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絡繰夜桜の実力?

 大会の予選が開始されて数日が経過した。

 気になる私の戦績は、勝率7割と言ったところ。勝率自体は良い方だと思うが、予選が平日なのもあって上位に比べると圧倒的に試合数が足りず、決勝トーナメント進出は流石に無理そうだ。

 その勝率7割と言うのも初期の頃の初心者狩りが強く影響している。そのためマッチングする相手との実力が拮抗し始めた最近の戦績は、ほぼ五分五分と言ったところ。


 調子がいいかと問われれば微妙な戦績である。何と言うか、平凡? 少なくともバッサバッサと強敵をなぎ倒すような活躍ではない。


 そんな中、私は新兵器の投入をしていた。

 その昔、対人戦で非常に有効な装備であると発覚した絡繰夜桜、その改造版である。


 今回の大会は試合中に装備の耐久値が基準値を下回ると、ダンジョンと同じようにインベントリに仕舞われてしまう。決着がついた後は元に戻る親切仕様だが、それでも第2エリアの魔法攻撃であっさりと壊れるあの傘は、流石に実戦でそのまま使うことはできなかった。

 絡繰夜桜の改造版は問題の耐久値の他に、ビニール傘などで言えば傘布に相当する木材も多少伸ばしてある。身を隠すのに広い方が有利だと考えたからだ。完全に金属製にしてしまうのも考えたのだが、試作品が耐久力と重量の両立が出来なかったので今回はお蔵入りである。


 そしてその絡繰夜桜の初舞台は、全く活躍の機会がなかった。


 今回の大会、1対1部門は戦士系職業が圧倒的に多い。

 元々人気職だった上にほぼ前衛限定のルール。ヒーラーなどの後衛職は2対2や5対5のパーティ戦に参加していることもあり、最早最強戦士決定戦の様相を呈しているのだ。

 私達踊り子も全体から見れば善戦してはいる方ではあるものの、数も少なければルール上有利でもないのであまり活躍していない。


 それどころか、圧倒的大多数である防御型戦士対策いわゆるメタゲームをしているプレイヤーから「回避型はストレス」と言われる始末。マッチングで私を見た瞬間に悪態をつくのは止めて欲しい。流石に気分が落ち込む。


 これが絡繰夜桜とどんな関係があるのかと言えば、使用目的として最初に考えていた“遠距離攻撃”キャラクターがまったく出てこないのである。

 ヒーラーや魔法使い系は当然として、まだまだ元気だと思っていたハヤブサなどの高速射手系すらほとんどいない。たまにマッチングしたと思ったらフランだったという事件はもう3回目。私達、実力どころかログイン時間も同じだからね……。


 ハヤブサが環境で死んでいる理由は一つ。

 試合出場者に物理耐久型が多すぎるのだ。射手と盗賊の複合職であるハヤブサは、物理後衛型の中でかなり攻撃力が低い。そのため重戦士や侍相手には嫌がらせくらいしかできず、まったくと言っていい程勝てないらしい。


 射手と戦士の複合職で、人気職であるバトルマスターも重戦士との殴り合い(ダメージレース)に負けるらしくてかなり大人しい。少数の中で生き残っているプレイヤーも、“瞬歩”での奇襲が流行ったため弓を抜いて槍持ちばかりになっている。


 それが絡繰夜桜が活躍できない理由の“一つ目”。

 実は無視できない影響がもう一つある。


 それは、私の防具の性能である。

 こちらは完全に私の責任なのだが、アルメの防御力が低すぎて防御削りダメージが甚大なのだ。


 モンスターの攻撃は一部の防御貫通攻撃を除いて、盾や剣で受けた場合ノーダメージで済む。

 しかし、プレイヤーには防御貫通効果をもつ攻撃が一切ない。そのためこの仕様のままPvPをすると、大盾を構えた魔法使いが異様に強くなってしまうのだ。


 そこで実装されたPvP専用の仕様が、防御削り。

 盾や剣で攻撃を受けた時に、直撃した場合のダメージ量の数%のHPを失うという仕様だ。受ける装備と攻撃する武器の相性や性能でダメージ量は変化するが、最大で2割近いダメージを受ける。


