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豪壮な邸宅

 依頼を受けた私は、ショール達から頼んでいた素材を受け取って件の槍の制作を始めた。ちなみに今回は流石に頼んでいた品物の代金を支払っている。高額商品買って来てくれてありがとう。無駄にはしないよ。


 そうして午前の実験を終えた午後。

 仕事を受けたと聞き付けたユリアとフランが私の下まで駆け付けてくれた。私は高級素材を大量に使った実験の結果をリストにまとめながら彼女たちを出迎える。


「どうしたの? ってあれかな。イベント行くのに人数が足りないとか」

「それもあるけど、どうしてるかなって。こういうのラクスすぐに無理するから」

「お土産も持って来た」


 私がユリアにシトリン達の編成権限を貸与すると、フランから譲渡申請が送られてきた。内容は……カジノの景品である。これはいつもの事だが一つ違うのは、第3エリアにある3つの賭場の景品がごちゃ混ぜでリストに載っていること。

 どうやら第3エリアを駆け回って集めて来たらしい。皆転移できるようになってからアグレッシブに動くな。私まだ帰郷の欠片使ったことないんだよね。


 泥団子のプレゼントより少ないとは言えこれまたすごい量なのだが、カジノ素材は持ち合わせがあまり無い。

 実験があまり順調とは言い難い状態なこともあり、正直助かるので有難く頂戴しようと受領ボタンをクリック。


 その瞬間、エラー音が鳴り響いた。


「えっ、あ……」

「どうしたの?」


 ユリアの問い掛けに手振りで待つように返事をする。

 システムメッセージ君を見れば、『受領するとインベントリの上限を超えます。89個のアイテムが破棄されますがよろしいですか?』と表示されていた。初めて見るメッセージだが、思い当たる節はいくつもある。

 いつものパーティを組んでいる時に集まった素材を皆で私に渡すこと。イベントが始まってから雑多な素材群を渡され続けたこと。さっきの泥団子とユリアからの誕生日プレゼント。ラリマール達に頼んでいたお使い。


 それらが積もりに積もって、ついにこのカジノの景品で(とど)めになってしまったのだろう。

 私は間違わない様に少し緊張しながら、受け取りの拒否ボタンを押した。


「インベントリ溢れちゃった……」

「え!? あの上限5,000あるあれが!?」

「ラクス、片付けられない女だ」

「皆がゴミ箱代わりに使うからだよ……」


 暇を見てインベントリの整理はやっていたつもりだったのだが、いつまでもやってこない上限にやや気が抜けていたかもしれない。

 そういえばさっき95%超えたような超えてないような……。5000と聞くと多いように感じるが、木材なんかは同じ素材をいくつも常備してあるので整理整頓を怠慢すると結構重なってしまうようだ。


 とにかくこれでは素材を受け取れないので、何とかしてインベントリに空きを作らねば。第1エリアで集めたような下位の素材をポチポチ捨ててこうかな……でもこれがないと装備制限下げられないから地味に必要だし……。

 私は一縷の望みを掛けて、ユリアに質問をしてみる。


「……このゲーム、インベントリの拡張機能ってあったっけ」

「無いね……」

「売るか捨てるか……どうしよう」


 お金あるし、いつでも市場に出回っているような素材は一旦売っちゃおうかな。そんなことを考えていると、フランが私のインベントリを覗き込んできた。非公開設定にしてあるから見えないよ。

 私は公開設定を変えて自分のインベントリを見せる。


「おー。たくさん溜まった」

「おかげさまでね……」


 私のゴミ箱のようなインベントリを勢いよくスクロールさせて一頻り感動したフランは、私に視線を戻した。


「インベントリの拡張ってことは、あれ買うの?」

「え、拡張できるの?」

「……違うの?」


 私とフランお互いに言っている意味が分からないという表情で見詰め合った。



 ***



「この手があったか……」


 私は目の前にある一軒家を見上げて唸る。

 ここはツバキの街郊外にある住宅地。郊外と言うか、外壁の裏口から一歩外に出ればフィールドなので最早街の中ではない気もするが。地図の上では街判定だ。モンスターが出るわけでもないし。


