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面影に決別の銃弾を

 フランの攻撃に反応した面影は私から離れる様に、そして弾丸と垂直方向に移動している。

 パターンがあると言われてみれば確かに、フランの攻撃に対して横方向への転移を行っている場合が多い気がする。


 私は回復薬を割って体にかけながら、一旦フランの下へと戻った。銃の有効射程距離が短いので、そこまで遠くはない。


「で、パターンって?」

「遠距離は横、近接は前後に動く」

「……そうだった?」


 私は継続ダメージで消えて行く映し身を見送りながら、今までの戦闘を思い出す。

 確かにフランや凩さんの攻撃には、横方向に避けている印象はあるが、私の攻撃を前後に避けているのだろうか。斜めに動いてどこに居るのか探していることの方が多い気がするのだが。

 私が首を傾げていると、フランは弾丸を装填しながら言葉を続けた。


「攻撃の方向に反応してる。横振りなら左右、斜めなら斜め。だから多分……」

「縦振りなら前後のどちらかってこと?」

「それなら当てられる。絶対」


 確かに、その仮説が正しければ当てるのは容易だろう。左右にブレれば狙いをつける時間が必要だが、必ず前後に移動すると知っていればそのままの狙いで当てられるはずだ。

 私以外のメンバーの魔法耐性はそこそこだが、それでも継続ダメージが地味につらい。検証に時間を使っている暇はない。

 私はフランに一度頷いて見せると、凩さんの魔法を躱した面影に突撃する。


「射線空けてね」

「もちろん!」


 面影に迫っていた羅刹さんを追い抜き、私は倒れ込むような勢いで扇を少女の脳天目掛けて一直線に振り下ろす。

 背中を撃たれたくはないので、その後の動きを見ることもなく思い切り姿勢を下げた。


 辛うじて見えた光景は、人間にしては青白すぎる足が私の直線上にぼんやりと現れたこと。

 それと同時に銃声が響き、闇が晴れる。


 跳ね上がるように姿勢を起こすと、少女は撃たれた胸を押さえて蹲っている。見ようによっては痛ましい光景だが、誰一人としてその手を緩めることはなかった。

 特に、私の背後で虎視眈々と機会を窺っていた彼女は。


「とっておきだ。受け取れィっ!!」


 羅刹さんの拳が七色に輝き、面影の顔面にアッパー気味に炸裂する。霊体の特殊効果でノックバックが無効にされていなければ、見るからに軽そうな彼女の体は拳の勢いだけで派手に吹っ飛んでいたであろう。

 数多の属性の奔流が、その拳を中心に一気に解き放たれる。


 私は爆風から顔を守りながらも、白い部屋の中に少女の姿を探す。

 追撃を受けないために転移したはずだ。視線を巡らせ、そして未だに灰色の煙が残るその先に少女の姿を見付ける。


「6割吹っ飛んだ……すごい火力だ……」


 魔人が習得する魔法判定の格闘技、その最上位のスキル“虹霓(こうげい)の息吹”は光と闇を除く()()()を複合した攻撃である。

 相手に属性魔法に弱いという特性でもなければ普通の弱点単一属性のスキルを使った方がMP効率的にお得なのだが、弱点が分からないがとにかく早めに倒したい時や、他の上位スキルに弱点属性がない場合は最大火力になり得る。

 特に魔人は諸手で戦う職業なので、武器による属性攻撃の強化が乗らない。プレイヤーに作れない特殊なアクセサリーを持っていれば別だが、そんなレアアイテム滅多にないのだ。

 そのため特定の属性特化になりにくいのもあって、意外に使い勝手は良いのだとか。


 悲恋の面影は物理攻撃が効きにくい反面、魔法に弱く、最大HPもボスにしては低い部類だ。私達のレベルから見れば適正より多少弱いのもあって、たった一撃でボスのHPを半分以上削ったことになる。

