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友達からの贈り物

 奇妙な盛り上がりを見せた私の誕生日会は、日もかなり西に傾いた頃にお開きとなった。

 別れ際にフランと汀さんから一つずつ、紗愛ちゃんからは4年分の誕生日プレゼントを受け取った。どうやら中学二年の頃から毎年買うだけ買って死蔵していたらしい。幸い日持ちする品ばかりなので大丈夫だと言っていた。

 あの頃の紗愛ちゃんのプレゼントは普通に開けるの怖いんだけど、少なくとも手作りお菓子とかじゃないなら大丈夫かな……。


 私は貰ったプレゼントを机の上に並べていく。

 汀さんのプレゼントは有名小説家の文庫本。贈呈用として装丁(そうてい)されており硬い表紙がとても綺麗なのだが、私は電子書籍しか読まないので本棚という物が部屋にない。昔の人は読み終わった本ってどうしていたんだろう。ちょっと扱いに困る様な……。


 フランのプレゼントは、美味しそうなケーキ……の見た目をした小物入れだ。クリームが上から垂れているような見た目をしており、そこが蓋として開くようになっている。ちょっと可愛い。私こういう美味しそうなモチーフ好きなんだな。そろそろラリマールの装備もデザイン変えたりとかしたい。能力面は新調したばかりだけど。


 そして気になる紗愛ちゃんからのプレゼントだが、中学二年生の時の物が爽やかな香りのバスソルトだった。

 これはあの事件で渡せなかった物だ。当日はコンテスト会場に先に来ていたらしく、会場でニュースを見て愕然としたらしい。あの日は運転手しか死亡したという情報は流れなかったはずだが、それでもソラは生命維持のための機械に“生かされている”だけの状態だった。命日はご両親が医師から助かる見込みがないと聞かされてその装置を停止した翌日だが、その前日も意識どころか自力で心臓を動かすことすらできない状態だったそうだ。

 あの事件の一番最初のニュースは、運転手が死亡、ソラは重体、他の部員は重軽傷、私が行方不明になった“事故”として扱われたはずなので、ウキウキ気分で大会に駆け付けた後にそのニュースを聞かされた紗愛ちゃんの心情は、推して知るべしといったところである。


 ちなみに、あの年のコンテストは予定通りに開催された。

 後で知ったことだが、優勝校の補欠部員がSNSに『インチキ学校が欠場してくれたおかげで勝てました! ありがとう、バスの運転手』と書き込んで()()となり、後に優勝が取り消されるという事件もあったので、本当に“予定通り”と言っていいのかは分からないが。

 個人的にはインチキだとかズルいとかはよく聞く類の罵詈(ばり)だったし、出場していない人間に何を言われようと知ったことではないくらいの感想なのだが、周りから見れば極めて配慮に欠ける発言に見えたのだろう。可哀想な事にアングラなネット上では私以上に個人情報が拡散されて、不細工だとか元気な赤ちゃん産みそうだとか散々言われた人物である。


 私は紗愛ちゃんから貰ったプレゼントを次々に開封していく。

 その次の年は流石に迷走したのか、数年前に流行っていたアニメのフィギュアだ。私へと言うよりも完全に紗愛ちゃんの好み。今でこそ紗愛ちゃんの影響でそれなりに分かるようになっているが、当時はあんまりこういうのに興味はなかった。

 一つ言えるのは、これを中三の命日に貰ってたら確実に捨ててたということだ。


 ……ああ、一番自棄になっていた時期も彼女は一緒に居てくれたんだな。そんなことを思い返して、笑みが零れる。いい友達を持ったものだ。


 去年のプレゼントはバニラの香りがするコンディショナー。……完全に私が今使っている銘柄と同じなのは、偶然だろうか。昔からこれ系統の物ばかり使っているのだが……。ちょっと怖い。もしかして髪の匂いとかから推測して買ってきたのだろうか。


 そして今年の物は何と、指輪である。

 小指用のピンキーリングだが、それでも重い。いや重いよ。何? 私達婚約するの?

