ある転者の回顧録
は今日もいつもの時間に同じ席に座っている。
そう、死んでしまって、色あせた世界の住人となった今でもだ。
朝は、教会で女牧師のお祈りを眺める。
お祈りが終ると、木の柵に座り村の様子をぼんやりと眺める。
いつもの時間になると、自然と妻のいる雑貨屋に座っている。
私が居なくなってからも、毎日同じ時間に妻がミルクコーヒーを用意してくれているからだ。
彼女は、3人で暮らした日々を思い出すかのようにミルクコーヒーを眺めている。
生前、兵士だった実績をかわれ村の自警団のリーダーもしていた。
たまに来る、はぐれの魔獣を追い返すことぐらいしか出来なかったが。
二人の父ちゃんのように、強くなって母ちゃんを守るんだ。
という理由で、息子が私に弟子入りした。
剣の素質が有ったようでみるみる上達していった。
女牧師が、もしかしたら魔法の素質もあるかも知るないと試してみたら、珍しい雷魔法が使えるようになった。
彼が15歳の年には、剣術のみでの模擬線ではかろうじて勝ち越す事が出来るが、魔法込みだと全く歯が立たないほど強くなっていた。
私の事を師匠と呼び、剣のみの模擬戦で全勝したら、騎士団に入って英雄になるんだと夢見ていた。
私は、剣の勇者のもとで修行すれば大成すると思い、だめもとで推薦の手紙を書いた。
幾日かたった時、事件が起きた。
魔獣の大軍がこの村に襲ってきたのだ。
女子供は、地下にある葡萄酒の貯蔵庫に避難させ、村の男総出で追い払う事になった。
土嚢を固め迎撃準備をする時間があったのが幸いした。
興奮する薬草を牧場の牛に与え、戦力とした。
牛達は、魔獣に襲いかかり半分の魔獣を追い返した。
ほとんどが、屍になってしまったが、村を守るには、仕方がないことだったと思う。
男たちは、屋根の上から爆弾を投げたり、弓攻撃をし残りの魔獣を迎撃した。
それでも、50近くの魔獣が、村になだれ込んできた。
それを、私と息子が迎え撃った。
この手の魔獣は通常二人一組で対処する。
息子は、英雄の素質があったのだろう。
雷魔法と剣術を駆使して一人で相手をしていた。
私は、雷魔法で弱った魔獣に止めをさした。
最後の魔獣に止めを刺した時息子が倒れた。
大汗をかき顔色が青白くなっている。
魔力切れの症状だった。
直ぐに動くことは出来ないが、命に別状はない。とりあえず終わったと安堵した。
地面を揺るがすような遠吠えがした。
先程の3倍はあろう魔獣が息子めがけ突進してくる。
剣を魔獣に投げ、こちらに気をそらす。
私に向かってくるのが分かった時、持っていた爆弾に火を付けた。
これで息子の命は守れる。
そして、私は彩りのない世界の住人となった。
妻はいつも、私に話しかけてくれる。
誰も座っていない椅子に話しかけているのか、ミルクコーヒーに話しかけているのか定かではないが、色々な出来事を報告してくれる。
私が自爆した後に、剣の勇者が駆けつけ息子も村人も助かったらしい。
もう少し速く来てくれれば良かったと思ったが、みんな助かったとのことだったのでまあ、よしとするか。
その後息子は、剣の勇者のもと修行をし騎士団で活躍しているらしい。
なんでも、魔王を撃退して英雄として凱旋してくるという。
大したもんだ。
悪くない人生だったな。
と思ったら、世界に彩りが生まれ、空から村を見下ろしていた。
ああ、成仏するのかなあ。
と思った時、空を見上げる妻と目があった。
私を見て微笑んでいるようだった。
今日も、良い一日でありますように。