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新・ペットの性能

 私達が砂漠の神域で遊び始めて3日目。

 途中ユリア達と合流して遊んでいるので、全部が全部周回に掛けた時間ではないが、初日に1時間、二日目に10時間、そして三日目に3時間の格闘の末にようやく期待していたモンスターの魂がドロップした。


 流石は第3エリア上級と言うべきか、浅層にしか潜っていないのに私は1時間に2回くらいのペースで死にまくった。

 しかし主にシトリンのおかげで全滅は避けられている。ソロプレイの時は、プレイヤーの蘇生待ち受け時間が無くなった瞬間に全滅扱いなので地味にすごい。私が一番死ぬのに。


 シトリンと立てた、薬師の矢を温存して私が死んだ瞬間に蘇生薬を射出する作戦は非常に効果的だった。

 特に私は超が付くほどの回避型。粗悪な蘇生薬で復活して敵の目の前で残りHP数%とかになっていても問題は……いや、“大差”はない。薬での蘇生が非常に楽な性能だ。

 防御型だとちゃんと高位の蘇生魔法で蘇生したり、蘇生直後に別の人がHPの回復をさせたりしないと、即座に再び殺されて蘇生が無駄になってしまうことが多い。この辺りは回避型の特権と言える。


 そして現在、私達は第2エリアにあるジャングル、カズラの神域に来ていた。

 ここは世界各地にある神域の一つ。一番近い村がウツボカズラの村だからプレイヤー間でそう呼ばれている場所だ。


 ここはさっきまでいた砂漠とは正反対で、湿度が非常に高い。地面も相応にぬかるんでいるし、現実だったら相当不快な事だろう。私は仮想現実内部であまり汗をかかないので、蒸し蒸しするなと言うことが何となく分かる程度である。


 さて、私達がここに来た理由は主に二つ。

 一つ目は、第2エリアで一度も受けることのなかった神域の試練を今更突破しようという話。

 そして、新しく手に入ったモンスター6体の育成である。


 私はダンジョンの入り口に(たむろ)して居たモンスターをサクッと斬り捨てると、後ろを振り返って傭兵達の様子を確認した。モンスターの使役に緊張して、既に若干顔が引きつっている人が居るからである。


「えーっと、じゃあ召喚型は召喚しちゃおうか。召喚の仕方は分かるよね? 常駐型も再召喚に必要だから覚えておいてね」

「……あ、私か。はい!」


 この中で召喚型は私とカナタだ。

 私は鏡花を呼び出し、そうになって慌てて止める。間違えた。

 今回呼び出すのは“絶叫する硝子細工”。悲恋の面影は常駐型で、既に私に追従しているので別だ。


 カナタはいつも召喚獣を呼び出すように集中して構える。

 すると前方に闇が集まり、ふっと一陣の風がジャングルの青い葉を揺らす。そしてそこから黒い狼が姿を現した。


 見た目だけならば光の狼と正反対のような印象だが、実際にはまだ比べ物にならない程に弱い。ペットは正確なレベルが見られるわけではないのだが、戦闘に使い続けると能力値が徐々に成長していくので、その内第3エリアでも戦えるようになるだろう。


 続いて私も、硝子細工を呼び出してみる。

 闇の柱が屹立(きつりつ)し、その中から古びたメイド服を着た人影が姿を見せた。

 その硬質で冷たい瞳には、何も映していない。どことなく頼りない見た目なのが気になるが、役割は後方からの火力支援なので見た目が(いか)つい必要はないだろう。いや、前衛でも必要ないんだけど。


 とりあえず今のところは、出して置けるのはこれですべてか。


「適当にペット任せで戦ってみようか。……シトリンはちょっと待っててね」

「りょ、了解です! 自分も頑張ります!」

「いや、待っててって言ったんだけど……」


 大丈夫かな……何か初戦闘の時並みに緊張しているようだけど……。

 シトリンのペットはこの中で一番特殊な一撃型だ。他の面子が召喚と常駐なので、色々と特別な判定の映し身を除けば本当に唯一と言えるだろう。


 準備を終えた私達は目的地に向かって歩みを進める。

 この神域に限らず、森のダンジョンは適当に音を出しているだけで戦闘になる程にモンスターの数が多い。道を考えないとすぐに囲まれてしまうのだ。

 しかしそんなこと知ったことかと、中心部に向けて一直線に歩き始めた私達。そんな愚か者目掛けて、数体の小さな影が飛来した。


 やや不気味な振動音と共に現れたのは、玉虫色の……いや、そのまま巨大なタマムシである。体長は優に1mを超える大物だ。名を“宝玉虫”。その割りにドロップが渋いのでプレイヤーからは嫌われている。

