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砂漠の神域

 ペットの獲得を終えた私達は、次の目的地である第3エリアの神域を目指す。


 あの祈りの石像に所縁(ゆかり)のある、サルスベリの神域……ではない。

 私達は今、荒涼とした砂の大地を馬で駆け抜けている。砂嵐で見えないが、時刻から推測すると、既に日は西に沈みかけているはずだ。思った以上に時間がかかってしまった。


 ここは第3エリアの東側。鉄の砂漠と呼ばれる地域。

 この砂漠には常に砂嵐が巻き起こっている場所がある。そしてその奥には神殿があり、神殿の最奥には天上の大樹があるという話だった。

 今回の目的は試練達成……ではなく、その神殿に生息するモンスターの獲得である。


 風が止み、唐突に視界が開ける。どうやら砂嵐が収まったらしい。

 私達は砂嵐から馬と自分を守る頭巾を外し、その神殿を見上げた。


「これが、世界で唯一の人工物の神域……綺麗だね」

「これほど立派なのに無人なんですよね……。どうしてでしょうか」

「砂嵐を越えて参拝に来るのが億劫なんですよ。きっと」


 見上げる程に高いその建物は、古代に建てられたとは思えない程に美しい。金や宝石で彩られた壁や、精巧な彫刻、そして小さいながらも流れている滝は、この砂漠の富の象徴と言えるだろう。

 もう記録も碌に残っていない程の太古に作られたはずなのに、まったく劣化しているようには見えなかった。


 カナタの言う通り、これほどの建物が放置されているのには理由があるとは思う。試練の一族ならばモンスターもあまり関係ないはずだし。

 ショールはあまり興味がないのか早々に話題を終わらせてしまったが。


 この神域が長い事放置されていると知ったのは、最寄りの村に立ち寄った時の事。

 ここから一番近くの人里は、行商がこの砂漠を渡るために作った宿場町だ。その中央にはオアシスがあり、水が結構な高値で売られていた。

 ちなみにこれはただの雰囲気づくりの一環であり、別に水が不足していたりするわけではない。あそこの人たちもスープとか普通に日常的に飲んでいる。


 来るのが面倒な上に人里からも離れているので、プレイヤーからも人気のないダンジョンの一つ。そもそも難易度が高くて手を出しづらいというのもあるのかもしれないが、天上の大樹に(まつ)わる神域の試練をいくつか達成しても一向に何も起きないという理由の方が大きそうだ。

 いつかは何かしらあるとは思うのだが、第3エリアまでの全試練を突破しても何もないというのがプレイヤー間の認識になりつつある。おそらくだが人が居ないと言われる第4エリアにも神域があるのだろう。


 私達はその美しい建築に感心してから、神殿に足を踏み入れた。

 日が落ちて肌寒くなってきていた砂漠の外気とは打って変わって、神殿内部は適度な湿気と気温がある。外との差でやや蒸し暑いとさえ感じる程だ。


 内部には川や花壇が並び、とても美しい景色で私達を楽しませる。小川は何と言うか、現代人から見ると側溝のように見えてしまうのが難点だが。

 私達はここが危険なダンジョンであることを忘れそうになりながら、キョロキョロと視線を動かして足を進めた。


 そして、ついにこのダンジョン最初の敵が現れる。


「あれ、は……外れだね」

「外れと言うか、目的のモンスターではないと表現した方が的確ではありませんか?」


 私達の前で立ち上がった影は、筋肉隆々の男。

 もちろんただの男ではない。そもそもこのダンジョンは“無人”だ。

 彼は全身が黄金色に輝いており、その肉体を余すことなく晒している。

 思わず股間に視線を向けてしまうが、思っていた以上にしっかり描写されている。美術品だから性的ではないという判断なのだろうか。……長さは私の小指くらいだな。思っていたより小さい。


 ちなみに、ドロップアイテムから推測される彼の主成分は“貧者の金”。つまりは真鍮(しんちゅう)である。モンスターの名前も“王道の守り人”で、実は黄銅とかけている運営渾身のギャグなのではないかと言われている。

 更に余談だが、陰部丸出しなのは現在発見されているモンスターの中で彼たった一人。あらゆる意味で目立つ存在なのだ。


 そんな男が合計で3体、目前に迫って来ている。格上相手の初戦としてはやや多めだが、このダンジョンは序盤一本道なので出口まで戻らない限りスルーはできない。


 迫り来る男たちに、突如風の刃が甲高い音を立てて迫る。そんなラリマールの魔法を合図に、私達は攻撃を開始した。


「そっちお願いね!」

「善処します」

「任せてください!」


 とりあえず私が一体、ショールが一体、カナタが一体をそれぞれ受け持つ作戦だ。

 少々カナタが不安だが、最初は出し惜しみなしでシトリンとラリマールに火力支援してもらうことになっているので、何とかそれで先に突破して欲しい。


 先制攻撃を仕掛けたラリマールを狙う黄金の男に、私は水晶の刃を突き立てる。こっちが折れてしまいそうなやや不安になる光景だが、青エフェクトが散って弾かれることもなく攻撃が通った。


