表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
142/153

コンテストと大会

「ラクス、私も何かしたい」

「いや、流石にもう無理だから……」


 月曜日の昼休み、私は昼休みが始まって早々に総菜パンを丸呑みして見せたフランにそんなことを言われていた。


 フランが言っているのは昨日参加して、今日の朝に公開された動画コンテストの件である。

 彼女にはロケーションを選ぶのに協力してもらったが、それ以上の事はしていない。それがやや気になっていたのだろう。昨日の完成品の動画を送ってからずっとこの調子である。


 そんな私達のやり取りに隣で自作のお弁当を突いていた(みぎわ)さんは、怪訝そうに眉間を寄せた。


「何の話? 布津さんが何か手伝いたいだなんて滅多にないわよね」

「この前生物のノート集めた」

「ああ、そんなこともあったわね。……で、何の話?」

「流石に私も分かる。その反応は冷たい」


 朝購買で買ったフライドポテト弁当という、塩と油と炭水化物しか入っていないのに何故かたまに食べたくなる弁当をフォークで口に運びながら、私はデバイスで自分の投稿した動画を開いて汀さんに見せる。

 現在の私の人気ランキングは5万8342位。10万以上の投稿があったのでユーザー投票はまずまずの評価と言ったところである。……正直に言うと、上の1000位とかにあるネタ動画を見るとちょっと悔しい思いではあるのだが。


 ちなみに現在トップの動画は、強い人として著名なプレイヤーのアクロバティックな戦闘集。素晴らしい動画編集技術と軽快な音楽、そして何より本人の情報の拡散力によって公開されてからずっとトップだったらしい。


 次点はゲーマーとして有名な、とある俳優兼アイドル兼声優の人の可愛い動画。内容について特筆することはないものの、本人がSNSで自分の作品だと公言して以降凄まじい勢いで伸びている。

 宣伝も兼ねているこのコンテストは、天上の木のプレイヤー以外も投票できるシステムなのでこのままいけば遠くない内に逆転することだろう。


 私のデバイスの画面を食い入るように見ていた汀さんは、動画の終了と同時に私を見る。


「これ、瑞葉よね?」

「よく分かったね。確か一回しか私のアバター見てないはずなのに」

「こんな痴女そうそう忘れないわよ」

「痴女じゃない!」


 汀さんからこのチクチクする毒舌が出るようになったのは、それだけ距離が縮まったということなのだろうか。

 私はバターロールをイチゴ牛乳で流し込むと、彼女にこの動画の作成経緯を説明する。


「最近動画コンテストってのがあって、それに応募した作品なの。で、フランが何かもっと手伝いたいって」

「私も手伝いたい」

「でも完成してる……というか、こうして投票が始まってるってことは締め切り過ぎてるのよね?」

「もちろん」


 もう動画を手伝うのには遅すぎるし、本人もそれは分かっているのだろう。

 しかしどうやらユリア……紗愛ちゃんが、自分が私と作った動画として散々自慢したらしく、今更手伝ってこなかったことを悔しがっているようなのだ。


 フランは私のフライドポテトを一本攫って口を尖らせた。


「大体、何で最初から手伝わなかったのよ」

「だって、瑞葉最初は嫌そうだった」

「……あ、そういうことだったのか」


 どうやらフランなりに気を遣った結果だったらしい。汀さんの指摘に、やや子供っぽい返事をしてフランは不貞腐れる。

 思えば確かに彼女は私に、やりたいならやればいいとは言っていた気がするが、あまりやって欲しいという雰囲気がなかった気もする。私が踊れば嬉しいだろうなと思って考えていたのは、主に紗愛ちゃんの事だ。