 情報通りなら数が多いだけの雑魚のはず。それが4体なら十分に戦える……だろうか? 突然不安になってきたので、私は急いで鏡花も前線に出した。


 最初に攻撃したのは、私の傍にいる面影と硝子細工だ。

 面影は紫色の雷を、硝子細工は赤の宝石の弾丸を放つ。そしてその攻撃は、先頭に居た虫を的確に捉え、そのHPを2割ほど削った。


 ……弱いなぁ。映し身も最初はこのくらい弱かったかな。特に面影は第3エリアのボスなのに、普通に一対一で第2エリアのモンスターに負けそうな勢いだけど……。

 援軍に出した鏡花は、通常攻撃の攻撃力が限りなく低い舞姫で虫達の注意を集めている。あの攻撃力で気が引けるのだから後ろからの攻撃の威力の低さが分かる。


「さ、攻撃ですわ!」


 私の隣にいたラリマールが、自分のペットである本にそう命じた。

 ペットは最初から攻撃と停止くらいの命令は聞くので、実はこうして言葉で命令することにも意味はある。

 私はペットへの命令はつい脳波操作でやってしまうし、その方が楽なのだが、プレイヤーにも“雰囲気作り”のために「行け!」とか「やれ!」とか命じたり、それ以外にも技名を叫んだり、自分で考えた格好いい文言を本当に“詠唱”したりする人もいる。

 まぁ私がよくやるのは、精々傭兵や他のプレイヤーへの声かけくらいだ。こっちは脳波操作できないしね。


 ラリマールの指示を受けて虚実境界が取った行動は、意外なほどに的確だった。的確な上に強力で、それでいて極めて乱暴である。

 虫の集まっている中央、つまりは鏡花の足元が赤く炎熱する。そして次の瞬間、そこから勢いよく炎が噴き出した。その炎に煽られて、正面に居た虫の一匹が影に解けていく。


 その“噴火”が直撃した鏡花はと言えば、私の下まで吹っ飛んで来ている。

 装備重量の関係で若干不安になるほどに軽い彼女を受け止めて、戦闘の行方を見守った。鏡花が大分削っていたとはいえ、今まで一番のダメージ量だ。あの調子なら私達が頑張らなくても大丈夫だろう。


「こらー! そんな乱暴な戦い方がありますか!」

「戦略として間違ってはいませんが……」

「あれを毎度やられるとちょっと厳しいですね……」


 ラリマールは表情も何もない本に説教している。中々シュールな絵だが、ペットの戦闘思考が成長すると分かった今、案外馬鹿に出来ることでもないのかもしれない。もしかすると、ああして叱ったり褒めたりすると思考に影響したりね。


 続いて虫に襲い掛かったのはショールのペット、“砂の巨人”。

 足の形は判然とせず、腕も単に棒状に砂が固まっているだけの見た目で、首どころか顔すらない。巨人と言うよりもただの動く砂山に近いと個人的には思う見た目だ。

 元々は砂漠の神域で中々厄介な動きをする雑魚モンスターであり、やや動きが遅いが、結構頼りになると評判の常駐型のペットである。


 そんな巨人が大きな腕を振り上げて虫に振り下ろすと、僅かにHPが減った。目算だが、1割も減っていない。下手をすると5%も行っていないかもしれない。

 あまりの弱さにショールがラリマールから顔を逸らす。ラリマールは「自分のペットに苦言を呈しておいてそれか」とばかりに湿度の高い視線を送った。


「が、頑張れー!」


 意外と善戦しているのはカナタのペット、“虚ろな影”。他と同じく攻撃力は低いのだが、指示の出し方が上手いのか連続で攻撃を当て続け、虫を一体撃破することに成功していた。


 しかし召喚型の宿命として、召喚時間の超過で敢え無く消えて行く。

 しばらく後に、同じく宝石魔法で戦っていた硝子細工も消えて行った。どうやら散り際に自爆技を使ったりはしてくれないようだ。これから成長していくと使えるようになるのかな。

 召喚型が弱いと言われる原因をたった今初めて実感した。ここから再使用まで待たなくてはいけないのか。これでは育成すら面倒だろう。


 結局面影がじわじわと残った虫のHPを削って、その戦闘は終了となった。

 一応全員で顔を見合わせて、ある事実を確認し合う。


「これ、根本的に育成の方法を間違えてる気がするんだけど……」

「そうですわね。……何か対策、いえその前に原因を挙げましょう」


 流石にこの調子で強くなるまで辛抱強く待っていろと言うのは少々厳しい。諦めて低レベルダンジョンに行くべきなのだろうか。

 ラリマールの言葉にカナタが手を挙げる。


「敵が強すぎるのではありませんか? 攻撃力もそうですが、戦法もこれでは通用しない気がします」

「鏡花さんの時の様に、ラクスさんだけ戦闘に混ざったりとか……」

「いや、それでもちょっと厳しくない? 今のここで一番弱い敵なんだよ?」


 目下の問題は、一度の戦闘に時間がかかり過ぎているということ。

 映し身の時は、第1エリアの最弱モンスター相手に戦い方を学び、第2エリアくらいから私がサポートに回ることで効率よく経験を積んだ。

 しかし今回は第2エリア上級にいきなり実戦投入したので、戦い方が非常に雑な上に能力値が足りていない。あの時は第2エリアのモンスターだったし、今回は大丈夫だろうと思ってここに来たのだが、どうやら完全に過信だったらしい。


 私達は育成のための作戦を立て始めるのだった。


感想、誤字報告ありがとうございます。

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