしいが。

 では闘技場に居ないのかと言えば、私のトーナメント表の位置を把握しているので可能性は低い気がする。もちろん無いとも言い切れないが、通話の感じも緊張こそ伝わってくるが慌てている様には思えない。


 判断に困った私は、結局普通に聞いてみることにする。


「いえ、どうしてトーナメント表の名前が黄色のままなのかなと思って連絡したんですけど……」

『あー、それな。ぶっちゃけ余にも分からぬ。まぁ大丈夫だろう!』

「……」


 あまり大丈夫ではないのだが……。


 私が参加の最終確認ボタンの存在を教えると、彼女は何かを誤魔化すように笑っていたが、その直後にトーナメント表から黄色の光がすべて消えた。


 トーナメント表には多少赤色の光が残っているが、これで大半は青。ログインしているが参加しないというプレイヤーはこれでゼロになった。

 仕様を知らなかったのか……連絡してよかった……。


『では、健闘を祈るぞ。決勝で会おう!』

「ええ、いい試合にしましょう」


 この緊張具合だと決勝で会うのは無理そうかな、などとやや失礼な事を考えながらも通話を切る。そもそも、自分が決勝に残るなどと考えてすらいないのだが。


「はぁ……あと3分か……」


 ユリアと泥団子は、2対2の第3トーナメントに出場できたらしい。2対2トーナメントは1対1の部門が終わった後、自分の試合が終わったら見に行こうと思う。

 彼女らもフランと私の応援を頑張ると言っていたので、もしかすると次の観客席に居るのかもしれない。


 ちなみに私と同じく1対1に参加していたフランはと言えば、この裏で1対1の第2、第3トーナメントが行われているのでそっちに居るはずだ。

 今思うと、一緒のロビーで待っていても良かったかもしれないな。ここはパーティ毎に分かれているので、話し相手になってもらいたかった。思っていた以上に待ち時間が暇だ。


 私はフランに通話を繋ごうか迷い、結局何もせずに試合の開始時間までじっと座って待っていた。


『試合開始1分前です』

「はーい」


 アナウンスに合わせて椅子から立ち上がると同時に、ロビーから闘技場内部へと転移する。質素な待合室から殺風景なアリーナの内部へと景色が変わり、同じように突っ立っている対戦相手と目が合う。


 それだけでわっと観客が沸き、何となく気分が良くなった私はあちこち見回して手を振った。

 何を言っているのかは相変わらず分からないし、アイコンも表示されないただの背景同然なので誰がプレイヤーなのかすら分からない。


 しかしそれでも、その視線が私と対戦相手に注がれているのは犇々(ひしひし)と感じられる。


 ネットで見たが、有識者が個人的に実況を放送したりもするらしい。

 普通に考えると本当にこの大会に詳しい人は全員出場しているので無理だと思うのだが、多分スキルや職業、装備の性能などに詳しいが大会向きではないプレイヤーがやっているのだろう。的確かどうかは微妙な所だ。


 彼らの声が、視線がどうしようもなく体を熱くして、私は試合開始のカウントダウンも待たずに霽月を二本抜く。

 絡繰舞姫は耐久値に不安があるので、腰の後ろに下げたままだ。いつでも取り出せるようにはしてあるが、必要な時だけ持ち替えることにしている。


 対戦相手はそんな私を見ても眉一つ動かすことなくじっとしてた。

 鎧であまり分からないがピクリとも動かないその姿勢を見るに、少し緊張しているのかもしれない。実力があるのにそれを出せないというのはやや勿体ないだろう。


 私は片手で霽月をクルクルと遊びつつ、対戦相手にもう一度目を合わせた。


「えーっと、送りバントさんでいいんですか?」

「……そうだ」

「その立派な剣を一発当てれば、私の事倒せますよ?」


 その位できるだろう? という安い挑発。

 彼はその言葉に何も返さず、無言で得物を抜いた。


 さて、伸び伸びと戦ってくれるといいのだが。


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