 初めて祝う誕生日に気合を入れ過ぎたのか、それともどうせ今年も渡せないからと選んだのかは分からないが、このチョイスはない。今までのプレゼントの中で一番貰って困っている。

 幸いと言うべきか、画像検索で調べてみるとあまり高い物ではなさそうだが、普通は友達に指輪なんて送らないだろう。送らないよね? 私がおかしいのかな……。


 一応は貰ったプレゼントなので親指で右の小指に通してみるが、サイズが一回り大きい。はまらないという訳ではないのだが、小指は節も細いのでこのままではその内無くしそうである。

 普通は友達の指のサイズとか知るはずがないもんね。これが普通なのだが、ここまで来たらぴったり合わせろと無茶な要求をしたくなってしまう。


 私は大きく息を吐いて、同封されていたチェーンにリングを通す。どうやらサイズについてはある程度想定していたようだ。このままリングネックレスとして身に付けよう……あ、金属製品ってVRマシンと一緒に使えないんだったっけ。これもいつか忘れそうだな……。

 一瞬、小指よりも一回り太い指ってもしかして……という考えが頭を過ったが、流石に紗愛ちゃんでもそこまではしないと思う。……しないよな。久し振りにあの姿を見て、私がちょっと神経質になっているだけだと思いたい。


 そもそも体の左側に指なんてないしね、私。

 ……そういえば考えてなかったけど、実際私結婚指輪ってどうするんだろう。そもそも相手が居るのかと言う部分は置いておいて。やっぱりこうしてリングネックレスとして身に着けるのかな。


「……まぁ、その時考えればいいか」


 開封を終えた私はプレゼントの包装紙や、今日使った紙コップなどを片付けていく。そうして部屋の片づけが終わると、お母さんから夕食の呼び出しがかかった。いつもよりちょっと遅いかな。

 今日のご飯は何だろうか。突発的に誕生日会になってしまったが、いつもウチは特別な料理が出たりはしないんだよな。



 ***



 両親は私が誕生日を大人しく祝われたというのがとても嬉しかったようで、予想外に張り切って料理を準備していた。家族全員料理が得意という訳ではないので半分以上出前だが。

 時価というよく分からない値段の寿司や、これでもかと大量のトッピングが乗ったピザ、フライドチキンにケーキまで。いつもは食事で贅沢するタイプの家庭ではないのだが、今日はありとあらゆる場所から料理を取り寄せたらしい。


 流石に食べきれなくて明日の朝ごはんにいくつか残ったが、ケーキは別腹である。

 昼間のアイスケーキも美味しかったが、流石に値段が段違いなのか夕方のケーキは感動するほど美味しかった。最初は緊張気味だったお父さんも私の喜ぶ姿を見て安心したのか、最後は笑顔だった。食事が終わった後もフランの件でお母さんに怒られていたみたいだけど。

 美味しいケーキって甘いだけじゃないんだなぁ……いや、凄かった。フルーティってああいう風味を言うんだな。将来はパティシエと結婚したい。跪いて靴を嘗めたら結婚してくれないだろうか。甘かったら靴でも嘗めるぞ、私は。

 まぁ、現実問題として介護のような結婚生活になっちゃうから忙しい職業だと難しい部分はありそうだが。


 私は幸せな気分のままベッドに横になる。しかし、胃にかかる重力の向きが変わって逆流しそうになり、慌てて起き上がった。体調が悪いならまだしも、食べ過ぎて吐くとかあまり経験したくない。


 起き上がった視界に、あの青いハーバリウムが映る。

 それに違和感を覚えた私は、机に歩み寄ってその瓶を手に取った。


「あ、星だ」


 深い海を思わせるその花の中に、小さな星の飾りが入っていた。

 どうやら長い事この中で眠っている内に蓋にくっついていた物が、比重の関係で元の位置に戻って来たらしい。


 その姿に昨日見た流れ星を思い出し、私は今日のソラを見上げるのだった。


明日からゲームに戻ります。

期間限定イベント中のはずなんですが、結構長い事現実の話になってしまいました。

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