 街の方を振り返れば、隣の家はご近所とはとても言えないような距離に小さく見える。その間には春の花が咲き乱れる美しい花壇や、立派な木が並んでいる。この家の庭である。


 家に視線を戻すと、一人で住むには明らかに大き過ぎる家が目に入る。正確に言えば、それだけでは入り切らず、更に首を巡らせなければ全体を見渡せなかった。

 緑の漆喰(しっくい)の壁に、屋根は焦げ茶色のレンガで中々オシャレに決まっている。抹茶のお菓子みたいで美味しそうな色なのは高評価だ。

 漆喰の壁や、玄関の前、庭の噴水には見事な彫刻があり、見る者を楽しませる。現実だったら掃除とか管理のために誰か数人雇わなければならないレベルの場所だ。


 私は家の中には入らずに、家の裏側に回る。回り込む途中に見える小さな……いや、十分に大きい建物を何となく目で追った。

 鉄柵で囲まれた広大なこの家には本邸の他に別邸があり、正門から右奥の方に似たような外観の建物が建っているのだ。あっちも敷地か……。

 家の裏には花壇ではなく畑があった。どうやら薬草や野菜などを栽培できるようになっているらしい。この世界のお貴族様は自分の屋敷で畑仕事なんてやらせないので、この家はこれでも平民用と言うことなのだろう。


 一体何人で住むことを想定したら、このサイズになるのだろうか。間違いなく個人所有していい物ではない。ギルドみたいなプレイヤー同士の集団のためにある様な建物じゃないかな……それか傭兵で数十人規模のハーレムを形成しているようなプレイヤー。


「広すぎる……」


 フランが提案したインベントリの拡張機能、それは家を買うという手段だった。


 プレイヤーが所持できるホームにはいくつかの機能があって、その内の一つに倉庫機能がある。倉庫にはインベントリの容量を大きく超える大量のアイテムが仕舞い込め、自宅の中では自由に使うことができる中々の便利機能である。家の大きさによって倉庫の広さも区々(まちまち)だが、ここはほぼ最大規模である。

 ホームは個人所有だけではなく、ギルドというプレイヤーの集まりでも所有することができるが、その場合は共有倉庫になってしまうのでそこはちょっと不便かもしれない。家とは別に家具としてアイテム収納ボックスを購入することができるので、どうしても嫌な場合はそっちを自分の部屋に置いておくらしい。


 フランに家の購入を勧められた私は、金ならあるぞと調子に乗って、馬関連施設完備で傭兵と一緒に暮らすことができ、尚且つ鍛冶場、木工台、裁縫台、彫金台、調薬室、調理場が全部最高ランクで、今ツバキの街で売り出し中の物件を検索した。

 結果はこの通り、ここしかなかった。


 ちなみに鍛冶場などのランクは、使用できる道具の数が変わるだけで作れる物自体はあまり変わらない。調理台だけは道具が少なくて困るが、他は基本的に作業効率の問題なのだ。

 レンタルで借りられるのは中位、一個下が簡易、一個上が上位、一番上が最高位だ。基本的には上位まであれば十分だが、最高ランクの鍛冶場は一回使うともう上位には戻れないという恐ろしい場所らしい。


 調薬も料理も頑張って欲しいから最高にするとして、私の作業場はもうちょっとランク低くていいかな……。


 そんなことを思いながら再度検索をかける。一件ヒットした! と思って詳細を開けば、ここのことだった。

 倉庫目当てなのに私の作業場がないのは流石に困る。


 他の条件を変えながら色々と検索した結果判明した事実は、そもそも馬小屋付きで調薬室と調理場を最高ランクにした時点でここ確定という悲しい現実だった。


「これかぁ……」


 私はその大豪邸を前にじっと考え込む。

 その金額は……私の所持金の8割。自分で言うのも何なのだが、私はあの映し身の一件の後もちょこちょこと杖や弓を売っていたのでかなり稼いでいる。何というか、映し身の魂と違ってこっちは自分の努力が認められているようで嬉しい。ついついやってしまうのだ。

 家は相当な値段だが、それでも一括で買えてしまうのが恐ろしい。もういつものメンバーでギルドを作ってギルドホームにしちゃおうかとも考えたのだが、何と言うかお金のために集まってもらうのも忍びない。


 私は大きく深呼吸をすると、意を決して購入ボタンを押すのだった。


ここ最近は評価してくださる方が多かったのですが、ソラの話は一旦終わってゲームに戻ります。

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