ある転生者の独白
私たきのパンに火を通して、朝食が完成する。
たまに、牛肉の塩漬けとかが加わるが基本はこんな感じだ。
朝食を、終えたら牧場の仕事が始まる。
掃除、餌やり、牛の乳絞り。
私の収入源は牛の乳だ。
出来がいいと評判で、多少高い値がついている。
特にこれといった秘訣はないので、女神様のご利益だったのだろう。
牛の世話をして、畑を耕す。毎日同じことの繰り返したが、穏やかな毎日を過ごせて満足している。
唯一の娯楽は、店にひとつしかない雑貨屋で村人たちと飲むコーヒーだ。隠し味に牛の乳を混ぜて飲むと更に味が良くなると評判だ。
自分が誉められたような幸せな気分になったものだ。
週に一度届く情報紙を読みながら、コーヒーをすする。
この村で一番の贅沢だ。
店は、私より少し年上の女性が一人で店を切り盛りしていた。
彼女は、美人と言うわけではないが、いつも笑っている素敵な女性だった。華奢な身体なのにいつも忙しく働いていた。
彼女の旦那は元私の上司だった。私がここに住み着いたのも、彼の遺品を届る為に訪れたのが縁であった。
死に際に、家族を頼むと言われたが何をしてよいかわからなかったので、とりあえず同じ村に住んで見守る事にした。よくしてくれた上司に何か恩返しをしたいという気持ちもあったからだ。
彼女は3歳になる息子と二人で暮らしていた。
なかなか愛嬌のある奴で、無口な私にもなついていた。
生まれてすぐ、父親と別れたせいか寂しがってはいない。むしろ、自分が母親を守らなくちゃいけないんだと子供心に思っているらしい。大したもんだ。
この村の一番の収入源は葡萄酒で、秋になると、村総出で葡萄の収穫をした。
雑貨屋の女店主と同じ班になり、そのあとの収穫祭も一緒に過ごした。
食事を作ってくれたり、町へ買い出しに行ったり同じ時間を共有するようになった。一緒に過ごすのが普通になり、いつの間にか同じ家で暮らすようになった。
セピア色だった私の世界が色づいていた。
やっと、自分の居場所を見つけたのだ。
しばらくして、雑貨屋のメニューに『ミルクコーヒー』が加わったのは言うまでもない。
今日も、素晴らしい一日になりますように