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大地の精霊との決闘

「カエルの岩屋のボスなのに、カエルじゃないんだね……」

「んなこと言ってる場合か!」


 慌てた泥団子が一直線に出口に向かうが、見えない壁でふさがれて出られなくなっているらしい。そのまま壁際に位置を取ると、ユリアに向かって杖を構えた。


「退路は聞いてた通りか……バフ行くぞ!」

「おうさ! 私達の初のボス戦だーい!」


 まずは攻撃パターンの解析から、と言いたいところだが既にユリアが突進している。私はと言えば泥団子の前で“何か”あった時のために構えている。


 ユリアの動きに対して巨人は緩慢ながらも対応しようと腕を振り上げる。しかし、その動きよりもユリアの方が圧倒的に速い。


 ユリアの斧が白く輝き、戦士のスキルである“重撃”が発動する。斧による渾身の一撃が巨人のお腹に叩き込まれ、


 白いエフェクトと共に斧がはじき返された。


「えっ硬っ!」

「上! ユリア!」


 私は、大きく弾かれた斧を見て呆気に取られるユリアに声をかける。その直後、巨人が勢いよく腕を振り下ろした。


「ビックリするなぁもう!」


 紙一重で直撃を免れたユリアが今度は腕に一撃。しかし結果は同じで、空しく弾き返されるだけである。


 私はこの洞窟内部の似たような敵を思い出していた。アイアンゴーレム・ミニである。

 あのモンスターは硬い体を持っていて、大抵の攻撃はああして白いエフェクトと共に弾き返されてしまう。その代わり大弱点である胸の宝石を叩けば大ダメージを与えられるのだが、この巨人にそれらしい弱点は見当たらなかった。


「私、弱点探してくるね」

「ああ。援護は任せてくれ」


 ユリアの回復を終えた泥団子が、私にも物理攻撃と防御上昇の魔術をかけてくれる。防御に関しては慰め程度でしかないが、ないよりはマシだろう。


 私はジャンプして胸部分を叩こうとしているユリアを尻目に、巨人の背後へと駆け出す。顔がないのでどちらが前で後か分からないな。


 一見人型に見えているが、このボスは実際には歪な円柱の岩に腕っぽい岩が付いているだけである。関節は繋がっているようには見えず、スケルトン以上に怪しい。


 一応背後(腕のない方向)へと回り込むことができたが、こちらにも弱点らしき部位は見当たらない。とりあえず背中を斬ってみるが白いエフェクトと共に石の剣が弾かれるだけである。


 しかし、HPゲージを見れば若干だが減っているように見える。つまり、この調子で攻撃を繰り返していればいつかは倒せるだろう……とは予想が付いた。


 私は泥団子のところまで戻ると、一応結果を伝える。


「見てきたけど背中に何かあるわけじゃなかったよ」

「となると、攻撃魔術で焼く……とかかなぁ?」


 そうなると頭の痛い話である。なぜなら魔法攻撃役はこのパーティにいない。実際には私が魔法を習得してはいるが、街に戻って転職しない限り魔法は使えない。


 まぁ、まだ叩いてない部分はある。諦めるには早い。

 私は腕の振り下ろしを紙一重で避けるユリアの隣へ駆けた。端的に言えば、巨人の腕の上に。


「腕の振り下ろし以外が遅いの、こういうことだといいなぁ……」


 そのまま腕の上を走って、石柱から出っ張っている肩の部分に乗る。

 私が巨人の頭を思い切り剣で突き刺すと、青白いエフェクトが出て、剣がいつものように通った。


「おっ、いいよ、ラクス!」


 しかし巨人は嫌がるように、腕で私を叩き潰そうと動き出す。こいつの攻撃は遅いので当たらないと思うが、落ちる瞬間だけは異様に速い。私は安全を取って肩から腕とは反対方向に飛び降りた。


 それにしても、


「青か……」


 攻撃がヒットした時のエフェクトは大体4種類。あんまり通ってないよの白、普通に通るよの青、弱点だよの黄色、大弱点だよの赤。スキルのエフェクトと混じって分かりづらくなることはあるが、通常攻撃は大体こんな感じ。


 泥団子の話では防御力が高い敵には赤エフェクトの出る大弱点が設定されていることが多いらしい。少なくとも今まで私が見てきた敵キャラクターは、すべて黄色以上の弱点を持っていた。

 しかし、あの巨人はこのセオリーが通用していない様に見える。


「……いや」


 あと一つ、叩いていない場所があった。


「ユリア! 壁際まで走って!」

「えっ? う、うん!」


 泥団子は最初から壁際にいるし、大丈夫。私を狙う巨人の腕に注意しながら、私もユリアとは反対方向の壁に駆け出す。


 そもそも私は気になっていたのだ。


 この部屋は、あの巨人があそこから動かないのだとしたら広過ぎる。巨人の腕が、出現した中央の穴から壁まで届くようには見えない。魔術師が壁際から魔法を撃っていたら無傷で勝てる、みたいなボスじゃはっきり言って欠陥品である。


