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鍛冶師を探して

 カエルの岩屋をほくほく顔で後にした私は、サクラギの街でさっき会った露店の店主、マツメツを探していた。バザーにある露店の場所には、もうすでに別のプレイヤーが露店を開いている。

 現在時刻は二時半過ぎ。プレイヤーの露店は入れ替わりが早いらしいので、居ないのは当然とも言えた。


「こんなことならフレンドになっておけば良かったかな」


 素材が色々手に入ったのであのサーベルを融通してもらおうという思惑だったのだが、居ないなら仕方がない。


 私は一人、泥団子とユリアから受け取った素材をしこたま持って、当初の予定に従いレンタル鍛冶場へと向かっていた。

 他の二人はどこへ行ったかと言えば、カエルの岩屋の情報を調べると言って他の攻略サイトや掲示板などを漁っているのである。ログイン時間がもったいないとのことでログアウトしてまで。

 入る前に話していたあの岩屋が未発見か否かの決着をつけるためらしい。正直、どっちでもいい。


 マップに示されているレンタル鍛冶場は商業区と呼ばれる場所の端。バザーやサクラギ商会の近くにあるらしい。私はマップとそれらしい看板を交互に探しながら大通りを歩く。


 やはり三連休ということもあってか、街にはプレイヤーが多い。特にこのサクラギの街はプレイヤーが最初に降り立つ場所であるため、私と同じ初心者装備であちこち見て回っている者も結構な人数が居た。


 そんな初心者達に混じって、怪しげなことをしている二人組が視界にチラチラと入り込む。ロリータファッションをした小さい女の子と、ミニスカートにポニーテールの女の人。二人は大通りから路地を覗き込んでは建物の壁や路地の広さを測っているように見えた。


 あまり気にしない様にしていたが、あの人たちは何をしているのだろうか。私はあからさまに怪しい二人組を見ながら思わず距離を取ってしまう。


 その時、私の左側の大きな扉開く。よそ見をしていた私はそこから出てきた男とぶつかりそうになった。


「あっと、すみませ……」


 咄嗟に足を止めてその男に謝罪をしようと視線を戻すと、予想外の人物が立っていた。


「あ」

「あ、お前……」


 そこに立っていたのは私の探し求めていた人物、露店の店主マツメツさんだった。



 ***



「なるほどな。素材を取ってきたから何とかあの剣を融通してくれと」

「そうです!」


 私とマツメツさんはレンタル鍛冶場の中で話し合っていた。ちなみに、マツメツさんが出てきたあの建物こそレンタル鍛冶場のある場所だった。落ち着いて話のできる場所ということで、広いここを使わせてもらっている。


「まぁとりあえず、何取ってきたか見せてみろよ。装備の素材なら俺も買い取りたいし、あの剣は思ってた以上に売れなかったしな」

「はい!」


 私はメニュー画面からインベントリを開くと、画面を公開設定に変更して彼に見せる。迷いの森と暗闇の洞窟の物、それと二人が死蔵していた雑多な素材も交じっているのですごい量である。インベントリの限界量の半分近い。


 私が見せた画面をスクロールしていたマツメツさんの動きが止まる。画面を見れば、彼が見ているのはさっきのカエルの岩屋の鉱石類だ。


「これは……どこ行ってきたんだよ」

「それは秘密です」


 話すつもりがないことを伝えると、彼は大きく嘆息してテーブルに頬杖をつく。


「俺もまだまだとはいえ、鍛冶師の端くれだからよ。素材についてはそれなりに詳しいつもりだ。こりゃどう見ても第2とか、第3エリアの素材じゃねぇか」


 この作品において“第〇エリア”とは、ある特定の地域の俗称だ。公式の用語ではない。

 このサクラギの街を中心に第1エリアが広がり、その端には数か所の関所がある。その関所を超えた先が第2エリア。

 更に第2エリアの関所を超えた先が第3エリアである。詳しくはないが第3エリアにも関所があるらしい。


 エリアが変わるとモンスターの強さが格段に上がるとか、強い装備が手に入りやすいとかそんな感じ。今のところレベルを限界まで上げても第3エリアの一部地域の突破は困難で、第4エリアは未だ到達者は0だとか。


 私が今まで行ったことがある場所で一番遠いのは暗闇の洞窟だが、あそこもまだまだ第1エリアである。当然それより近いカエル山も。


 そんな中で第2エリアの素材を入手してきたのが気になるのだろう。マツメツさんが頭を掻きながら(いぶか)しげな顔をしている。


「で、どうですか」

「どうもこうも、十分過ぎる。正直、魔石一個でもあの剣じゃ釣り合わんな」

「じゃあ銀とか鉄とかその辺を……」


 流石にこれ全部を渡すつもりはない。そもそもこれらは3人分の武器を用意するという予定で渡された素材。私の剣だけの費用にするわけにはいかないのだ。

 出かける前に色々見て回って覚えた鉱石の相場を思い出しながら渡す分量を考える私を前に、マツメツさんが口を開いた。その表情は険しい。


「あー……虫のいい提案なんだがよ、この素材で俺に新しい装備作らせてくれねぇか?」

「それは……」


 マツメツさんの提案は、ここにある素材を預けて自分に装備を作る依頼をしてい欲しいという話だった。素材を見た時から鍛冶がしたくてウズウズしているが、これを交換できるだけの値打ちのあるアイテムもお金も持っていないらしい。

 特に珍しい鍛冶素材は今、かなり高騰している。


「俺も初心者に毛が生えたみたいなプレイヤーだから、こんな素材触ったこともないんだ。金は要らんし、魔石や宝石みたいな高級素材は余ったら返す。どうか俺にやらせてくれないか?」

「うーん……」


 困った。

 何が困ったかと言えば、受ける大きな理由もなければ、断る大きな理由もないのだ。


 断る理由に、彼が素材を持ち逃げする可能性もあるにはある。しかし彼には伝えていないが、そもそも鍛冶初体験の自分が練習に消費しようと思えるくらいには再入手は容易な素材だ。カエルの岩屋の難易度は3人居れば非常に低い。というか私が暇で採掘ばかりだったレベルである。


 逆に受ける理由は、私が作るよりはマツメツさんの方が上手いという可能性が非常に高いこと。こちらもどうせ練習用に、と大量に素材を集めたので究極的に言えば私が上手くなる間の手間が省けるというだけだ。


「一回、友達に聞いてみますね」


 もし受けるなら二人に聞いてみなくてはならないだろう。私はメニューからチャットアプリを立ち上げる。

 二人に聞いてみると、すぐに返事が。意外にも二つ返事で快諾であった。そもそも新しく装備を欲しているのが私だけ、という理由もあるのだろうけれど。


「うーん……それなら」


 私はマツメツさんにいくつか装備の注文をすると、お互いをフレンドシステムに登録。大量にある素材をインベントリからすべて譲渡する。


「ありがとう。必ず最高の装備に仕上げてみせる! これは俺からの気持ちだ」

「これは……!」


 彼は私に一本の剣を渡すのだった。


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