 踊り子の宵闇の一人舞台も相応に強力だが、瞬間的に火力を出すスキルでこれは凄まじいな。


 上位スキルの後に大きな硬直で動けない羅刹さんに無数の手が迫る。

 邪神官のスキルに似たようなものがあるが、これはボスの特殊行動の一つ。捕まえた相手を地面に引き倒して、剣を突き刺す攻撃だ。


「ちっ、不躾に触りおあだっ!?」


 私はすぐさま羅刹さんの頭を蹴り抜いて、その場から退かす。ダメージはないのでなるだけノックバックが大きくなるように、ドロップキックを後頭部に叩き込んだ。


「大丈夫ですか?」

「お前! もっとエレガントな助け方があるだろう!!」

「次来ますよ!」


 紫の雷や、攻撃が全く通らない人影を躱しながら、私と羅刹さんは面影の少女に接近する。

 羅刹さんはMP残量的に高火力のスキルはもう使えないはずだ。対して私はと言えば、連撃でダメージを稼ぐタイプなので転移されるとやりづらい。


 出来る事と言えば、転移先を固定すること。


「フラン! やろう!」

「分かった!」


 いつの間にか場所を移動していたフランが、スキルの弾丸の装填を開始する。あのスキルは事前の準備が長いので、私からタイミングを合わせなければならない。

 発動のタイミングに、私とフランの直線上にボスの位置を調整する。最悪私の回避は間に合わなくてもいい。


 羅刹さんの拳が面影の体をするりと通り抜ける。

 面影は転移せずにそのまま手に持った刃を彼女に向かって撥ね上げた。思った通り、普段は物理攻撃を受けても反撃を優先するようだ。


 しかし彼女はその剣の軌道を完全に読み切り、紙一重で躱して見せた。


 私は羅刹さんの背後から腕を伸ばして剣を払う。空いた胴体を見て彼女の顔がにやりと笑った。


「せいっ!!」


 羅刹さんの次の拳が一直線に振り抜かれ、爆風と共に面影を吹き散らす。

 その風を受けた私は、まだ見えぬ面影の下へと走り出す。距離は多少誤差があるが出現する方向とタイミングは同じ。とにかく走れば間に合う。


「ラクス!」


 フランの声の方向と、ぼんやりと現れた面影の姿、そして感覚として覚えた発動のタイミングを計算して、私は雷の舞を発動した。


 高速の切り上げが雷鳴と共に面影の少女を貫く。しかし続く上からの攻撃を受ける前に少女の姿は掻き消えてしまう。


 それと同時に、ズガンと部屋全体が振動するような衝撃が走り、私の眼下を金色の弾丸が抜けていく。


 そしてその弾丸は、未だにはっきりとは見えない面影の少女の眉間を貫いた。


 私は聞くに堪えない悲鳴を聞きながら、何も居ない場所に向かって雷撃を纏った斬り払いを繰り出す。詠唱みたいにキャンセル出来たらいいのだが、一度発動するともう止まらないので仕方がない。


 面影の少女は操っていた糸が切れてしまったかの様に崩れ落ち、そして消えて行った。


「終わったね」

「お疲れ」


 舞姫を腰に戻し、フランとハイタッチ。そしてほっと胸を撫で下ろした。いつやっても冷や冷やするな、このスキルの連携……。


 最後に使ったフランのスキルは、魔銃使いが習得する中で最も火力の高く、そして発動までが長い攻撃だ。ちなみに銃の専門職である魔銃使いで一番ということは、全職業の銃スキルの中でトップの火力と言うことと同義である。

 その名を、“ザミエルの契約”という。


 有名な芝居に登場する悪魔の名を冠したこのスキルは、物理でも魔法でもない特殊判定の攻撃だ。相手の物理と魔法の耐性を貫通する無属性スキルと言える。

 しかし一番特徴的なのはそこではないだろう。


 このスキル何と、()()()()()()()撃つことしかできない。

 その上、敵味方無差別に大ダメージを与えるという特殊仕様まである非常に怖い技なのだ。


 弾は一直線上を長い距離貫通するので、味方諸共撃ち抜いて犠牲者を出しつつ攻撃するという使い方もできるが、狙われている側が完璧にタイミングを見切れば一応避けることも可能だ。その上狙っている方も味方の体のどこかに照準を合わせればいいので、避けやすい位置を狙ってくれればよりやりやすい。


 今回は発射直前に使った雷の舞の上昇中に、フランが足を狙うのが作戦、というか一通りの流れだった。

 もちろん私のタイミングが遅ければ私に当たり、早過ぎればフランの銃口が自然と上を向き、面影に当たらず私にだけヒットする無駄弾になってしまうのだが、その辺りは慣れの問題である。実戦で使うのはこれで数度目。余裕のないボス戦ほどフランが使いたがるので結構緊張する。


 まぁとにかく、当たったならそれでよし。フランがこのスキルを取得した際に蘇生薬を何十本と消費しながら練習した甲斐があったという物だ。


 私達はそれぞれ、このパーティでのボス初撃破をしばらく喜び合うのだった。


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