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ペットの獲得

 思っていたよりも精神的に辛かった周回は、7時間という長い時間を掛けて終了した。

 ダンジョンの奥には行っていないが、多分ボスはこのままだと無理だろう。私も本相手に結構死んだし。


 その周回の結果は、虚ろな影の魂一個、虚実境界一個と目標達成である。要らないが敬虔な死霊の魂も一つ手に入った。

 ちなみに、その裏では私の出品した悲恋の面影のオークションが終了していたりする。周回の途中、一瞬で所持金が10倍になって驚いちゃったよ。


 一度自宅に帰ってきた私は、装備の耐久の調整を終えてラリマールのクッキーをサクサク食べる。小麦の香りと優しい甘さが口いっぱいに広がる幸せの味だ。……個人的にはチョコチップとか入れて欲しい。美味しいけど甘さが足りない。

 私は鍋で温めた牛乳を飲み干して、メニューを操作する。


「んー、こんなもんかな?」


 周回の途中にユリアから回復薬の注文が来ていたのだ。あの3人にはシトリン謹製の薬を無料で提供している。シトリンの作った物なので私が無料で渡すのはちょっとあれかとも考えたのだが、これはそもそも私がシトリンから格安で買っている物なのであまり気にしない事にしている。


 これらを譲渡申請して、私は窓から畑を見た。

 日の光に照らされた外では、シトリンが楽しそうに薬草の世話をしている。最近では裏の畑だけではなくて前庭の花壇の世話もしているらしい。

 馬の世話もそうだけど、シトリンは少々働き過ぎではないだろうか。私を含めて他の面子があまり関与しないのもあって一人家政婦みたいな役目になってきている。


 その辺り気が利くショールが手伝っていることもたまにあるが、ラリマールは料理が楽しいらしく必要以上に作っては外で売っているし、カナタは読書と街の散策ばかり。かく言う私も、ログイン制限の関係であまり手伝えていない。

 もちろん私を含めてそれが悪いともあまり思わないし、過労で倒れたりもシステム上しないはずなので、寝食を忘れて動植物の世話をするのが楽しいならシトリンにも文句はないのだが。


 まぁ少なくとも今は良いだろう。

 帰って早々に畑仕事に精を出しているシトリン以外は揃っているし、ここでやってしまうことにしよう。


「ラリマールとカナタ、どっちからやる?」

「え、シトリンさんは良いんですか?」

「直前になってからでいいんじゃない?」


 ペットにしたいモンスターの魂は集まったので、後は強化版のモンスターを魂で呼び出して獲得するだけである。

 そのためラリマールとカナタにそれぞれ一つずつ魂を渡してあるのだが、流石に同時に呼び出すわけにもいかない。順番を決めてもらおう。


 そこまで考えて、ふとある事を思い出す。そういえば、私のペット追加してもいいんだよね。


 私はインベントリを開いて持っている魂を確認する。素材として使えないしペットにする以外の活用法と言えば、レアアイテムの確定ドロップくらいなので複数入手した物は市場に流している。

 悲恋の面影のレアドロップも魂を使えば……と思わなくもないが、気付いた時には必要数クロスが集まっていたので一つだけ残して市場に流した。入手できる金額から見てもこちらの方が判断としては正しかっただろう。


 しかし、イベント中に運良く一個だけ手に入った物は倉庫で死蔵したままだ。編成枠も増えたことだし、映し身以外のペットと同時に戦うのも慣れた方がいいだろう。

 あと単純に私の耐久が低すぎるので、いざと言う時に召喚して盾になってくれるようなペットが欲しい。


 そしてソートの結果並んだ魂の在庫を見て、私はため息を吐いた。


「……駄目だなこれは」


 ずらりと倉庫のリストに並んだ5つの魂は、残念ながらどれも耐久には程遠い性能の物ばかりだった。イベントで手に入った魂は第1第2エリアのモンスターばかりで、そもそも実用的な種類が2種類しかいない。