 もうお分かりだろう。

 私は攻撃が直撃すると大抵の場合即死する。牽制目的の通常攻撃でさえHPの半分以上が消えるなど当たり前で、酷い時は通常攻撃一発でも死んでしまう。

 武器で受けるとその数%のダメージ。数%といえど、何度も食らいたい攻撃ではない。こっちからの通常攻撃はそもそもタンク相手に数%しか入らないのだから、これでは勝てる試合も勝てない。


 そのため絡繰夜桜を盾として使うのはそう何度も使えるような手段ではない。そもそも私は相手の攻撃を掠らせて相手より早くMPを獲得するという戦法を使っているので、それとも相性が悪い。

 もちろん防御の他にも相手から姿を隠す効果もあるが、むしろあの傘は重量で私の動きを遅くし、当たり判定を大きくするというデメリットの方が大きい。


 正直、作った甲斐がない。

 唯一フラン相手に使えるくらいだろうか。銃の普通の弾丸は流石に弱点直撃でもない限り即死しないので、防御削りもそこそこ止まり。この世界の銃は連射できないので、その分のHPを必要経費と割り切れば思い切って接近できるのだ。


 兎にも角にも何か対策を講じなければ、このままこの子が日の目を見ることなく予選が終わってしまう。


「とは言ったものの、どうしようかな……」


 私は作業台に乗った傘を眺めてため息を吐く。


 正直、改造を施すアイディアが思い浮かばない。防御としてほとんど使う機会がないから、そもそもこの形状である必要が無いんだよね。視界が塞げるのは相変わらず有用ではあるけれど、それでもデメリットの方が大きい。

 相手の視界を塞ぐだけなら、やや不完全ではあるものの舞姫で代用できる。属性舞の出番が少ないので、その舞姫もあまり使う余裕がないのだが。


「……いや、そうか。どっちもあんまり使わないのか……」


 その二つの装備の共通点が思い浮かんだ瞬間、頭の中で何かが組み上がる。

 どちらもあまり使わない。しかし、どちらもちょっとずつ使いたい。


 私は久しぶりの“発明品”に頬が緩み、早速作業を開始する。

 倉庫から木材と絹布を取り出すと、彫刻刀で細い棒を削り出すのだった。



 ***



 対人用に装備を変えた私は、再び闘技場へとやって来ていた。

 そそくさと予選の参加登録をして、最初にマッチングした相手で戦闘開始の了承する。

 名前も見ずに決めてしまったが、この画面では相手の情報は名前と戦歴しか見ることができないので、個人的にはあまり要らない仕様だと思う。ただまぁ、名前と戦歴を見て対戦を断る人もいるらしいので、何かどこかに需要はあるのだろう。


 相手も私と同じ性質だったのか、すぐに私達は闘技場の内部へと転移する。

 そして、私を迎えたのは意外な人物だった。


「名前を見てまさかとは思ったが、よりによってあんたか……」

「あ、凩さん。参加していたのですね」


 筋骨隆々のその男は、やや和風の格好をした鎧の戦士。

 いつか一緒にパーティを組んでイベント塔に上ったプレイヤーの一人、魔法戦士の凩さんである。


 こうして自動マッチングで知り合いに会うことは、一日に一回くらいフランに会う以外では初めての事だ。そもそも上位陣に知り合いが少ないというのもあるのだけれど。


 やや和気藹々(あいあい)とした雰囲気かと思いきや、彼は思い切り渋い顔である。どうやら強敵と当たってしまったとを嘆いているらしい。

 モンスター戦では私の方が多少上手かったが、正直対人戦の直接対決だと大差ないと思うんだけど……。


「これは、勝てないかもしれんな……」

「ああいう攻撃は、避け方が制限されてやりづらいですよ」

「それは知っている。これでも、ここまで勝ち上がってきたからな」


 彼はそう言って、私がいつか超高速でテキトーに打ったあの刀を鞘から抜く。

 対する私も左の腰から霽月(せいげつ)を右手で抜き、腰の後ろに下げている新しい装備に左手を掛ける。


 私達はそのまま睨み合い、そして、試合開始の合図が戦場に響いた。


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