 この守り人は弱点は特になし、攻撃手段は拳のみと中々変な性能だ。どちらかと言えば格闘家と同じく壁役に近い存在だろうか。攻撃力も中々だがリーチは短い。


 私は鏡花を召喚し、狼が相手をしている男も巻き込むように静水の舞を使う。ショールの方は余裕がありそうだし、そもそも攻撃が届く範囲に居ない。

 緩やかな舞を続ける私を狙って守り人が一人前進してきたが、これは鏡花が食い止めた。


 静水の舞による、動きの鈍化効果で男の動きが遅くなる。

 速度が落ちれば攻撃力も落ちると思いきや、システム的にはあんまり変わらない。そのため防御型は攻撃デバフ、回避型は敏捷デバフで使い分ける必要があるのだそうだ。私はあまり妨害をしない上に、自分が回避型なので意識したことはないが。


 私は守り人の遅めの拳をわざと掠る様に受けながら、剣の舞を発動した。

 剣の舞は、攻撃後の隙をキャンセルして別のスキルに移行できる超攻撃型のスキル系統だ。他に類を見ない効果で、踊り子のDPS(ダメージパーセコンド)が(特定の条件下で)トップクラスになり得る大きな要因でもある。

 もちろんスキルだけで攻撃することになるので、いくつか問題もあるのだが。


 私は“剣の舞・四連”を黄金の体に叩き込む。そして次のスキルを使おうかというその時、目の前の男が反撃に転じた。


 私目掛けて突き進むその金属の拳の軌道を確認して、私は“剣の舞・迅疾(じんしつ)”を発動する。

 その名の通り素早い動きで守り人の横を通り抜けて、すれ違いざまに小さくいくつもの傷を付ける。男の拳の先には既に私はおらず、空を切るばかりだ。


 剣の舞の一つ目の問題は、基本的にスキル中は自分で動けないということだ。

 いつでもキャンセルして次のスキルに移行できるとは言え、次の動作も結局はスキル。つまり、スキルの動作で敵の反撃を躱すという行動が必要になる。


 幸いその辺りは考慮されているのか、剣の舞には大きく移動できるものが複数ある。迅疾はその最たるものだ。

 他にも上に逃げられる“飛翔”や、後退できる“幕引”、飛び跳ねながら自由な方向に移動できる“胡蝶”など。敵の攻撃範囲と移動できる場所、そして何より速度を計算してタイミングを計ることが重要になる。


 これが非常に面倒だ。

 基本的には迅疾か幕引で逃げられるのだが、一度使ったスキルは“スキルの終了時”から再使用のカウントダウンが始まる。

 途中でキャンセルしたスキルは、最後のスキルの終了後にカウントダウンが始まるのでスキルによる連撃中は同じスキルが二度使えない。

 例えば私は今、迅疾を使ってしまったので次の回避は別のスキルを使用しなくてはならないのだ。

 回避の度に連続使用を止めれば確かに安全ではあるのだが、それでは火力が出ないので意味がない。


 他にもMP消費量が莫大だとか範囲攻撃が避けにくいとか色々あるが、一番厄介なのはDPSが高いという印象しか持っていないプレイヤーに、その繊細さが伝わっていない点だと個人的には思う。

 被弾を避けるには致し方ないというプレイ動画に、下手だとかサボっているだとか文句が付いていたりするので、それに対する反論、反論の反論が続いてそりゃあもう荒れる。攻略動画なんて出すもんじゃないね。私は出してないけど。


 そのまま続けざまに威力だけを考えた剣の舞を出して、守り人が振り返る前にダメージを稼ぐ。

 そして彼が今までにない構えを取った瞬間、攻撃を中断して幕引で後方へと逃げた。


 私のいた場所に黄金の手刀が振られ、バチバチと音を立てて電撃が走る。

 見た目は地味だが、あれは属性舞の様に攻撃の周辺に属性の攻撃判定があるので大きく避けなくてはならない。話には聞いていたけれど、ちょっと面倒だ。


 攻撃判定が終了したと同時に、鏡花が後ろから斬りかかった。

 気になっていた攻撃も見る事が出来て、少し余裕が出来たので戦場を確認する。

 丁度ラリマールが大地の魔法で一体目を破壊している所だった。残りは二体。このままいけば何とかなりそうだ。


 私はまだまだ健在な金の像に向かって駆け出した。


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[一言] さすがにスキルの挙動知らない上で批判するのは愚かしいねぇ チャージ攻撃の溜め段階に‘攻撃しろ’とかいうコメント打つレベルの批判だし
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