 私の考えはこうだ。

 このボスは腕を振り回す以外に、壁まで届く攻撃方法があるのではないか。


 今巨人の敵意は、頭に剣を突き刺した私に向いている。つまり、壁際の私へ何かしらの攻撃を行うはずだ。


 そして、巨人は私の見越した通りに動き出す。


 さぁ、どうなる。


 巨人は両手を地面につけ、今まで直立していただけだった“頭”を下げる。当然ただの石柱なので反対側からは“底”が見えてるはずである。


「ユリア! お腹の下に何かない!?」

「ある! 殴るね!」


 話が早くて助かる。

 そして問題の巨人の行動だが、ピタリと一瞬停止したかと思った瞬間、凄まじい速度でこっちの壁へと突進してきたのだ。


「頭突き!?」


 てっきり精霊だから魔法かなんかだと思ったら、どうしようもなく物理攻撃だった。一応警戒していた私は何とか攻撃を躱す。巨人が壁にぶつかった衝撃で洞窟が揺れた。


 私はその衝撃にふらつきながらもユリアの下へ駆けつける。


 巨人のお腹の下には、私が睨んだ通りに茶色の大きな宝石が埋め込まれていた。ちょっと風の魔石に似ているかもしれない。

 そこに遠慮なく疾風剣を叩き込む。


 剣がいつも通りに通る。エフェクトは……赤弱点だ。


 スキルを混ぜつつ何度も攻撃を叩き込むユリアと私だが、巨人はすぐに元の穴の中へと戻ってしまった。攻撃が弾かれるさっきよりもずっとマシだが、それでも効率がいいとはお世辞にも言えない。


「うーん……これで一割行かないくらいかー。倒せなくはなさそうだけど、こいつ強くない?」

「強いというか、私達の攻撃力が適正じゃないのかも……?」


 二人で距離を取るように壁際まで走ろうかという時に、泥団子がこちらへ向かって声を張った。


「それはないんじゃないか? 道中苦戦しなかったんだから適正レベルだと思う」

「それにしては硬すぎない?」


 私は完全に避けているが、ユリアは結構巨人の攻撃が掠っていて体力の消耗もそれなりだ。今は泥団子の回復が間に合っているが、この調子でずっととなればこうはいかなくなってくるだろう。


「提案なんだが……」


 少しだけ近寄ってきた泥団子はそう切り出すと、私の負担が大きい作戦を告げる。


「えぇ……それ私がやるの?」

「ユリアより得意そうだったじゃないか。頼んだぜ」


 それだけ言うと泥団子は壁際まで退避する。私は嘆息するとその後を追う様に駆け出した。

 残ったユリアはと言えば、一人で巨人と対峙している。弾かれるのもお構いなしに硬い体に斧を叩きつけた。


「……この作戦、効果なかったら恨むからね?」

「安心しろ。あの特殊行動があるなら十中八九これだ。ゲーマーと制作側のお約束と言ってもいい」


 泥団子が自信満々でそう言い切ると同時に、ユリアに向かって巨人の腕が振り下ろされた。

 今度はユリアも完全にタイミングを合わせて右に避ける。


 私はそれを確認すると、再び巨人の腕を駆け上った。確かに言われてみればこの腕走りやすい傾斜してるな。


 そして肩まで登りきると、頭にもう一度剣を突き立てた。


「よし、作戦通りだな!」


 遠くで泥団子が喜んでいるのを見下ろす。それと同時に巨人の腕も動く。


 目的は私の頭上にその腕を振り下ろすため。


 しかしここは同時に、巨人自身の頭上でもある。


 動いていた腕がピタリと止まる。元々ゆっくりと動いているので、見逃してしまいそうになるユリアの気持ちも分からないでもないが、やはりこれを躱すのは簡単だろう。


 腕が止まった瞬間を見計らって、私は巨人から飛び降りる。

 その瞬間、巨人の剛腕が自身に向けて振り下ろされた。


 このゲーム、プレイヤー同士の攻撃は基本的に当たらない。だから勝手にモンスターも同士討ちや自爆をしない物だと思っていた。


 頭上に青白いエフェクトが舞い、巨人の体がぐらつく。

 そして、巨人が地に伏した。


「これでもHP減るんだ」

「よし、殴るよ!」


 私は疾風剣で大弱点であるお腹の宝石を叩く。巨人はさっきの頭突きよりも長い間倒れ、自身のHPが3割を切ったところでようやく起き上がる。


「ふん。俺の作戦勝ちだな」

「……」


 私達はもう一度巨人を気絶させて、再び弱点を斬り付ける。


 そしてついに初めてのボス“大地の精霊 プロトタイプ”を倒したのだった。


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