 私はそっと微笑んで、バターロールを口に運ぶ。

 役割を終えたデバイスは画面を消すことなく、自動再生で人気の動画を流し始めた。それは私も楽しんだ、現在人気トップのあの動画である。


 しかし、その動画を見た汀さんの表情が変わる。


「あ、お兄ちゃん」

「お兄ちゃん!?」

「これ汀兄の動画?」

「あ、いやその……多分。この前そういえば動画がどうこうって言っていたような……」


 彼女にその話を詳しく聞けば、どうやら汀さんのお兄さんは撮影した動画に合わせた楽曲を作曲家に依頼、その動画と曲を動画編集のプロに持ち込んだらしい。当然彼らにそれなりの金額を支払っているそうだ。ゲームのイベントに本気すぎる……。


 私とフランが尊敬とも呆れともつかない感情で微妙な表情をしていると、汀さんは大きくため息を吐いた。


「昔からゲームの事になると見境が無くって、呆れるわよね。……ちなみにこれもう順位見れるの?」

「……今一位だよ」

「え?」

「お兄さんの動画、今コンテストで一位。投票は抜かされそうだけど、運営の選ぶ大賞なら十分狙えるよ」

「……そんな気を遣わなくてもいいのよ?」

「ホントだから」

「うん、ホント」


 いつも通り兄の愚痴から始まったのでまさかとは思っていたが、どうやら本当に汀さんはお兄さんについて詳しくないらしい。

 私達は彼の活躍や動画のポイントなどを、可能な限り彼女に教え込むのだった。



 ***



 トッププレイヤーの意外な正体を知ってしまった私達は、応援のつもりでお兄さんの動画に一票ずつ入れておいた。まぁ全体の投票数から見れば二票なんて微々たるものなのだが、それはそれ。こういうのは気持ちである。


 授業が終わった私は、紗愛ちゃんとやや足早に帰宅して夕食を済ませる。そしていつもと同じ量のはずなのに、少しだけ進みの遅い課題を終わらせた。


 そうして向かうのはもちろんVRマシン。

 私は義肢と紗愛ちゃんの指輪を通したネックレスを外して、そのカプセルの中に横たわる。

 そしてログインの手続きを済ませると、目を閉じるのだった。


 目が覚めると、そこはやや見慣れた天井だ。


「さて、今日から頑張ろう」


 今日は動画コンテストの投票開始日にして、最強決定戦の予選の初日である。

 私はとりあえず装備の点検だけ済ませて、ツバキの街にある闘技場に向かった。いつもはやや閑散としている闘技場の近くが今日は人で溢れている。次々と闘技場に消えて行くので、どうやら大半が大会参加者らしい。


 私はやや熱を帯びた視線を受けながら、人込みを縫って闘技場までたどり着く。

 闘技場に入った瞬間に周囲のプレイヤーは消え、急に静かになった空間で一人大きく息を吐いた。入り口前から混雑の防止措置が欲しいな……。


 大会の予選は、流石にトーナメントや総当たりでは行えない。出場者数が多すぎるのだ。しかしだからと言って、バトルロワイアルで決めるなんて乱暴なやり方でもない。


 プレイヤー同士が予選期間中に自動マッチングで自由に試合をして、試合数と勝率を競う。そこから上位のプレイヤー256人が選ばれ、決勝トーナメントに進むことになるのだ。

 ちなみにそれより下でも一応、第2トーナメントだの第3トーナメントだのがあり、無差別1対1部門だけでもトーナメントに進めるプレイヤーは1000人くらいは居るらしい。優勝賞品はかなりみみっちいし、決勝トーナメントには参加賞もあるので上位に入ることに越したことはないが。


 とにかく、トーナメントに進むにはとにかく試合をして勝ち続ければいい。単純で分かりやすい目標だ。

 プレイヤーは自分のランキングを見る事が出来ないが、この大会に限らず自動マッチングだと同じ実力くらいのプレイヤーと当たる様になっている。そのため勝ち続けるのは言う程簡単な事ではなさそうだが、それでも可能な限り勝っていれば上に進めるのだ。

 優勝なんて大それたことは考えていないが、それでもトーナメントに進むくらいはしておきたいな。


 私はやや興奮している気持ちを落ち着けようと、大きく深呼吸をする。

 そして、今大会初となる試合の登録を行うのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