四話 家族と一匹
「うめちゃんはお箸上手ねぇ」
「うむ。ママさん、これしきのこと造作も無いぞ。しかし光一よ、お前さんなかなか料理上手ではないか」
「そうなんです! お兄ちゃんのハンバーグは完璧なんです。肉汁が凄いんですよ。ポテサラも最高です」
「ほんと、忙しい時は助かるわ。ありがとう、光くん」
「うん」
うめぼしがめっちゃナチュラルに喋って食事もしているのだが、誰も突っ込まない。
仕事から帰ってきた父さんに、うめぼしをうちに置いても良いか聞くと、あっさりと許可がおりた。
まぁ父さんは母さんにメロメロだから、お願い貴方の一言で即断だった。あまつさえうめぼしがよろしくお願いすると挨拶をしたら、なかなか賢いな、の一言ですませてしまった。
自分が知らないだけで、世間にはこんな不思議生物があふれているのだろうか。多少ツッコミが入っても良いとおもうんだけど……
ん? 父さんがジッとうめぼしの方を睨みつけている。そうだよな、やっぱり気になるよな。
「あらあら、うめちゃんお弁当がついてるわよ」
「おや、お恥ずかしい。フハハハハ」
「ふふ、サーたんったら」
うめぼしのお弁当を取って口に運ぶ母さん。もしかして父さんはうめぼしに嫉妬しているのだろうか? いや、そんなまさかあんな丸っこい変なのに……
チラチラ見ていると、不器用にご飯粒を口につけようとしてる。
父さん、やめてくれ! 寡黙で真面目なイメージが崩れちゃうよ。しかし、そんな父さんのお弁当に母さんが気がつく。
「あら? 貴方ったら。フフ、ついてますよ」
「ん」
母さんが父さんのお弁当を取って食べる。なんだか、両親のこんなところを見せられるのは気恥ずかしい。夫婦円満なのは良いのかもしれないけど。
「ひゅ〜、熱いのぅ」
うめぼしが父さんに向かってサムズアップしている。まさかコイツ、計算づくだったとでもいうのか?! そしてその親指はどこから出たの? カー◯ィーみたいな手なのに。
母さんも父さんもなんか赤くなってるし、もうなんなの……そして普段は綺麗にご飯を食べる小町まで、口元にご飯粒をつけてこちらをチラチラ見ている。
やらないよ? 食べ物で遊んじゃいけないんだよ。ふるふると首を横に振ってみせると、しょんぼりとした肩を落とした小町は自分でお弁当を食べる。
「かー、光一はイケズじゃのう」
「食べ物で遊んじゃいけないの」
茶化すうめぼしを受け流す。しかし後で小町のフォローはしておこう。
「明日はお母さんとお父さんはデートに行くけど、光くんたちはどうするの?」
「前から小町が見たがってた映画に行く予定」
「お兄ちゃんとお出かけ、楽しみです」
唐突にデートに行く宣言をする母さん。父さん母さんの休みが重なる日は結構いってるしな。まだまだお熱い二人なのだ。
こちらは以前から小町にねだられてた映画に随伴だ。まぁ暇だし可愛い妹のお願いだ、否はない。
「我は?」
「いや、知らんけど」
「明日の我のお昼ゴハンは?」
「うーん、適当に?」
「えぇ、いきなりペットぎゃくたい宣言は流石の我でもちょっとひくぞ」
「こんなベラベラ喋るペットがいてたまるか」
「まぁまぁお兄ちゃん。サーたんも久しぶりの地上なので連れてってあげましょう。拾ってきた責任もあるし、ぬいぐるみのフリをしていれば大丈夫ですよ」
「おー、ヘル、小町は話がわかるではないか。さすがは我のマブダチじゃな」
おっと、意外なところから援護射撃がきたぞ。まぁ小町が良いなら構わないのだが。というか小町は大丈夫か? 地上とか言っちゃってるけど速攻でボロがでない?
すると、小町がこちらを見て話しかけてくる。
(大丈夫ですよお兄ちゃん。私が少し認識というか常識を捻じ曲げているので、母さんや父さんもサーたんのことをあまり不思議に思ってないでしょ?)
直接脳内に?! え、小町色々と大丈夫じゃないよ? シレッとヤバいことを言っているよ。そして思考を読むのはやめようね! 俺のアレコレの杞憂も無駄だったのね。
「え、でも便利ですよ? 害もないですし」
「小町、親しき中にも礼儀ありだ」
「はい……なるべくしないようにします」
なるべくかよ。信じているぞ、妹よ。
(ちなみに我もできるぞ。基本技じゃ)
(うるせえ! 黙ってろ)
食事後は小町と二人で洗い物を済ませる。仕事で疲れている両親にはゆっくりしてもらいたい。その後は風呂に入って明日にそなえ、早めに寝ることにした。
小町はうめぼしと夜の女子会をするらしい。なんだかんだで二人の仲は良いようだ。
俺も誘われたが、そもそも女子じゃないし丁重にお断りした。