「……順番、決まらないなら私からやろうか」


 私はどっちでもいいという結論に達したらしいラリマールとカナタの話し合いを横で聞いてから、そう判断する。弱い順にやろう。私、カナタ、ラリマール、私の順でいいかな。

 私達は水やりを終えたシトリンを出迎えて、倉庫から“絶叫する硝子細工”の魂を取り出した。


 そして、霞がかかった春の朝の色の球を床に放ると、周囲の景色が一変した。

 5人で集まるにはやや広すぎる食堂は姿を消し、怨嗟の館の一室が姿を現す。


 その中央には、一体のガラスの人形が立っている。この廃屋の様にボロボロになった侍女服を着たその人形は、私達を色も付いていないガラス玉で視認する。

 関節などない一塊のガラスのはずだが、柔らかな素材でできているかの様に自在に手足を動かし歩き出す。


「まぁ適当にやっても負けないだろうけど、多少強いから怪我しない様に」

「攻撃重視で大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃないかな。あ、光に弱いからカナタのダメージ優先で……っと」


 唐突に飛んできた白い破片を紙一重で躱し、私は簡単に作戦会議を済ませる。

 この絶叫する硝子細工は、怨嗟の館に出没する雑魚モンスターの一種。攻撃方法は遠距離からの魔法が中心で、この世界では大変珍しい宝石の魔法を使う。本人は硝子なのに。

 ちなみに宝石魔法は地属性+他の属性の攻撃だ。

 透明なら光、赤い宝石なら炎、黄色なら雷、緑なら風、青なら水、黒なら闇、白なら氷……他にもいくつかある。ちなみに私はどの属性も直撃すると瀕死なのであまり色は関係ない。攻撃方法も直線的に飛んでくるか、爆発するかのどちらかなので避けるのは容易だ。


 最初はその多様な属性から、汎用性が高くて強いのではないかと言われたものだ。

 しかしペットの研究が進むにつれ、目的のダンジョンに合った属性に特化したペットを何体も育成した方が役に立つとか、そもそもペットにアタッカーは無理とか、召喚型は使いやすいがメリットも薄いとか言われる様になっている。もう見向きもされていない悲しいモンスターだ。尤も、特別有用なペット以外、9割のモンスターはそうなのだが。


 怨嗟の館では一方的に殴って蹴散らしていたくらいの難易度だったが、魂を使って戦闘できるモンスターはやや強い。多少は慎重に行くとしよう。


 そう思っていたのだが、私が様子を見ている間にラリマールの雷撃が命中し、ショールの矢が頭に直撃し、カナタの光の鳥がその爪を突き立てる。

 そしてそのガラスの乙女は、聞くに堪えない絶叫を残して砕け散った。


 ……ああ、そんな攻撃あったな。

 流石にあれだけの攻撃で死ぬのは予想外だったが、最後はどうやら自爆技を使ったらしい。

 周囲に大ダメージを与えて自分も死ぬ嫌らしい性能の攻撃だが、周回中は基本的に瞬殺していたので忘れていた。最後に見たのは、館の鍵を取る最初の攻略中だったかな。


 絶叫する硝子細工は一定ダメージを与えるとああして自爆するモンスターなのだが、ガラスの体の耐久値は悲しい程に低いので日の目を見る機会はあまりない。いや、自爆するのがいい事だとは決して思わないが。

 結局彼女は光の鳥一体を道連れにして消えて行った。


 食堂に戻った私達は、あっけなく終了した戦闘にやや落胆しつつ、次々とペットを獲得していく。

 黒い狼の虚ろな影はカナタの光の狼とじゃれている間に死に、大きな本の虚実境界は連続で異形の戦士を召喚するが私達が足止めをしている間にラリマールが焚書した。


 最後は私のとっておき、初となるボスモンスターの強化版、悲恋の面影だった。


 しかしこの戦いも実に呆気なく終了してしまった。

 周回と同じ戦法で攻撃を繰り返し、私が途中継続ダメージの数秒であっと言う間に死んだりもしたが、それ以外は特に問題もなく倒せてしまった。

 数百回倒したボスなので、戦い方が変わらないならば大きく手古摺(てこず)る要素もないのだ。ちょっと悲しい。

 図書館を徘徊していたこともありあの時よりも少し傭兵のレベルも上がり、アメルの影響で私の攻撃力も上昇していることも苦戦しない理由の一つなのだろう。むしろこの前よりも早かったほどである。


 そんなこんなで私達のペット獲得の戦闘は恙なく終了したのだった。


おそらく一人の方だと思うのですが一話から百数十話まで、大量の誤字報告大変ありがとうございました。

恥ずかしながら今まで“何だが”を“難だが”だと勘違いして生きてきました。難があるのだが、の略語のイメージがあったんだと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] てこずる要素がない(死なないとは言ってない)は草 まぁ紙耐久ならよほど回避が上手くなきゃそんなもんよね
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