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二話 説明する赤玉

「つまりはじゃな、お前さんの妹のヘルミーネと我は昔、地獄や地上でブイブイ言わせとったわけよ。それを見かねた天界がお仕置きとして、力を弱体化させるために人間の身体にヘルミーネを封じて、何度も産まれ変わって現在に至るわけ。そやつの力はちと強大での。ひっ、ごめんなさい睨まないで。ヘルミーネはか弱いプリチーな女の子です」


「よし、付け合わせもできたし、後はご飯が炊けるのに合わせてハンバーグを焼くだけだな。そろそろ父さん母さんも帰ってくるだろうし。小町、先にお風呂入るか?」


「一緒にですか? お兄ちゃんとお風呂なんて久しぶりです」


「そんな訳ないだろ。俺は後で入るから、小町先に入ってきな」


「えー、お兄ちゃんと一緒が良いなー」


「わがまま言う子はアイスなし」


「うぅ、ごめんなさい。入ってきます」


 トボトボと風呂場に向かう妹を見送る。まったく、兄離れのできない奴め。さて、包丁なんかの洗い物も済んだし、テレビでも見て休憩するか。

 適当にチャンネルをまわしてニュースを流す。うーむまた不審人物の目撃情報か。やはり小町にはきちんと戸締りするように注意する必要があるな。


「あのー、無視はやめてほしいのじゃけど……」


「あれ? まだ居たんだ。ごめんな、小町が無理言って来てもらったのに。でもそろそろ夕飯時だし、おうちの人も心配するから帰ったほうがいいと思うよ」


「いや、我も封印されているところを結構無理やり呼び出されたし、帰りたいのはやまやまなんじゃが……召喚が中途半端に終わってしまった影響で力が不十分で、自力では帰れないのだ。ヘルミーネに送ってもらわなければ帰れん」


「えーまじか。父さんと母さんへの説明が面倒だなあ。小町風呂長いしな、どうしよ。なんか無かったことにならない? 普通の日常に戻りたいんだけど」


「お前さん結構いい性格しとるの。先ほどのスルーちからと良い、地獄でもやってけそうじゃの」


 うめぼしが良く分からない理由で褒めてくる。メンタルが強いのか、ぞんざいに扱ってもあまりへこたれる様子がない。そう告げると、ヘルミーネよりはかわいいもんだと言ってくる。


「あのなぁ、あいつはヘルミーネとかいう名前じゃなくて明野小町(あけのこまち)。俺の妹なの謎の赤玉UMAはホームにお帰りください。ゴウトゥヘルなの」


「じゃから送ってもらわんとかえれんと言うのに……」


 そんな感じで赤玉とやりあっていると玄関からただいまー、と声が聞こえる。

 マズイ! 母さんが帰ってきた。赤玉をなんとかしなくては、母さんが……


「ただいま〜(こう)くん。小町ちゃんは?」


「お帰りなさい母さん。小町ならお風呂だよ。部屋に荷物置いて、一緒に入ってきたら?」


「そうねぇ、久しぶりに小町ちゃんと戯れようかしら。ところで光くん。そのお腹はどうしたの?産まれそうなの?」


「いや、ちょっと料理の味見でお腹がふくれちゃって。大丈夫。もう少ししたらひっこむから。あ、今日はハンバーグとポテトサラダだよ。うまくできたし期待してね。ちょ、舐めるなっ。ひぃ」


「なんかあやしいわねぇ。息子は母に隠し事できないものよ? 光くんの部屋の机の上から二段目の引き出し……」


(なぜ、あそこが? 光明な二重底で隠しているのに……まてブラフかもしれない)


 しかし、全てを見通しているかのような母の言葉に動揺してしまい力が抜けてしまう。封印されし赤玉が解き放たれてしまう。


「ぷはぁー、男くさい! ちょっと塩あじ」


「あ! 馬鹿野朗! 出てくるなって。つーかなんでさっき舐めた?! ペロってしただろ! 塩あじ言ってるし」


「苦しかったんじゃ。ふかこうりょくじゃ」


「いいや、明らかにペロってしたね」


 嫌がる赤玉を再封印しようと、Tシャツの中に押し込めようとする。こいつ、抵抗しやがって。暴れるな。大人しくしろ!


「光くん?……」


 はっ、マズイ。母さんが居たんだった。カバンを床に落とし、こちらへ歩いてくる母さん。バッと赤玉を奪いとられてしまう。あーあ。もう知らない。


「キャー! 何この子! かわいいわぁー。うめぼしみたい」


 うめぼしを両腕でキツく抱きしめて頬ズリする母さん。うめぼしは万力のように締め付けられ、ものすごい勢いでスリスリされている。やっぱりうめぼしだよね、カリカリのやつ。翼がまたシソの葉みたいなんだ。


「で、でりゅ……スリスリ、熱いのいやぁ」


 うめぼしが良い声でうめいている。母さんは看護師だから結構力があって、さらに無類のゆるキャラ好きなのだ。もうその手からは逃げられない。今にも口から(たね)を吐き出しそうなうめぼしに憐れみの視線を送る。

 せっかく人が何事もなくおうちに帰してやろうとしたのに、抵抗するから……


「ねぇ光くん。この子どうしたの? 名前はうめぼしで良いかしら。何を食べるのかしら」


「そうだね。うめぼしだね」


 どうやら母さんの中では、既にこの謎生物を飼うことが決定しているらしい。はぁ、とため息をつき、小町が拾ってきたことにする。地獄うんぬんの与太話を正直に話すわけにもいかない。そんな話をしたら自分も小町も病院に連れていかれてしまう。第一不思議体験をした自分だって、まだにわかには信じられないのだ。

 現実逃避だ。こいつは喋る謎生物。どこかから拾ってきたということで押し通す。

 しぶる母さんからうめぼしを奪還し、荷物を置きに部屋にいくよううながす。

 その隙に、小町とうめぼしに口裏を合わせるように伝えなくてはならない。うめぼしを小脇に抱え、急いで浴室へ向かい小町に声をかける。


「小町、ちょっと良いか?」


「お兄ちゃん? どうしたんですか? やっぱり一緒に入りますか?」


「いや、入らないけど。母さんが帰ってきたんだ。それでうめぼしが見られてな、さっき言ってた地獄うんぬんの話はしない方向で頼む。あくまでもこいつは小町が捨てられていたのを拾ってきた。そういうことにしておこう」


「分かりました。お兄ちゃんがそう言うならそうします。サーたんも、それで良いですね?」


「あの、できれば帰してくれるとありがたいんですけど」


「お前もう母さんに気に入られちゃったぞ。諦めろ。今さら居なくなったら、俺が母さんに問い詰められるだろ。だから隠してたのに暴れるから……ペロってするし……」


「だって……」


「サーたん? ペロってなんですか? お兄ちゃんのどこをペロペロしたんですか?」


 うお! 浴室からそこはかとなく冷気が。うめぼしがガクガクと震え始める。一体何が起こるんだ!


「いや、わざとじゃなくて、苦しくてもがいてたら舌が当たっちゃたっていうか……ペロペロまではしてないです」


「…………」


 返ってくるのは無言とさらに冷たくなった冷気だけだ。小町よ、これはお風呂温め直し案件では?

 これ以上お風呂が冷えてはたまらない。うめぼしの言うことも一理はあるし、ここはすこし弁護しておこう。


「まぁまぁ小町。ちょっと舌がヘソに当たっただけだから、うめぼしもわざとしたわけじゃないみたいだし」


 さらに冷気が増した。なんで?


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